相続人が行方不明のまま遺品整理を進めても大丈夫?「不在者財産管理人」と「失踪宣告」の違いをわかりやすく解説

実家の整理をしていると、古い年賀状の束や色あせた住所録の中から、何年も顔を合わせていない親族の名前が出てくることがある。「叔父はもう長いあいだ音信不通で、今どこで何をしているのか誰も知らない」という話は、遺品整理の現場では決して珍しくない。ただし、その人が亡くなった人の相続人の一人であれば、遺産分割協議はその人を除いては成立しない。連絡が取れない相続人が一人いるというだけで、実家の名義変更も預金の解約も、遺品の形見分けの前提になる遺産の分け方も、法的には足踏み状態になる。

相続人が一人でも行方不明だと、なぜ手続きが止まるのか

遺産分割は相続人全員が参加し、全員の合意がそろって初めて成立する。相続人の一人を除外したまま進めた遺産分割協議は無効であり、後から行方不明だった相続人の所在が分かれば、名義変更や解約の手続きをやり直す必要が生じる。

ここで遺品整理と直接結びつくのが、遺品を動かす・処分するという行為自体が相続財産の処分にあたり得るという点だ。行方不明の相続人がいる状態で、残りの相続人だけで実家の家財や高価な遺品を処分してしまうと、後になってその相続人から「自分の同意なしに財産を処分された」と主張されるおそれがあるだけでなく、法定単純承認が成立して相続放棄ができなくなるという別の問題も重なってくる。行方不明の相続人がいる家の遺品整理は、他の相続人の判断だけで先へ進めてよい話ではない。

「不在者財産管理人」と「失踪宣告」、何が違うのか

行方不明の相続人がいる場合の対応として法律が用意しているのは、大きく分けて二つの制度になる。一つは不在者財産管理人の選任で、裁判所の説明によれば「不在者の財産を管理、保存するほか、家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で、不在者に代わって、遺産分割、不動産の売却等を行う」ことができる制度だ。生きている可能性が高いものの居所が分からない相続人を、いわば代理人を通じて遺産分割協議に参加させる形になる。

もう一つが失踪宣告で、これは生死そのものが長期間わからない場合に、法律上死亡したものとみなす制度になる。民法30条は、生死不明の状態が続く「普通失踪」であれば7年間、戦地や沈没した船舶への乗船といった死亡の原因となる危難に遭遇した場合の「特別失踪」であれば危難が去った後1年間、それぞれ生死が明らかでないときに、利害関係人の請求により失踪の宣告ができると定めている。司法書士講座の解説別の司法書士事務所の解説のいずれも、この期間と起算点について同じ内容を示している。失踪宣告が確定すると、普通失踪では7年の期間が満了した時、特別失踪では危難が去った時に死亡したものとみなされ(民法31条)、その人は相続人ではなく被相続人として扱われることになる。つまり不在者財産管理人は「生きているものとして手続きに参加させる」制度、失踪宣告は「死亡したものとして扱う」制度であり、目的も効果もまったく異なる。生死不明の期間がまだ短く、生存している可能性を前提に手続きを進めたいのであれば不在者財産管理人、生死不明の期間が長期に及んでいるか、生存の見込みが乏しい事情があるのであれば失踪宣告を検討する、という向き合い方になる。

不在者財産管理人の選任手続きと、かかる費用

不在者財産管理人の選任を申し立てられるのは、配偶者や相続人、債権者といった利害関係人、および検察官になる。申立先は不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所で、裁判所の案内によれば、不在者の戸籍謄本や戸籍附票、財産管理人候補者の住民票、不在の事実を証する資料、不在者の財産に関する資料などを添付書類として求められる。費用としては収入印紙800円分のほか、連絡や書類のやり取りに使う郵便切手を家庭裁判所ごとの案内に沿って納める必要がある。

負担が大きくなりやすいのが予納金だ。これは選任された管理人の報酬や実費に充てるため、申立人があらかじめ納める金銭になる。業界サイトでは「30万円から100万円程度を予納させる場合が多い」「地方の家庭裁判所では20万円から60万円程度」といった目安が示されているものの、これは個別の事案や財産内容、申立先の家庭裁判所によって変わる実務上の運用であって、公的な統計として定まった金額ではない。不動産をすぐに売却する前提の申立てなど、財産が確実に換価される見込みがある場合には予納金が不要になるケースもあるとされており、金額そのものよりも「なぜその金額が求められているのか」を申立先の家庭裁判所に確認する姿勢のほうが重要になる。

