遺品整理で日本刀が出てきたら?銃刀法の届出と、登録できない場合の対処法

父の遺品整理で、押し入れの奥から布に包まれた刀が出てきた。柄のあたりに古い紙片が貼られ、「登録」という文字がかすかに読めるが、劣化していて詳しいことはわからない。鞘を抜けば美しい刃文の本身で、兄弟の誰も刀剣には詳しくなく、売っていいのか、交番に届けるべきなのかも判断がつかない。日本刀は、ほかの遺品と違って「持っていること自体」が法律で制限された特殊な物品であり、見つけた時点から一定の対応が求められる。

日本刀は所持しているだけで法律に触れる特殊な遺品

銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)は、何人も銃砲又は刀剣類を所持してはならないと定めている。所持が認められる例外は、美術品として価値のある刀剣類として都道府県教育委員会の登録を受けたものや、法令で定める許可を受けた場合に限られる(銃砲刀剣類所持等取締法第3条)。ここでいう「刀剣類」は、刃渡り15センチメートル以上の刀、やり、なぎなた、あいくちなどを指し、美術的な価値の有無にかかわらずこの基準を満たす刃物が規制の対象になる(銃砲刀剣類所持等取締法第2条)。刃のない金属製・樹脂製の模造刀はこの定義に当たらず、登録制度の対象外になる。ただし、刃体の長さが6センチメートルを超える刃物を正当な理由なく持ち歩くことは別途、銃刀法22条で禁じられており、遺品整理の現場から車や宅配便で運び出す際は、刀身を鞘や箱に納め、人目につかない形で梱包しておく。

登録証が見つかったら、相続人がすべきは処分ではなく届出

刀に登録証が添付されている場合、相続人がまずすべきことは売却でも廃棄でもなく届出である。銃刀法17条1項は、相続によって登録刀剣類の所有者が変わったとき、新しい所有者に対し登録先の都道府県教育委員会への届出を義務づけている。届出期限は20日以内で、複数の都道府県教育委員会がこの期限と根拠条文を公表している(埼玉県教育委員会、千葉県教育委員会)。必要書類は所有者変更届出書と登録証の写しで、郵送のほか電子申請に対応する自治体もある。東京都教育委員会の案内では、手続き完了の通知は行われず、約1か月が経過して連絡がなければ変更手続は完了したとみなしてよいとされている(東京都教育委員会)。届け出る先は、今住んでいる地域の教育委員会ではなく、登録証に記載された登録先の教育委員会になる。登録証は刀剣1振につき1枚交付されており、複数の刀を相続した場合は1振ごとに届出が必要になる。相続放棄を検討している段階で、届出のために刀剣を一時的に保管すること自体が直ちに単純承認とみなされるわけではないが、売却や形見分けのような処分行為に進めば話は変わる。相続放棄をしたあとも、現に占有している遺品を保存する義務が残ることは相続放棄をしたら遺品整理はしなくていい?「現に占有」している人に残る保存義務と、遺品を処分してはいけない理由で説明した通りで、日本刀もこの保存義務の対象から外れない。

登録証が見当たらないときは「発見」の届出から始まる

登録証が見当たらない場合、相続人がまず行うのは警察署への「発見」の届出である。銃刀法23条は、銃砲又は刀剣類を発見し、または拾得した者に、速やかに最寄りの警察署へ届け出る義務を課している。届出をすると「発見届出済証」が交付され、これをもとに都道府県教育委員会が年に数回開催する登録審査会を予約する(神奈川県教育委員会)。審査会では刀剣類そのものを持参し、専門委員による現物鑑定を受ける。鑑定の基準は、文化庁が示す「姿、鍛え、刃文、彫り物等に美しさが認められる、または各派の伝統的特色が明らかに示されているもの」で、美術品としての価値が審査の中心になる(文化庁)。登録手数料は1件6,300円になる(鹿児島県教育委員会)。神奈川県教育委員会の案内では、警察への発見届出から登録証の交付まで半年程度かかるとされており、遺品整理の区切りをつけたい時期とは合わないことが多い(神奈川県教育委員会)。

警察は日本刀を処分してくれるのか

「警察に日本刀を処分してもらうにはどうすればいいか」という疑問を持つ人は多い。警察が窓口になるのは、無登録の刀剣類を発見したときの届出と、登録審査で美術品と認められなかった刀剣類を引き取ってもらう場面のほかに、すでに登録を受けている刀剣類を手放したいときの相談先としての役割がある。神奈川県教育委員会は、登録済みの刀剣類を廃棄したい場合、まず最寄りの警察署に電話で相談するよう案内している(神奈川県教育委員会)。つまり、登録証つきの刀を「ただ手放したいだけ」という理由で窓口に持ち込んでも、その場で処分を代行してもらえるわけではなく、まず警察に連絡して指示を受けるという順序を踏む。

美術品の基準を満たさなかった刀剣類はどうなるか

審査の結果、美術品としての登録を受けられない刀剣類は少なくない。文化庁は、登録対象外となった銃砲刀剣類について、公安委員会から所持許可を受けるか、国公立の博物館へ寄贈する道があるとしている(文化庁)。実務上は、所持を続ける予定がないなら最寄りの警察署に持参して廃棄処分の手続きを行う運用が複数の自治体で案内されている(鹿児島県教育委員会)。自分で土に埋めたり川に流したりする方法は不法投棄にあたるうえ、登録を受けないまま刀剣類を所持し続けること自体が銃刀法3条違反になるため、選択肢には入らない。

登録済みの日本刀を売る・譲るときに確認すべきこと

登録を受けた日本刀を売却する場合、買い取る側には遺品整理業者の「買い取ります」に許可は必要?古物商許可の仕組みと、無許可業者に売ってしまうリスクで説明した古物商許可が必要になる。個人間で譲る場合も、銃刀法17条1項は相続だけでなく「譲受」も届出の対象に含めており、受け取った側が登録先の教育委員会に届け出る。刃物という性質上、多くの自治体では粗大ごみや不燃ごみとしての収集を受け付けておらず、収集の可否は自治体ごとに扱いが分かれる。手放す方法に迷ったときの相談先は、ごみ収集ではなく警察署か、刀剣類を専門に扱う古物商になる。

遺産分割と相続税の手続きを飛ばさない

美術的価値のある日本刀は、相続財産として遺産分割や相続税評価の対象になり得る。この点は遺品整理で高価なものが見つかったら?勝手に処分しないための民法と相続税の基礎知識や遺品整理で相続税がかかりそうだと分かったら?速算表を使った税額の計算方法と、配偶者の税額軽減・2割加算までわかりやすく解説で説明した考え方がそのまま当てはまる。相続人の一人が独断で売却や処分を進めると、遺品を勝手に処分すると相続放棄ができなくなる?「法定単純承認」をわかりやすく解説で触れた法定単純承認に該当し、あとから相続放棄ができなくなるおそれもある。鑑定や登録の手続きを一人で進めるのではなく、遺品整理は相続人全員でしなければいけない?一人で進めていい範囲と、相続人以外が手伝うときの注意点で扱った範囲を踏まえて進めると、あとからのトラブルを防げる。登録証の有無を確認し、警察か教育委員会への届出を済ませるまでは、どれほど価値がありそうに見えても、鞘に納めたまま動かさないことが最も確実な対応になる。

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