遺品整理で見つかった生前贈与の記録はどうする?遺留分・特別受益・寄与分の関係をわかりやすく解説

遺品整理で通帳の記帳をさかのぼっていくと、亡くなる数年前に大きな金額の出金が続いていた時期が見つかることがある。使途を家族に確認すると、同居していた長男が住宅の頭金として受け取っていた、あるいは長年介護をしていた娘に生前贈与があった、といった事情が判明するケースは珍しくない。他の相続人からすれば「自分だけ取り分が少なくなるのは納得できない」と感じる場面だが、法律上どこまで是正できるのかは、遺留分・特別受益・寄与分という三つの制度の使い分けにかかっている。

1. 遺留分・特別受益・寄与分は、それぞれ役割が違う制度

この三つの言葉は同じ場面で登場することが多いため混同されがちだが、目的はまったく異なる。遺留分は、遺言や生前贈与によって特定の相続人や第三者に財産が偏って渡された場合に、配偶者・子・直系尊属に法律上保障される最低限の取り分を指す(民法1042条)。特別受益は、一部の相続人だけが生前に住宅資金や開業資金などの援助を受けていた場合に、それを遺産の前渡しとみなして遺産分割の取り分を調整する制度で(民法903条)、遺言の有無にかかわらず問題になる。寄与分は逆に、長年の介護や家業への貢献によって被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人の取り分を増やす制度である(民法904条の2)。生前贈与を受けた相続人がいれば特別受益、介護などで貢献した相続人がいれば寄与分の話になり、それでも遺産分割の結果が著しく偏っている場合の最後の歯止めとして働くのが遺留分、という関係になる。

2. 遺品整理で見つかりやすい「特別受益」にあたる贈与

特別受益として遺産分割の際に考慮されるのは、婚姻や養子縁組のための持参金・支度金、住宅購入や開業のための資金援助、他の子どもと比べて突出して多い学費など、「生計の資本」としての贈与にあたるものである(民法903条1項)。遺品整理の中では、贈与契約書や振込明細、贈与税の申告書控えといった書類が手がかりになることが多い。一方で、日常的な範囲の生活費援助や、常識的な金額のお祝い・お年玉のようなものは特別受益にはあたらないとされている。特別受益は主張する側に立証の負担があるため、記憶だけを頼りに「多くもらっていたはずだ」と言っても、通帳の履歴や契約書などの裏付けがなければ遺産分割の場で認められにくい。

生命保険金は原則として特別受益にあたらない

「保険金の受取人にだけ多額のお金が渡っていた」というケースで問題になりやすいのが生命保険金である。最高裁判所は決定で、死亡保険金は受取人が保険契約に基づいて固有の権利として取得するものであり、被相続人の財産を承継するものではないから、原則として民法903条の特別受益にはあたらないと判断している。ただし、保険金の額や遺産総額に占める割合、受取人と被相続人の同居や介護の実態などから見て、共同相続人間の不公平が「到底是認することができないほど著しい」といえる特段の事情がある場合には、例外的に903条が類推適用され、持ち戻しの対象になり得るとされている。

「おしどり贈与」は原則として持ち戻しの対象外

婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、他方に対して居住用の建物やその敷地を遺贈または贈与した場合には、被相続人が持ち戻しを免除する意思表示をしたものと推定される(民法903条4項、令和元年7月1日施行)。いわゆる「おしどり贈与」と呼ばれる規定で、施行日以降に行われた贈与・遺贈が対象になる。長年連れ添った配偶者が自宅の名義を生前に受け取っていたことが遺品整理で判明しても、この規定に該当すれば特別受益として持ち戻す必要はないことになる。

なお、遺品整理の中でよく話題になる形見分けの品物については、経済的価値が低いものが中心であれば特別受益として問題になることは通常ない。形見分けの進め方や相続放棄との関係については遺品の形見分けはいつ・何を渡す?で扱っている。

3. 特別受益・寄与分の主張には「10年」という区切りがある(2023年4月施行)

