実家の片付けを進めていくと、玄関の下駄箱の脇や台所の隅から、赤くさびた消火器が出てくることがある。いつ買ったのかも覚えていない、近所で配っていたので何となく置いていた、という話も少なくない。可燃ごみでも不燃ごみでもなさそうで、粗大ごみとして申し込めるのかもわからないまま、結局ほかの荷物と一緒に納屋の隅へ戻してしまう人も多いはずだ。だが古い消火器は、分別に迷うだけの遺品ではない。内部の腐食が進んだまま放置すると、破裂事故につながる危険物でもある。
実家に消火器があるのは、法律上の義務だったわけではない
実家にある消火器は、法律上の義務があって置かれていたわけではない。一般の戸建て住宅に消火器を置く義務はなく、消防法にもとづく設置義務は、劇場・映画館・病院・老人ホームなど特定の用途の建物では延べ面積を問わず、共同住宅や旅館・百貨店などは延べ面積150平方メートル以上、学校や事業場などは300平方メートル以上といった基準で生じる仕組みになっている(一般社団法人日本消火器工業会)。一般の戸建て住宅はこの基準に含まれておらず、実家にある消火器の多くは、訪問販売や近隣の防災意識の高まりをきっかけに、家族が任意で備えたものだと考えてよい。義務で置かれたものではないという事実は、処分するかどうかを迷ったときに、まず知っておいて損はない前提になる。
古い消火器を動かしてはいけない理由 — 消防庁が把握している破裂事故
消防庁が2010年7月にまとめた「老朽化消火器の破裂事故を踏まえた安全対策」報告書によれば、平成12年度から21年度までの10年間で消火器の破裂事故は26件発生し、死者3名、負傷者22名が出ている。腐食による強度低下が原因と判定された74件のうち、加圧式が70件(95%)を占め、蓄圧式はわずか1件(1%)にとどまる。事故が起きた消火器の多くは製造から20年以上が経過しており、屋外や軒下、水回りなど腐食が進みやすい場所に長期間置かれていた点も共通する。報告書は、腐食が進んだ老朽化消火器について、ユーザー自身が操作したりレバーを握って中身を確認したりすることを避け、専門の窓口で処理するよう求めている。実家の消火器がどの方式かひと目で分からなくても、古いものであれば自分で試し打ちをしない、というのがまず守るべき一線になる。
日本消火器工業会によれば、住宅用消火器の使用期限はおおむね5年、業務用消火器はおおむね10年が目安とされている(日本消火器工業会「消火器の使用期限」)。住宅用は薬剤の詰め替えができない構造になっているため、期限を過ぎたものは交換が前提になる。実家の消火器に貼られたラベルの製造年が読み取れるなら、まずそこで大まかな経過年数を確認しておくとよい。
消防署に持ち込んでも引き取ってもらえない
「消防署に持っていけば処分してもらえるのでは」という思い込みは根強いが、実際には引き取りは行われていない。東京消防庁の案内でも「消防署による消火器の引き取りは行っておりません」と明記されており、消火器販売店などのリサイクル窓口への持ち込みや回収依頼を通じて処分するよう案内している。横浜市の公式ページも同様で、「横浜市では消火器の収集を行っていません」としたうえで、消火器リサイクル推進センターまたは日本消火器工業会が案内する窓口を利用するよう求めている。自治体のごみ収集にも消防署にも受け皿がないという点が、消火器の処分を分かりにくくしている最大の理由になる。
消火器を処分できる3つの窓口
消火器の廃棄・リサイクルを一元的に案内しているのが、消火器メーカーの業界団体が運営する消火器リサイクル推進センターだ。同センターによれば、消火器を引き渡せる窓口は大きく分けて三つある。
