内縁の夫婦で亡くなったら遺品整理はどうなる?相続権のない同居人に認められる権利と、できないこと

長年連れ添った内縁の夫が亡くなった。葬儀を終え、二人で暮らしてきた部屋の遺品を片付けようとしたとき、ふと手が止まる。婚姻届を出していない自分に、この家の物を動かす権利はあるのだろうか。通帳の名義は夫のままで、住んでいる部屋も夫名義の賃貸だ。もし前妻との間の子どもが「家を出てほしい」と言ってきたら、それを断ることはできるのか。戸籍の上では他人という立場は、目の前にある暮らしの続きを、静かに揺るがす。

1. 内縁のパートナーには、なぜ相続権がないのか

民法890条は「配偶者は、常に相続人となる」と定めているが、ここでいう配偶者は、役所に婚姻届を提出した法律上の夫婦に限られる。法定相続人になれるのは、亡くなった人の子・直系尊属・兄弟姉妹という血族と、法律上の配偶者だけであり、婚姻届を出していない内縁関係(事実婚)のパートナーは、どれだけ長く一緒に暮らしていても、この枠組みに含まれない。相続税専門の税理士法人が公開している解説でも、法定相続人となる配偶者は「法律上の婚姻関係にあった人」に限定されると明記されている。

一方、内縁のパートナーとの間に生まれた子どもの立場は別に考える必要がある。父親が認知していれば、その子は法律上の子として相続権を持つ。かつては婚外子(非嫡出子)の法定相続分が嫡出子の半分とされていたが、最高裁判所大法廷は平成25年9月4日の決定で、この差を設けた民法900条4号ただし書前段の規定を憲法14条の法の下の平等に反すると判断した。これを受けて同年12月の民法改正で当該規定は削除され、現在は認知された子であれば嫡出子と同じ割合で遺産を受け取る。法務省の民法改正に関する案内にこの経緯がまとめられている。

2. 目の前にある遺品や通帳を、内縁のパートナーが勝手に扱ってはいけない理由

亡くなった人が遺した家財・家電・衣類・通帳・印鑑は、内縁のパートナーの目の前にあっても、所有権が自動的に移るわけではない。法律上は、亡くなった人の子や親、兄弟姉妹といった法定相続人が、相続開始の瞬間からそれらの財産を共有する形になる。内縁のパートナーが独断で家財を処分したり、通帳から生活費を引き出し続けたりすれば、後から現れた相続人との間で「勝手に処分された」「使い込まれた」というトラブルに発展しやすい。高価な遺品が見つかったときにまず専門家へ確認すべき理由は、内縁の関係であっても変わらない。

相続人自身がうっかり遺品を処分すると相続放棄ができなくなる法定単純承認という制度があるが、これは法定相続人本人の行為に適用されるものであり、内縁のパートナーがこの制度で直接不利益を受けるわけではない。ただし「委任も受けていないのに家財を動かした」として、相続人から返還や損害賠償を求められるリスクは残る。相続人が誰かをまず確認し、形見として譲り受けたいものがあれば、口頭ではなく相続人の同意を書面で残しておくことが、後のトラブルを避ける現実的な対応になる。

3. 介護をしていても、「寄与分」や「特別寄与料」は請求できない

亡くなった人の療養看護に長年あたってきた場合、法定相続人であれば寄与分として遺産分割で考慮され、相続人でない親族であれば民法1050条の特別寄与料を相続人に請求できる。ところが特別寄与料の請求権者は「被相続人の親族」に限られており、司法書士講座の条文解説が示す親族の範囲は婚姻関係を前提にした概念で、内縁の配偶者はここに含まれない。相続税専門の税理士法人による解説でも、内縁の妻は寄与分・特別寄与料のいずれも対象外だと説明されている。何年介護を続けていても、制度としては報われない立場にあるからこそ、次の項目で挙げる生前の対策が意味を持つ。

4. 内縁のパートナーが財産を受け取るための方法

4-1. 生前の遺言・死因贈与・生前贈与

内縁のパートナーに財産を残す方法として最も確実なのは、生前に遺言書を作成し、遺贈する旨を明記しておくことだ。あるいは「自分が死んだら特定の財産を渡す」という契約をあらかじめ結んでおく死因贈与も選択肢になる。どちらの方法も、亡くなった人に子や親などの法定相続人がいる場合は遺留分への配慮を欠かせない。遺留分を侵害する内容の遺言・贈与であっても直ちに無効になるわけではないが、相続人から遺留分侵害額請求を受ければ、金銭で清算しなければならなくなる。

4-2. 特別縁故者として財産分与を申し立てる

亡くなった人に法定相続人が一人もいない場合は、家庭裁判所に対して「特別縁故者に対する相続財産の分与」を申し立てる方法がある。民法958条の2が根拠条文で、対象になるのは被相続人と生計を同じくしていた者、療養看護に努めた者、その他特別の縁故があった者であり、長年同居していた内縁の配偶者はこの典型例のひとつとされる。申立てができるのは、相続人を捜すための公告期間が満了してから3か月以内という期限つきで、申立先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所、必要書類は申立書と住民票などで、収入印紙800円がかかる。裁判所公式サイトの案内に手続きの詳細が示されている。相続人が誰もいない場合の相続財産清算人の選任や公告の流れは別記事で扱っているが、この制度はあくまで「相続人が一人もいない」ことが前提であり、疎遠であっても法定相続人が存在するなら使えない点には注意したい。