誰が不在者財産管理人になるのかも、申立ての段階でよく気になる点になる。管理人になるために特別な資格は必要なく、司法書士事務所の解説によれば、申立ての際に候補者として親族を挙げること自体は可能だとされている。ただし最終的に選ぶのは家庭裁判所であり、候補者に挙げた親族がそのまま選任されるとは限らない。とりわけ、その親族自身が同じ遺産分割協議の当事者であるなど、不在者との間で利害が対立する立場にある場合には、公平性の観点から選ばれにくく、実務では弁護士や司法書士といった専門家が選任されることも少なくない。専門家が選任されれば、その報酬は先に触れた予納金から支払われることになる。

選任を申し立てる前に、遺品の中にある年賀状や住所録、古い手紙が手がかりになることもある。戸籍の附票には、その戸籍が作られた時点からの住所が記載されており、自治体の説明にもある通り、本籍のある市区町村の役場で保管されている。本籍地さえ分かれば、そこから最後に届け出られた住所の履歴をたどれる可能性があり、家庭裁判所への申立てに進む前の実務的な一歩として位置づけられている。

不在者財産管理人にもできないことがある

選任されればすぐに遺産分割協議に参加してもらえるわけではない。不在者財産管理人の本来の権限は、財産を維持するための保存行為と、性質を変えない範囲での利用・改良行為に限られる。遺産分割協議や不動産の売却、相続放棄のように財産の内容そのものを変えてしまう処分行為をするには、家庭裁判所の権限外行為許可を別途得る必要がある、というのが裁判所自身の説明でもある枠組みだ。

この許可が下りるかどうかは、不在者に不当な不利益が生じないかという観点で判断される。司法書士事務所の解説は相続放棄を例に、被相続人の財産が借金しかなく相続すれば不在者の財産をかえって減らしてしまうような事情がなければ、許可を得るのは難しいと説明している。同じ考え方は遺産分割協議にもあてはまり、不在者の法定相続分を大きく下回るような分割案では許可が下りにくい。行方不明の相続人がいる家庭で「他の相続人だけで話し合って分け方を決め、あとで管理人に判を押してもらう」という発想が通用する場面は、まずない。

遺品整理を進めるうえで気をつけたいこと

不在者財産管理人が選任されるまでには相応の時間がかかるため、その間、遺品をどう扱うかが実務上の悩みどころになる。通帳や権利証、貴金属といった不在者の相続分に関わる財産的価値のあるものは、仕分けの手順のなかでも動かさずに保管しておき、独断で処分・換金することは避けたほうがいい。遺影や日用品の形見分けについても、本来は遺産分割の内容が固まった後に行うのが筋であり、行方不明の相続人がいる段階での形見分けは、後から「自分の取り分だったものを勝手に配られた」という争いの種になりかねない。

実家がそのまま空き家になるケースでは、不在者の共有持分が残ったままだと、売却はもちろん、老朽化した建物の解体といった処分行為にも権限外行為許可が必要になり、空き家対策の面でも時間との勝負になりやすい。放置期間が長引けば特定空家に指定される可能性も出てくるため、不在者財産管理人の選任は、他の手続きより先に着手する価値がある。

もう一つ見落とされがちなのが、相続税の申告期限だ。相続の開始を知った日の翌日から10か月という期限は、相続人の一人が行方不明であっても延びない。遺産分割が間に合わない場合は、いったん法定相続分で申告したうえで、国税庁の案内にある「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、実際に分割が終わった後に更正の請求を行って特例の適用を受け直す、という手順を踏むことになる。不在者財産管理人の選任や権限外行為許可の手続きは決して短時間では終わらないため、相続税の申告期限が先に来てしまう事態は十分に起こり得る。

不在者財産管理人の仕事はいつまで続くのか

不在者財産管理人の職務は、遺産分割協議への参加だけで終わるわけではない。選任後は不在者の財産を管理し続ける立場になり、新聞の生活面の記事でも紹介されている通り、財産目録を作成して家庭裁判所へ定期的に報告する義務を負いながら、不在者本人が見つかるか、死亡が確認されるか、失踪宣告が確定するまで職務が続く仕組みになっている。遺産分割協議に参加してもらうことだけを目的に選任を申し立てても、管理人自身の職務はそこで終わらないという点は、申立てを検討する段階であらかじめ理解しておいたほうがいい。

行方不明のまま遺品や実家を動かしてしまえば、あとになって当の本人、あるいはその相続人から「同意していない遺産分割」として手続きのやり直しを求められる可能性が残り続ける。まずは遺品の中に残された住所録や年賀状、本籍地の手がかりを頼りに戸籍の附票で足取りを確認し、それでも連絡が取れないなら、家庭裁判所への申立てを含めて専門家に相談する。それが、後戻りのない形で遺品整理を前に進める最短の道筋になる。

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