遺留分を請求したいときは何をすればいい?内容証明郵便から調停・訴訟までの流れと、支払われないときの対処法

遺言書を確認すると、「全財産を長男に相続させる」と書かれていた。次男である自分の取り分はほとんどない。遺留分を請求できることは知っていても、実際に何をすればいいのか、誰にいつまでに何を送ればいいのかが分からないまま、時間だけが過ぎていく――こうした相談は珍しくない。遺留分侵害額請求は、金額を口にする前に、まず「請求する」という意思表示を書面で残すことがすべての出発点になる。

1. 遺留分侵害額請求は、訴訟を起こさなくても行使できる

遺留分侵害額請求権は、相手方に対して「請求する」という意思表示をした時点で発生する金銭債権であり、家庭裁判所や地方裁判所に訴えを起こさなければ行使できない権利ではない。この権利は2019年(令和元年)7月1日に施行された民法改正で大きく姿を変えており、改正前の「遺留分減殺請求」では遺贈や贈与された不動産そのものの返還や共有持分の移転を求める仕組みだったのに対し、改正後は侵害された金額に相当する金銭の支払いのみを求める権利になった。施行日前に開始した相続については、附則により「なお従前の例による」とされ、旧制度の遺留分減殺請求が適用される。誰がどれだけの遺留分を持ち、生前贈与がどこまで計算に含まれるかという算定の基本的な考え方は遺品整理で見つかった生前贈与の記録はどうする?で扱っているので、本稿では実際に何をどう進めればよいかという手続きの流れに絞って説明する。

2. まず送るべきは内容証明郵便――口約束で終わらせないために

遺留分侵害額請求権の行使は、理屈のうえでは口頭で伝えるだけでも成立する。それでも実務上は必ず内容証明郵便(配達証明付き)で送るのが原則になっている。理由は時効との関係にある。この権利は、相続の開始と、遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことの両方を知った時から1年で時効によって消滅する(民法1048条)。話し合いに時間がかかりそうな場合、口頭でのやり取りだけでは「いつ請求の意思を伝えたか」を後から証明できず、1年が過ぎてから「聞いていない」と争われるリスクが残る。内容証明郵便を送ると、法律上は「催告」(民法150条)として扱われ、送付した時点から6か月間、時効の完成が猶予される。ただし、この猶予期間中にもう一度催告を送っても、二度目の猶予効果は発生しない(同条2項)。6か月以内に、後述する調停の申立てなど、時効を確定的に止める手続きに進む必要がある。

宛先は誰になるか

請求の相手方は、遺贈や生前贈与によって遺留分を侵害する財産を受け取った受遺者・受贈者本人である。遺言執行者が選任されている場合、遺言執行者は遺贈の履行など遺言内容を実現する職務を担うが、遺留分侵害額の金額をめぐる話し合いは、あくまで請求する権利者と、財産を受け取った受遺者・受贈者との間で行われる。遺言執行者がいる場合の遺産の扱い方については遺言執行者がいると遺品整理はどう変わる?で解説している。受遺者と受贈者の両方がいる場合はまず受遺者が優先して負担し、贈与が複数ある場合は相続開始に近い時期の贈与を受けた人から順番に負担する(民法1047条1項)。

何を書けば足りるか

意思表示は権利者の一方的な行為で足りる「形成権」の行使であるため、この段階で金額まで確定させて記載する必要はない。「被相続人〇〇の相続について、遺留分侵害額請求権を行使する」という趣旨と、被相続人の氏名・死亡日、差出人と受取人、日付を明確にしておけば足りる。金額の算定には財産や生前贈与の調査が必要になるため、内容証明郵便の時点では権利を行使した事実と日付を残すことを優先し、具体的な金額の交渉はそのあとに進めても遅くはない。

権利者が請求する前に死亡していたらどうなるか

遺留分を持つ人が、請求の意思表示をしないまま亡くなってしまうケースもある。遺留分侵害額請求権は、権利者本人にしか行使できない「一身専属権」ではないと考えられており、権利者が行使する前に死亡した場合には、その相続人が請求権を承継して行使することができる。たとえば祖父の遺言で叔父に全財産が渡り、それに納得していなかった父が請求しないまま亡くなった場合、父の相続人である自分がこの権利を引き継いで行使できることになる。ただし、1年の時効の起算点は父が知った時点のままであることが多く、承継したからといって時効が新たに動き出すわけではない点には注意がいる。

意思表示をしても、その後に発生する金銭債権には別の時効がある

内容証明郵便によって1年の時効を止めれば安心、というわけではない。意思表示によって遺留分侵害額請求権そのものは消滅を免れるが、その結果として発生する「具体的な金額を支払え」という金銭債権自体は、通常の債権と同じく、権利を行使できることを知った時から5年で別に消滅時効にかかる(民法166条1項)。意思表示さえしておけば時間をかけて話し合ってよい、と考えてしまうと、今度はこの5年の期限を意識しないまま合意や訴訟が長引き、請求自体ができなくなる事態にもなりかねない。内容証明郵便はあくまで最初の一歩であり、そのあとの交渉や調停・訴訟も一定のペースで進める必要がある。

3. 話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所の調停

内容証明郵便を送っても相手が応じない、あるいは金額で折り合わない場合、次の手段は家庭裁判所の調停である。遺留分をめぐる紛争は家事事件手続法257条1項により、いきなり訴訟を起こすことができず、先に家事調停を申し立てなければならない(調停前置主義)。ただし、相手方が話し合いそのものに応じる見込みがないなど、裁判所が調停に付することを相当でないと判断した場合には、この限りではない(同条2項)。申立先は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意した家庭裁判所で、収入印紙1,200円分と連絡用の郵便切手を用意する。なお、遺産分割そのものが相続人間でまとまらない場合の調停・審判については遺産分割協議がまとまらないと遺品整理はどうなる?で扱ったが、遺留分侵害額請求の調停はこれとは別の手続きであり、遺産分割の話し合いと並行して進めることもできる。

