身寄りのない人が死亡したら遺品・財産はどうなる?相続財産清算人と特別縁故者、自治体の役割を解説

ある日、市役所の福祉課から電話がかかってきて「戸籍を調べたところ、お亡くなりになった方の親族はあなたしか見当たりません」と告げられたら、多くの人は戸惑うはずだ。長年会ったこともない親戚で、住んでいたアパートの荷物をどうすればいいのかも、そもそも自分にその部屋を片づける権限があるのかも分からない。実は、相続人がいるかどうかがはっきりしない遺品は、良かれと思って手を付けた瞬間に法的な問題に発展しかねず、自治体・家庭裁判所・相続財産清算人という複数の主体が関わる独特の手続きを経て初めて処分できるようになっている。

1. 身寄りのない人が亡くなったとき、最初に何が起きるか

賃貸住宅の管理会社や病院、民生委員など発見者が死亡を確認すると、戸籍法87条により、同居の親族だけでなく家主や家屋管理人、後見人なども死亡届の届出人になれる。届出自体は身元さえ分かれば誰にでも進められるが、その後の遺品の扱いを決めるのは「相続人が本当にいるかどうか」という一点になる。ここでいう相続人不存在とは、単に疎遠だったり連絡が取れなかったりすることではない。戸籍を出生まで遡って調べた結果、法定相続人に当たる人物が一人も見つからない場合と、見つかった相続人の全員が死亡している、または全員が家庭裁判所に相続放棄を申述した場合の両方を含む。後者のケースでは、当サイトの遺品を勝手に処分すると相続放棄ができなくなる?「法定単純承認」をわかりやすく解説で触れたとおり、相続放棄が受理される前に部屋の遺品を売ったり処分したりすると、放棄そのものが無効になるおそれがある点に注意がいる。相続人が誰もいないと確定して初めて、遺産は「相続財産法人」という扱いになり、次章以降で説明する自治体や相続財産清算人が関わる手続きに進む。

2. 遺体の引き取り手がないとき、自治体は何をするのか

2-1. 市町村長による火葬・埋葬義務(墓地埋葬法9条)

墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)9条は、死体の埋葬または火葬を行う者がないとき、または判明しないときは、死亡地の市町村長がこれを行わなければならないと定めている。身元が分かっていても引き取りを申し出る親族がいない場合にこの規定が適用されることは、地方自治研究機構が公表した自治体向けの実務解説でも確認できる。「疎遠だから遺族が対応しないだろう」という状況でも、遺体が放置されることはなく、最終的に死亡地の市区町村が火葬・埋葬を代行する仕組みがあらかじめ用意されている。

2-2. 火葬・埋葬の費用は誰が負担するのか

墓埋法9条2項は、費用の求償について行旅病人及行旅死亡人取扱法(行旅法)の規定を準用すると定めている。厚生労働省が自治体向けにまとめた「身寄りのない方が亡くなられた場合の遺留金等の取扱いの手引」(令和7年7月第2次改訂)によると、費用負担の順序は行旅法11条・生活保護法76条1項に基づき、まず故人が残した現金や預貯金(遺留金)を葬祭費用に優先的に充てることが原則で、それでも不足する場合に初めて相続人や自治体の一般会計が負担するという構造になっている。生活保護受給者だった場合は生活保護法上の葬祭扶助の枠組みが優先して使われる。つまり、疎遠な親族が突然「火葬費用を払え」と自治体から連絡を受けるのは、故人の遺留金だけでは費用を賄いきれなかった場合に限られる。

2-3. 実態はどの程度の規模か

総務省行政評価局は令和5年3月28日、「遺留金等に関する実態調査」の勧告を公表した。その結果報告書によれば、平成30年4月から令和3年10月末までの調査対象期間中、497の市区町村で墓埋法が適用された死亡事例が合計10,154件確認された。このうち遺留金があったケースは行旅法適用分で1,286件、墓埋法適用分で6,710件にのぼる一方、遺留物品(家財道具など)があった244市区町村のうち、実際に売却手続を行い売却できたのはわずか6市区町村(2.5%)にとどまり、231市区町村(94.7%)は売却できるような遺留物品がなかったことなどを理由に、売却手続自体を行っていなかった。この調査結果を受けて総務省は、関係省庁が連携して法的な枠組みを整備し、自治体への通知を徹底するよう勧告している。身寄りのない人の死は今や年間1万件規模で自治体の実務に組み込まれているというのが実態で、決して例外的な出来事ではない。