4-3. 内縁でも当然に認められる権利

相続権とは別に、内縁のパートナーであることが確認できれば当然に請求できる権利もある。遺族年金はその代表格で、日本年金機構は「生計同一関係・事実婚関係に関する申立書」の提出と第三者による証明などをもとに、事実婚の実態を審査する。日本年金機構の案内ページによれば、戸籍上の配偶者がいなくても、生計を共にしていた実態が認められれば遺族年金の受給対象になりうる。死亡退職金や埋葬料・葬祭費についても、勤務先や自治体・健康保険組合の規定上、内縁のパートナーが受取人として認められる場合がある。生命保険についても契約時に内縁のパートナーを受取人に指定できる保険会社は多いが、これは各社の内部基準による運用であり、法律で一律に保障された制度ではない。

5. 住んでいた家に、そのまま住み続けられるか

賃貸住宅で同居していた場合、借地借家法36条は「相続人がいないまま賃借人が死亡したとき」に限り、内縁の配偶者が賃借権をそのまま引き継げると定めている。同居していたこと、事実上の夫婦同然の関係にあったことが要件で、内縁の配偶者の側が死亡を知ってから1か月以内に賃貸人へ反対の意思を示さない限り、この承継は自動的に成立する。

一方、亡くなった人に子や兄弟姉妹といった法定相続人がいる場合、36条は使えず、賃借権はいったんその相続人が相続する。ここで内縁のパートナーが完全に住む場所を失うかといえば、そうとも限らない。最高裁判所は昭和42年2月21日の判決で、同居していた内縁の配偶者は、相続人が相続した賃借権を自分の利益のために「援用」して居住を続けることができ、賃貸人からの明渡し請求はこれを妨げないと判断した。この判例を紹介する法律事務所の解説によれば、同様の判断枠組みは内縁の夫についても示されている。持ち家で亡くなった人の単独名義だった場合は話が別だ。その不動産は相続人の所有物になるため、内縁のパートナーは法律上は退去せざるを得ない立場になりやすく、住み続けたいなら相続人との交渉が前提になる。なお、家を二人の共有名義で購入していた場合は扱いが変わる。相続の対象になるのは亡くなった人の持分だけで、内縁のパートナー自身の持分はもともと自分の財産であり、相続を経ずにそのまま残る。

6. 内縁のパートナーが財産を受け取ると相続税で不利になる点

遺言や特別縁故者の制度を使って内縁のパートナーが財産を取得できたとしても、税務上は法律婚の配偶者と同じ扱いにはならない。相続税法18条は、亡くなった人の一親等の血族と配偶者以外の人が財産を取得した場合、その人の相続税額に2割を加算すると定めており、内縁のパートナーはこの加算の対象になる。国税庁のタックスアンサーにこの規定の概要がまとめられている。あわせて、配偶者の税額軽減(いわゆる配偶者控除)や、居住用宅地の評価を大きく下げる小規模宅地等の特例も、戸籍上の配偶者や被相続人の親族であることを前提にした制度であるため、内縁関係のままでは適用できない。

7. 遺族年金や特別縁故者の申立てでは、内縁関係そのものを証明する必要がある

ここまで挙げた遺族年金の受給や特別縁故者としての財産分与は、いずれも「内縁関係にあった」という事実を、こちらから示さなければ審査してもらえない。もっとも基本的な資料は住民票で、当事者双方が市区町村役場に申し出ることで、続柄欄に「夫(未届)」「妻(未届)」と記載してもらえる。同一世帯でも続柄が単なる「同居人」のままでは、事実婚の証明としては弱いというのが相続手続きを扱う司法書士事務所の解説の見立てだ。

住民票だけで足りない場合は、賃貸借契約書に夫婦連名で署名しているか、家賃や公共料金を共同の口座から払っていたか、年賀状や結婚式の招待状を夫婦として連名で出していたかといった生活の実態を積み重ねて示すことになる。同居を始めた直後にこうした書類を整理する人は少ないだろうが、パートナーの体調に不安が出てきた段階で、住民票の続柄だけでも変更しておくと、万一のときに遺族年金や特別縁故者の審査で提出できる資料が一つ増える。

婚姻届の有無ではなく、記録として残っているかが分かれ目になる

内縁関係が長く続いていたという事実そのものは、法律上は何も自動的に保障してくれない。遺言書、死因贈与契約、生命保険の受取人指定、家庭裁判所への特別縁故者の申立て——いずれも、内縁の実態を書面や記録として残し、自分から動いて初めて意味を持つ制度ばかりだ。気持ちの整理がつかないうちは動けなくて当然だが、家の中の物を一つ動かす前に、自分がどの制度の対象になりうるかを整理しておくことが、後のトラブルを防ぐ最短の道になる。

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