特別受益や寄与分は、もともと遺産分割の話し合いの中でいつでも主張できるものだった。しかし令和5年4月1日に施行された改正民法904条の3により、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割については、特別受益や寄与分を考慮した「具体的相続分」の主張ができなくなった。相続人の一人が実家の名義や預金の扱いを何年も放置しているうちにこの10年の期限を過ぎると、特別受益や寄与分を反映しない法定相続分どおりに分けるほかなくなる。ただし、10年が経過する前に家庭裁判所へ遺産分割を請求していた場合や、やむを得ない事情があってその消滅後6か月以内に請求した場合には、この制限は及ばない。

ここで注意したいのは、この10年ルールはあくまで遺産分割の話し合いにおける特別受益・寄与分の主張についての制限であり、後述する遺留分侵害額請求で生前贈与を算入できる期間(こちらも10年)とは、根拠となる条文も起算点の考え方も別の制度だという点である。「特別受益に時効はあるのか」という疑問が調べる人の間で多いのは、この二つの10年が混同されやすいことも一因になっている。

4. 介護などで貢献した相続人の取り分――寄与分・特別寄与料

被相続人の療養看護や家業の手伝いなどによって、相続人の一人が財産の維持・増加に特別の貢献をしていた場合には、寄与分としてその相続人の取り分を増やすことができる(民法904条の2)。まずは相続人どうしの協議で寄与分を定め、話し合いがまとまらなければ家庭裁判所が、寄与の時期・方法・程度や相続財産の額などの事情を考慮して金額を決める。ただし寄与分として認められる額は、被相続人が相続開始の時に持っていた財産の価額から遺贈の価額を差し引いた残額を超えることはできない。単に同居して身の回りの世話をしていた程度では足りず、報酬を受け取らずに長期間にわたって専従的に介護や家業に携わっていたといった事情が求められる点は、実際に家庭裁判所で争われる際の大きな論点になる。

この寄与分の制度は「相続人」であることが前提になるため、長男の妻など相続人以外の親族が献身的に介護をしていても、寄与分そのものは請求できない。この不公平を是正するために新設されたのが特別寄与料の制度で(民法1050条)、相続人以外の親族が無償で療養看護などを行い、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした場合に、相続人に対して金銭の支払いを請求できる。ただし、特別寄与者が相続の開始と相続人を知った時から6か月、または相続開始から1年のいずれか早い時点で請求権が消滅するため、遺品整理と並行して権利関係を確認できる時間は長くない。

5. 遺留分侵害額請求――最低限の取り分を取り戻す

遺言があっても、遺留分の請求自体は妨げられない

「全財産を長男に相続させる」といった遺言が見つかった場合でも、それだけで他の相続人が何も受け取れなくなるわけではない。遺言の内容が遺留分を侵害していても遺言そのものは有効であり、遺言どおりの分割が自動的に確定するわけではなく、遺留分を持つ相続人が声を上げて初めて是正される仕組みになっている。遺言は優先されるが絶対ではなく、遺留分侵害額請求という手段を使うかどうかは侵害された側の判断に委ねられている。

例外として、相続人を故意に死亡させた場合など重大な事由がある「相続欠格」(民法891条)や、被相続人への虐待・重大な侮辱・著しい非行を理由に家庭裁判所の審判を経て相続権を奪う「推定相続人の廃除」(民法892条)に該当すると、相続権とともに遺留分そのものも失われる。廃除の対象がもともと遺留分を持つ相続人に限られているのは、遺留分のない兄弟姉妹などは遺言だけで相続から外すことができるためである。

誰に、どれだけの遺留分が認められるか

遺留分が認められるのは配偶者・子(またはその代襲相続人)・直系尊属で、兄弟姉妹には遺留分がない(民法1042条)。割合は、相続人が直系尊属のみの場合は遺産全体の3分の1、それ以外の場合は2分の1で、これに各自の法定相続分を掛け合わせたものが個別の遺留分になる。たとえば相続人が配偶者と子1人で、相続財産と算入対象の生前贈与を合わせた基礎財産が6000万円だった場合、遺留分の合計はその2分の1にあたる3000万円になり、法定相続分どおりに分けると配偶者と子はそれぞれ1500万円を最低限受け取る権利を持つ。生前贈与を含めて実際に受け取った財産がこれを下回っていれば、その差額を遺留分侵害額として請求できる。