3. 部屋に残された遺品は誰が、いつ処分できるのか

3-1. 遺品を独断で処分してはいけない理由

相続人が確定するまでの間、故人の家財道具や貴金属、通帳といった遺品の所有権は、相続財産法人という形でいったん宙に浮いた状態になる。疎遠な親族だからといって、あるいは大家だからといって、誰かが独断で価値のあるものを持ち帰ったり売却したりすれば、後から現れた相続人や、後述する相続財産清算人との間で横領や不法行為が問題になりかねない。遺品整理で高価なものが見つかったら?勝手に処分しないための民法と相続税の基礎知識で触れたとおり、価値の判断がつかないものほど、まず専門家に相談して権限の有無を確認する姿勢が欠かせない。

3-2. 賃貸住宅で孤立死があった場合、大家はどう動けばよいか

もっとも実務で問題になりやすいのが賃貸住宅のケースだ。相続人が不明または不存在のまま入居者が亡くなると、賃貸借契約も残置物の所有権も宙に浮き、大家は契約を解除することも部屋の荷物を処分することもできず、次の入居者を募集できない状態が長期化しやすい。この問題が単身高齢者への「貸し渋り」を招いているとして、法務省と国土交通省は令和3年6月7日に「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を公表した。これは入居者が生前に、推定相続人や居住支援法人などを「受任者」として指定し、自分が亡くなった後の賃貸借契約の解除事務と、残置物のうち換価できるものは売却を試み、それ以外は廃棄する事務をあらかじめ委任しておく契約のひな形だ。相続人の有無がはっきりしないまま部屋が塩漬けになる事態を、契約という形で生前に防ぐための仕組みである。孤独死そのものの発見後の清掃や特殊清掃業者との関わり方は、孤独死の遺品整理と特殊清掃はどう違う?国土交通省ガイドラインからみる注意点で扱っているので、そちらも合わせて確認してほしい。

3-3. 自治体が遺留物品を保管・処分する基準

相続財産清算人が選任されるまでの間、自治体が一時的に遺留物品を預かることも多い。前出の厚生労働省の手引きによると、保管期間は自治体ごとの規程によって幅があり、事例では60日程度の短いものから10年程度に及ぶものまで様々だという。ただし、生鮮食料品のように滅失・毀損のおそれがあるものや、日用雑貨のように保管に不相当な費用や手間がかかるものについては、期間内であっても早期に処分してよいとされている。売却する場合は地方自治法234条に基づく競争入札が原則だが、金額が小さいもの(市町村では50万円以下が目安)については随意契約によることも認められている。「自治体だから何年も勝手に保管してくれる」わけではなく、実務上は換価価値のないものから順に、比較的早く処分されているのが実情だ。

4. 相続財産清算人が選任されるとどうなるか

4-1. 「相続財産管理人」から「相続財産清算人」への改正

令和3年に成立した民法等の改正法により、令和5年4月1日から相続人不存在の場合の手続きが変わり、それまでの「相続財産管理人」は「相続財産清算人」という名称・制度に変更された。変わったのは名前だけではない。改正前は相続人捜索の公告に先立って2か月を下らない期間の債権者向け公告を別途行う必要があったが、この二段階の手続きは整理され、相続人捜索の公告期間を6か月を下らない期間として一本化する形に簡略化されたとシティユーワ法律事務所の解説は説明する。制度の骨格は維持しつつ、家庭裁判所と申立人双方の手続き負担を軽くする改正だった。

