遺品整理でスプレー缶が大量に出てきたら?「穴を開けない」が今のルールになった理由と、自治体ごとに違う出し方

洗面所の引き出しや台所の収納から、使いかけの殺虫剤や制汗剤、ヘアスプレーの缶が次々と出てくる。実家の遺品整理では珍しくない光景だが、缶の多くは中身が残っていて、普通のごみ袋にそのまま入れていいのか迷う。かつては「穴を開けてガスを抜いてから捨てる」のが常識だったが、今はむしろ穴を開けてはいけないという自治体が増えている。なぜルールが変わったのか、その答えを知らずに作業を進めると、思いがけない事故につながる。

スプレー缶を「不燃ごみ」のつもりで出すと収集車が燃える

遺品整理で出てきたヘアスプレーや制汗剤、カセットボンベ入りの殺虫剤を、燃えないごみだからと不燃ごみの袋にまとめて入れてしまう人は少なくない。だが中身の入ったスプレー缶は、収集車の中で他のごみと一緒に圧縮される過程で破裂し、漏れ出したガスに摩擦や静電気で火がつく。千葉市は、小型充電式電池・スプレー缶・カセットボンベ・使い捨てライターを収集車火災の主な原因として挙げ、分別が不十分なスプレー缶が圧縮による発火や漏れたガスへの引火を引き起こすと注意を呼びかけている(千葉市「ごみ収集車の発火事故が多発しています」)。東京都文京区では2022年5月19日、不燃ごみの収集車両で火災が発生し、原因と思われるスプレー缶が荷台から見つかったことを公表している(文京区「ガスが残ったスプレー缶をそのまま不燃ごみとして出すのは危険です」)。火がついた収集車はその場でごみを道路に広げて消火する必要があり、収集作業が止まり、周辺への延焼の危険も生じる。遺品整理で出てくるスプレー缶は、一軒分をまとめて処分する分だけ量もまとまりやすく、これがそのまま収集車火災のリスクを高める側面になる。

「穴を開けて捨てる」が今は危険とされる理由

以前は、スプレー缶やカセットボンベは穴を開けてガスを抜いてから出すよう指導する自治体が一般的だった。この指導が見直される直接のきっかけになったのが、2018年12月に札幌市で起きた爆発事故である。処分のために屋内で大量のスプレー缶に穴を開けてガスを抜いていたことが原因とみられる爆発が発生し、建物が損壊、40人以上が負傷した(J-CASTニュース「換気していれば爆発防げたのか」)。環境省はこの事故を受けて同年12月27日、都道府県・政令市に対して「廃エアゾール製品の処理における爆発事故防止対策の徹底について」という通知を発出した(環境省通知(平成30年12月27日))。この通知では、平成9年に業界団体が策定した「事業者によるエアゾール製品の安全廃棄処理指針」の周知も改めて求められており、スプレー缶の安全な処分は30年近く前から事業者レベルでは課題になっていたことがうかがえる。その後も同種の事故が起きたことを受け、環境省は2023年1月19日にも「廃エアゾール製品等の排出時等の事故防止のための周知徹底について」という事務連絡を各自治体に出し、住民が穴を開けずに中身を出し切ってから廃棄できる体制の整備を求めている(環境省事務連絡(令和5年1月19日))。穴を開ける作業そのものが、密閉された室内や、刃物と金属がこすれる場所での発火の原因になり得るため、環境省は穴を開けずに出し切ることを繰り返し求めている。

中身を使い切るときに知っておきたい調査結果

国民生活センターが2020年に公表した調査では、スプレー缶の中身が可燃性のガスを含むことを2割以上の人が認識しておらず、缶の底についているガス抜き用のキャップの存在を知らない人が6割近くに上った(国民生活センター「スプレー缶製品・カセットボンベによる事故の防止策」)。同調査は、キッチンで中身を出し切ろうとして、コンロの火で引火した事例も紹介している。遺品整理で見つかるスプレー缶は未開封や使用途中のものが多く、まとめて処分しようとすると量も多くなる。屋外の風通しのよい場所で、火の気がないことを確認してから、少しずつ出し切る。室内、特に火を使うキッチンでは絶対に行わない。一度に大量の缶を同じ場所で処理すると、周囲にガスが溜まりやすくなるため、何度かに分けて作業する。古くなって製造年が読み取れないスプレーほど、中にどれだけガスが残っているか見た目で判断しづらい点も見落とされがちである。

自治体ごとに分別区分と確認窓口が違う

スプレー缶の分別区分は自治体によって異なる。鹿児島市は「資源物」として、電球や乾電池と同じ区分で収集している(鹿児島市「スプレー缶の正しい処分方法」)。一方、文京区のように「不燃ごみ」として扱いつつ、他のごみと分けて「キケン」と表示することを求める自治体もあり(前掲)、中身を使い切れない場合に収集職員への直接の手渡しを認めるかどうかも自治体ごとに判断が分かれる。神奈川県藤沢市は「穴をあけずにごみの日に出してください」としたうえで、分別方法は自治体によって異なるため不明点は消防局予防課へ問い合わせるよう案内している(藤沢市「スプレー缶の処分方法」)。つまり消防署は多くの地域でスプレー缶そのものを引き取る窓口ではなく、出し方についての相談先という位置づけになる。遺品整理で出るスプレー缶の量がまとまっている場合は、分別区分だけでなく、一度に出せる本数の上限や収集日が通常の不燃ごみと異なるかどうかも、作業前に自治体のごみ分別ページで確認しておくと、出し忘れや収集員とのトラブルを避けられる。

スプレー缶以外にも遺品整理で出てくる「処理困難物」

遺品整理では、スプレー缶と似た注意が必要な品が他にも出てくる。使い捨てライターやカセットボンベも、千葉市が収集車火災の原因として名指ししている品で、中身を使い切ってから「キケン」と表示するという対応が共通する。消火器は、スプレー缶とは異なる専用の処分ルートが必要で、自治体も消防署も引き取らないケースが多い(遺品整理で古い消火器が見つかったら?)。古いエアコンや灯油を使う暖房器具のような家電リサイクル法対象品は、スプレー缶とはまったく別の仕組みで処分する必要がある(遺品整理で出た家電はどう処分する?)。携帯電話やデジタルカメラに内蔵された充電式電池も、圧縮や衝撃で発火する危険があり、スプレー缶と同じく不燃ごみに混ぜず別回収を使う必要がある(遺品整理で出た携帯電話や古いデジカメはどう処分する?)。危険物をまとめて一度に判断せず、品目ごとに処分先が異なる点を踏まえて進める。

自分で処分しきれない量なら、業者に頼む前に確認すること

スプレー缶や危険物が極端に多く、自分での持ち出しが難しい場合は業者に依頼する選択肢もある。その場合でも、一般ごみとして収集運搬できるのは市区町村の許可を得た一般廃棄物処理業者に限られ、許可のない業者が「まとめて何でも回収します」と持ちかけてきても、本来は適法に引き取れる立場にない(遺品整理と廃品回収は何が違う?)。遺品整理の作業量自体を自分で担えるかどうかの判断基準は、別記事でも整理している(遺品整理は自分でできる?)。危険物を含む遺品の処分可否は、見積もりの段階で品目ごとに業者へ確認しておくことが、後からの追加費用やトラブルを防ぐ唯一の方法になる。

この記事をシェアする

記事一覧へ戻る

コメント Comments

コメント一覧

コメントはありません。

コメントを残す

関連記事 Relation Entry