生前贈与はどこまで遺留分の計算に含まれるか

遺留分を算定する基礎財産には、亡くなった時点の相続財産だけでなく、一定の生前贈与も加算される(民法1044条)。相続人以外への贈与は相続開始前1年以内のものに限られるのに対し、相続人への贈与は婚姻・養子縁組のためまたは生計の資本として受けたものに限り、相続開始前10年以内まで遡って加算される。さらに、贈与をした側とされた側の双方が、その贈与によって他の相続人の遺留分を侵害すると知っていた場合には、この期間の制限自体がなくなる。遺品整理で見つかった贈与の時期が古いからといって、必ずしも遺留分の計算から除外されるとは限らない。

時効1年・除斥期間10年という二重の期限

遺留分侵害額請求権には二つの期限がある。相続の開始と、遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことの両方を知った時から1年間請求しないと時効によって消滅し、たとえこれを知らなくても相続開始の時から10年が経過すれば同じく消滅する(民法1048条)。前者は「知った時」が起算点になる消滅時効、後者は認識の有無にかかわらず進行する除斥期間で、性質が異なる。遺品整理を進める中で偏った贈与に気づいた場合、対応を悩んでいるうちに1年の期限が過ぎてしまうことも珍しくないため、判断までの時間には限りがあると考えたほうがよい。

生前に遺留分を放棄させることもできる

相続が始まる前に、推定相続人が家庭裁判所の許可を受けて遺留分をあらかじめ放棄する手続きもある(民法1049条1項)。事業を特定の子に集中して継がせたいといった生前整理の場面で検討されることがあるが、単に念書や覚書を交わしただけでは効力を持たず、家庭裁判所の許可という手続きを経なければならない。また、共同相続人の一人が遺留分を放棄しても、他の相続人の遺留分がその分増えるわけではない(同条2項)。なお、相続開始後に相続放棄をした場合は、その人は初めから相続人でなかったものとして扱われるため、遺留分侵害額請求権も自動的に失われる。これは生前に手続きを経て行う遺留分の放棄とは別の話であり、両者を混同しないことが大切である。生前の話し合いの進め方については生前整理は何から始める?も参考にしてほしい。

6. 遺品整理の段階でできること――記録を残し、対立を長引かせない

通帳の取引履歴や贈与契約書、贈与税の申告書控え、不動産の登記関係書類などは、特別受益や遺留分の話し合いになった際の重要な証拠になる。特別受益は証拠が乏しいことを理由に認められないことが多く、遺品整理の段階でこうした書類を安易に処分してしまうと、後から立証すること自体が難しくなる。高価な遺品や重要書類を独断で処分・持ち帰りしないという考え方は遺品整理で高価なものが見つかったら?でも触れたとおりで、相続放棄を検討している場合には遺品の扱い方によって法定単純承認とみなされるリスクにも注意が必要になる。

遺留分侵害額請求によって金銭を受け取った場合は、相続税の申告内容にも影響するため、遺品整理の費用と相続財産の関係と合わせて、相続税の申告期限とのタイミングも意識しておく必要がある。

特別受益や寄与分をめぐる話し合いは、金額の多寡以上に、長年蓄積してきた家族間の感情がぶつかり合う場面になりやすい。遺品整理の最中に偏りに気づいたときにまず必要なのは、感情的に問い詰めることではなく、贈与の時期・金額・使途がわかる資料を可能な範囲で確保しておくことである。話し合いで解決しない場合に弁護士や司法書士といった専門家に相談する道が用意されているのも、こうした資料が残っているかどうかによって、進め方が大きく変わってくる。

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