4-2. 誰が申し立て、費用はどれくらいかかるのか

相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申し立てられるのは、利害関係人または検察官に限られる。遺品整理の文脈で利害関係人に当たり得るのは、故人にお金を貸していた債権者のほか、前述した大家、特別縁故者になろうとする者、共有不動産の共有者などだ。申立てに際しては予納金の納付が必要で、ベストロイヤーズ法律事務所の解説では数十万円から100万円程度が相場とされ、現金や預貯金が中心の遺産であれば低めに、取り壊しが必要な古家や売却しにくい土地が含まれる場合は高めになる傾向があるという。予納金は最終的に相続財産の中から清算人の報酬や手続き費用に充てられ、財産に余りがあれば申立人に還付されるが、遺産が少なければ戻ってこないこともある。申立てから選任まではおおむね1か月程度、そこから相続人捜索の公告(6か月以上)、債権者への請求申出の催告(2か月以上)を経るため、全体の手続きは少なくとも半年から1年近くかかると見ておく必要がある。

4-3. 清算人は遺品や不動産をどこまで扱えるのか

選任された相続財産清算人は、相続財産を占有・管理しながら、債権者や受遺者への弁済に必要な範囲で不動産の売却や預貯金の解約、動産の換価処分を行う。遺品整理の実務としては、清算人が家庭裁判所の許可を得たうえで自宅内の家財を整理し、価値のあるものは換価し、そうでないものは処分するという流れをたどることになる。疎遠な親族が個人の判断で手を出すよりも、清算人という第三者が法的な権限に基づいて対応することで、後々のトラブルを避けられる仕組みになっている。

5. 特別縁故者として財産を受け取れる場合がある

5-1. 認められる3つの類型

相続人が最終的にいないと確定しても、故人と特に深い関わりがあった人には、家庭裁判所への請求により財産の分与を受けられる道がある。民法958条の2第1項は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者に対し、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができると定めている。内縁関係にあった人、長年身の回りの世話を続けた友人・知人、事実上の親子同然の付き合いがあった人などが典型例として想定されている。

5-2. 申立期限は延ばせない「除斥期間」

ここで見落とされがちなのが期限の厳しさだ。民法958条の2第2項は、この請求を第952条第2項の期間、つまり相続人捜索の公告期間の満了後3か月以内にしなければならないと定めている。この3か月という期間は時効のように中断や停止が認められる「消滅時効」ではなく、期間が過ぎれば理由の如何を問わず一切請求できなくなる「除斥期間」だ。相続財産清算人の選任から数えると早くても9か月前後が経過した時点で申立ての締め切りが来る計算になるため、「気づいたときには手遅れだった」という事態を避けるには、清算人の選任や公告の状況を早い段階から把握しておく必要がある。

5-3. 分与されなかった財産は国庫に帰属する

特別縁故者への分与が認められなかった財産、あるいは分与後になお残った財産は、民法959条により最終的に国庫に帰属する。誰も名乗り出ないまま長年放置された空き家や預貯金が、最後には国のものになるという結末は、身寄りのない人の遺産に特有の帰着点だといえる。

6. 生前にできる備え:死後事務委任契約という選択肢

ここまで見てきた自治体・家庭裁判所・相続財産清算人という一連の手続きは、いずれも本人が亡くなった後に周囲や行政が動かざるを得なくなってから始まるものだ。身寄りが少ない人自身が生前にできる備えとしては、葬儀の手配や行政への届出、賃貸住宅の解約、遺品整理、さらにはスマートフォンやサブスクリプションの解約といった死後の事務を、信頼できる第三者にあらかじめ委任しておく死後事務委任契約がある。任意後見契約は本人の判断能力が低下した「生前」の財産管理を対象とするため、死亡と同時に効力を失い、葬儀や遺品整理までは原則カバーしない。この空白を埋めるのが死後事務委任契約であり、公正証書で結んでおけば、相続人がいない場合でも受任者が速やかに動ける。生前整理やエンディングノートの考え方については生前整理は何から始める?エンディングノートと遺言書、家族との話し合いを解説を、スマートフォンやオンラインサービスの整理についてはデジタル遺品とは?スマホのロック解除・サブスク解約・暗号資産の相続で家族が困らないための備えを参考にしてほしい。

身寄りの有無がはっきりしない遺品を前にしたときにまずやるべきことは、部屋の荷物に手を付けることではなく、戸籍を遡って相続人の存否を確定させる作業だ。その一歩を飛ばして「誰も文句を言わないだろう」と判断してしまうことが、後から現れた相続人や相続財産清算人との間でのトラブルの火種になる。

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