4. 調停が不成立なら、あらためて地方裁判所・簡易裁判所へ

調停で合意に至らず不成立(不調)になった場合、自動的に訴訟へ切り替わるわけではなく、請求する側が改めて訴えを提起する必要がある。管轄は、請求する遺留分侵害額が140万円以下であれば簡易裁判所、140万円を超えれば地方裁判所になる。訴状には請求の趣旨と、算定の根拠になる財産の内容を記載し、贈与契約書や預金の取引履歴、不動産の評価資料などを証拠として添付する。調停の段階で提出した資料をそのまま使えることも多いため、調停の時点から証拠になりうる書類を整理しておくと後の負担が軽くなる。

5. 金額の算定で最も揉めやすいのは不動産の評価

基礎財産にどこまでの生前贈与が含まれるか、遺留分の割合がどう決まるかという計算の基本部分は遺留分・特別受益・寄与分の関係で説明したとおりだが、実際の話し合いで意見が割れやすいのは不動産の評価額である。現金と違って不動産には一つの「正解」の金額があるわけではなく、相続税の申告で使う路線価や固定資産税評価額と、実際に売買される時価との間には差が生じる。当事者双方が評価額で歩み寄れない場合は、不動産鑑定士による鑑定評価を取得し、それをもとに交渉や調停・訴訟を進めることになる。鑑定費用は数十万円単位になることもあり、請求額が小さいケースでは鑑定費用が見合わないという判断もありうる。

6. 相手が「今すぐには払えない」と言ってきたら――期限の許与

2019年の改正で遺留分侵害額請求が金銭請求に一本化された結果、請求を受けた側は不動産などの現物ではなく、まとまった現金を用意しなければならなくなった。遺産の大半が自宅などの不動産で、すぐに現金化できない場合、支払い義務を負う受遺者・受贈者の側から裁判所に対して、支払いの猶予を求めることができる(民法1047条5項)。裁判所は、不動産を売却して資金を用意するのに要する期間などの事情を考慮したうえで、支払いの全部または一部について相当の期限を許与することができ、その期限が来るまでは履行遅滞(遅延損害金が発生する状態)にはならない。この制度はあくまで請求された側を保護するためのものであり、請求する側から使うことはできない。

7. 弁護士を立てずに進めることはできるか

内容証明郵便の送付や調停の申立ては、本人が行うことも制度上は可能である。実費は内容証明郵便の送付費用(1,500円前後)と調停の印紙代程度で済む。ただし、相手方との交渉や、金額の算定根拠を主張して調停委員を説得すること、訴訟になった場合の代理人業務は、司法書士では書類作成の代行にとどまり、交渉や代理人としての出席は弁護士だけに認められた業務になる。弁護士費用は依頼した側が自分で負担するのが原則で、勝訴しても相手方に弁護士費用を請求できる制度は基本的にない。すでに関係がこじれている、相手が弁護士を立てている、といった事情があれば、早い段階で相談したほうが結果的に時間の節約になることが多い。

8. 調停調書や判決があっても支払われないときは強制執行

調停が成立して調書が作成された場合や、訴訟で支払いを命じる判決が確定した場合、これらは「債務名義」として扱われ、相手が任意に支払わなくても強制的に取り立てる手続きに進むことができる。相手の預貯金口座や給与、不動産などの財産を調べたうえで裁判所に強制執行を申し立てると、預貯金や給与の差し押さえ、あるいは不動産の競売といった形で回収を図ることになる。ただし、相手にめぼしい財産がなければ強制執行をしても回収できないという現実的な限界もあるため、調停や訴訟の段階で相手の資力をある程度把握しておくことが、その後の見通しを立てるうえで役に立つ。

9. 金銭を受け取った・支払ったら、相続税の申告に影響する

遺留分侵害額請求によって支払うべき金額が確定すると、相続税の申告内容にも影響が及ぶ。すでに相続税の申告を済ませていた受遺者・受贈者側は、支払うべき金額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内に「更正の請求」をすることで、納めすぎた相続税の還付を受けられる。逆に、金銭を受け取った遺留分権利者側は、相続税の申告期限までに金額が確定していなければ、確定した時点で修正申告や期限後申告を行うことになる。相続税全体の申告期限や、遺品整理にかかった費用と相続財産の関係については遺品整理の費用は相続財産から払える?でも触れているとおりで、遺留分の話し合いが長引くと相続税の手続き全体のスケジュールにも影響が及ぶため、時期を意識しておく必要がある。

10. 請求を受けた側にも、争う余地はある

内容証明郵便が届いたからといって、相手の言い値をそのまま認めなければならないわけではない。実際に相続や遺留分を侵害する贈与・遺贈があったかどうか、算定の基礎になる財産の範囲や評価額が適正か、相手がすでに特別受益にあたる贈与を受けていて遺留分の計算に影響しないか、そもそも1年の時効や10年の除斥期間が過ぎていないかは、それぞれ争いうる点になる。また、相手が推定相続人の廃除や相続欠格に該当する事情があれば、遺留分そのものが認められない場合もある。金額に納得できない場合は、根拠を示さずに拒否するのではなく、算定の前提になっている財産の内容や評価額について、資料をもとに反論することが交渉や調停を有利に進める近道になる。

遺留分の話し合いは、感情的な対立が先に立ちやすい分野でもある。金額の交渉に入る前に、まず内容証明郵便で意思表示を残し、時効の起点をはっきりさせておくこと――それが、その後の調停や訴訟をどう進めるかよりも先に押さえておくべき一手になる。

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