押入れの引き出しの奥から、ガラス管に銀色の液体が入った古い体温計と、腕に巻くタイプの血圧計が並んで出てきた。蛍光灯スタンドのほうは、交換済みの古い蛍光灯だけが紙に包まれて棚の隅に置かれている。「燃えないごみには出してはいけない」と聞いた覚えはあるが、実際どう処分すればいいのかは分からない。これらに共通しているのは内部に水銀が入っていることで、普通の不燃ごみに混ぜて出すと、自治体によっては収集自体を断られることがある。
水銀を使った製品だけが、なぜ別扱いになるのか
水銀は常温でも蒸発する重金属で、吸い込むと神経系に影響を及ぼすことが知られている。ごみとして焼却されたり埋め立てられたりすれば、大気や土壌に広がっていく。この水銀による汚染を世界的に減らすため、2013年に熊本市・水俣市で開かれた外交会議で「水銀に関する水俣条約」が採択された。日本はこれを受けて「水銀による環境の汚染の防止に関する法律」(水銀汚染防止法)を制定し、条約の効力発生と同じ2017年8月16日に施行している。
条約は、水銀を使うことが分かっている製品について、新規の製造・輸出入を段階的に禁止するスケジュールも定めた。一般照明用の蛍光ランプのうち一定の規格のものは、2020年以降、新たな製造・輸出・輸入が認められなくなっている。水銀体温計・水銀血圧計についても、2021年1月1日以降は新規の製造・輸出入が禁止された。この日付は日本医療機器産業連合会の案内でも同じく示されている。
ここで誤解しやすいのは、規制の対象が新規の製造・流通であって、すでに家庭にある製品の所有・使用そのものではない点だ。遺品整理で見つかった古い蛍光灯や水銀体温計・血圧計を、今すぐ処分しなければ違法になるという話ではない。問われるのは、捨て方を誤って水銀を環境中に漏らしてしまわないかどうかである。
蛍光灯は「割れていないか」で出し方が変わる
多くの自治体では、蛍光灯(直管・丸型・電球形)は不燃ごみや埋立ごみとして収集されるが、割れているかどうかで出し方が変わる。割れていない蛍光灯は、購入時のケースに入れるか新聞紙などで包み、ほかの不燃ごみと分けて出すのが基本だ。神戸市のように、市内の家電量販店など約130か所を協力店とした無料の拠点回収を設けている自治体もあり、不燃ごみの収集日を待たずに持ち込める(一度に出せる本数に上限があることが多い)。福岡市も、区役所や家電量販店・ホームセンターに設置した回収ボックスでの拠点回収を案内している。
割れた蛍光灯は、多くの自治体で拠点回収の対象から外れる。神戸市の案内では、割れた蛍光管は新聞紙などに包み、指定袋に「キケン」と表示したうえで、通常の不燃ごみとして出すよう求めている。千葉市も「危険防止の処置をしてから不燃ごみで出す」よう案内しており、割れている・割れていないに関わらず、他のごみと中身が直接触れ合わないように包むという基本は共通している。
見分けにくいのが、同じ形をしたLED照明との違いだ。神戸市の案内によれば、品番が「LD」で始まるものや、本体・パッケージに「直管型LED」「蛍光灯型LED」といった表記があるものはLEDであり、水銀を使っていないため蛍光灯とは別の分別区分になる。遺品整理で複数の照明器具をまとめて片付けていると、交換時期の違う蛍光灯とLEDが混在していることが多く、見た目だけで判断せず型番を確認したほうがいい。
水銀体温計・水銀血圧計は自治体によって対応がまったく違う
蛍光灯より判断に迷うのが、水銀体温計・水銀血圧計だ。大阪府が府内市町村を対象に行った調査では、蛍光管を回収している市町村は約70%だったのに対し、水銀体温計・温度計・血圧計を回収している市町村は約60%にとどまっている。住んでいる自治体によっては、通常の家庭ごみのルートで水銀体温計・血圧計を出せない可能性があるということだ。
回収の仕組みも自治体ごとに大きく異なる。東京都港区は「みなとリサイクル清掃事務所」に連絡すると、職員が自宅まで訪問して個別に回収する方式をとっている。一方、目黒区では中身の見える袋に入れて「水銀体温計・水銀血圧計」などと表記し、月2回ある「燃やさないごみ」の収集日のうち指定された1回に出す運用になっている。同じ東京都内でも区によって手順が違う。
なぜここまで慎重に扱われるのか。環境省がまとめた資料では、血圧計の国内向け出荷実績を1台あたりの水銀量50gとして算出しており、蛍光灯1本と比べてまとまった量の水銀を内部に抱えていることがわかる。遺品整理で複数の体温計・血圧計がまとめて見つかることもあり、割れたり壊れたりすれば、その分の水銀が一度に漏れ出る可能性がある。
自治体が引き取ってくれない場合にできること
まずは住んでいる自治体の清掃事務所や環境課に、品目名を挙げて直接問い合わせるのが確実だ。ごみ分別のページだけでは水銀体温計・血圧計の扱いが載っていないこともあり、電話で聞いたほうが早く正確な答えが得られる。
蛍光灯であれば、購入した家電量販店やホームセンターの店頭回収を利用できることが多い。前述の福岡市のように、自治体が家電量販店・ホームセンターを拠点回収の協力店に指定している例もあり、買い物の際に持ち込める。
水銀体温計・血圧計で自治体の回収ルートが見当たらない場合は、処分前にかかりつけの薬局や、日本医療機器産業連合会が案内する回収の仕組みについて相談してみる価値がある。量が多かったり、ほかの不用品と合わせて一度に処分したい場合は、一般廃棄物処理業の許可を持つ業者に相談する方法もある。遺品整理業者にまとめて処分を依頼する場合も、無許可の業者に水銀を含むごみまで任せてしまうと不適正処理のリスクが残る。許可の有無が持つ意味については、廃品回収との違いを解説した記事で詳しく取り上げている。
家電リサイクル法・小型家電リサイクル法とは別の仕組みであること
遺品整理で出る不用品の処分方法を調べていると、「家電リサイクル法」や「小型家電リサイクル法」という言葉に行き着くことが多い。だが、蛍光灯や水銀体温計・血圧計はどちらの対象にも含まれていない。家電リサイクル法が対象とするのはエアコン・テレビ・冷蔵庫冷凍庫・洗濯機衣類乾燥機の4品目で、家電リサイクル法の仕組みを解説した記事で触れたとおり、指定の収集運搬料金とリサイクル料金を支払って家電量販店などに引き渡す制度だ。小型家電リサイクル法は携帯電話やデジタルカメラなど小型の電子機器が対象で、こちらの記事で説明したように自治体が回収ボックスを設置する仕組みだが、水銀を使った照明器具や医療機器はこの枠組みにも入らない。
つまり蛍光灯・水銀体温計・血圧計は、家電リサイクル法系の制度ではなく、各自治体の一般廃棄物の分別ルールの中で扱われている。遺品整理で古いスプレー缶や古い消火器の処分に悩んだときと同じように、「どの制度にも当てはまらない特殊なごみ」として、自治体ごとのルールを個別に確認する必要がある品目だと考えておくほうがいい。
蛍光灯も水銀体温計・血圧計も、今すぐ処分しなければ罪に問われるものではない。慌てて普通の不燃ごみに混ぜる前に、まずは自治体の窓口に品目名を伝えて、受け入れ可能な方法を確認することから始めたい。

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