一つ目は「特定窓口」で、消火器の販売代理店や防災・防犯事業者が担っている。持ち込みのほか引き取り依頼も受け付けているが、引き取りに来てもらえない場合もある。ホームセンターの一部も、この特定窓口を兼ねて購入者からの引き取りに応じていることがある。二つ目は「指定引取場所」で、消火器メーカー本社や委託事業者の施設が全国各地で担っている。自治体や消防署、事業者・個人を問わず持ち込みに対応している。三つ目はゆうパックを使った郵送での回収で、事前の申し込みが必要になる(専用コールセンター 0120-822-306)。実家が遠方にあり、消火器だけのために何度も足を運べない場合は、この郵送での回収が候補になる。製造から10年、20年と経過した消火器であっても、これらの窓口が引き取りの対象から外すことはない。古いからこそ自分で操作せず、早めにどこかの窓口へ乗せてしまうことが優先される。いずれの方法も、事前にどの窓口が近くにあるかを同センターの窓口検索で確認してから動くと二度手間にならない。
費用はどう決まるのか — リサイクルシール代とそれ以外の負担
処分には「リサイクルシール」の購入が必要になる。消火器リサイクル推進センターによれば、住宅用消火器やABC粉末消火器20型以下を対象にした小型用リサイクルシールは1枚600円だが、リサイクルシールはオープン価格であるため、実際の料金は窓口ごとに問い合わせる必要がある(消火器リサイクル推進センター「リサイクルシールの購入方法」)。指定引取場所ではこのシール代のみで引き取ってもらえるとされる一方、特定窓口ではシール代に加えて収集運搬費や保管費用が別途かかる場合があるとされている(消火器リサイクル推進センター「処分の手順」)。実際にいくらかかるかは窓口の運営者によって幅があるため、この記事で具体的な総額を断定することはできないが、「シール代だけで済む窓口」と「別途費用がかかりうる窓口」があるという構造を知っておくだけでも、複数の窓口に問い合わせて比べる判断材料になる。
この仕組みを支えているのは、廃棄物処理法の「広域認定制度」
消火器メーカーが都道府県を横断してリサイクルを担えるのは、通常なら市区町村ごとに必要な一般廃棄物処理業の許可を、廃棄物処理法にもとづく特例で不要にしているためだ。環境省の報道発表によれば、平成18年9月1日、株式会社初田製作所・ヤマトプロテック株式会社・株式会社モリタの3社が、廃消火器についてこの「広域認定制度」の認定を受けた。3社の国内シェアを合計すると消火器全体の約7割にのぼり、メーカー主導でリサイクルシステムの整備を進める目的で認定されている。その後、より多くのメーカーを束ねる一般社団法人日本消火器工業会自体も2009年12月28日に同様の認定を取得し、業界全体としての「廃消火器リサイクルシステム」は2010年1月1日から運用が始まった(登別市の案内資料)。この経緯を知っておくと、消火器の処分だけがなぜ家電リサイクル法や小型家電リサイクル法とは別の、独自の窓口網を持っているのかが理解しやすくなる。家電製品の場合の仕組みは別記事「遺品整理で出た家電はどう処分する?家電リサイクル法の仕組みと違法な回収業者の注意点」で扱っており、法律の作りそのものが異なる点は比べて読むと分かりやすい。
遺品整理の中でどう扱うか — 無許可の業者に安易に渡さない
遺品整理の現場では、家財をまとめて業者やトラック巡回の回収業者に引き渡してしまうことがある。だが消火器は前述のとおり専用のリサイクル網に乗せる必要がある品目であり、一般廃棄物の回収許可しか持たない業者や、無許可のまま「何でも引き取ります」とうたう業者に安易に渡してよいものではない。無許可業者と一般廃棄物処理業の許可の関係については別記事「遺品整理と廃品回収は何が違う?「一般廃棄物処理業」の許可という分かれ目を解説」で扱っている考え方がそのまま当てはまる。仕分けの段階で「これは可燃・不燃どちらだろうか」と迷う品目の一つとして後回しにされがちだが、仕分けの順番を決める際にも、消火器のような専用ルートが必要な品目を早めに見つけて動かしておくと、あとの片付けが滞らずに進む。仕分け作業全体の進め方は別記事「遺品整理は何から手をつける?仕分けの順番と、独断で進めると起こる法的トラブル」で扱っている。
自分ですべて片付けるつもりでいる場合、消火器のような特殊な品目の処分先を一つずつ調べる手間も、作業全体の時間や労力を左右する要素になる。自分で進めるか業者に依頼するかの判断材料は別記事「遺品整理は自分でできる?自分で進める場合の判断基準と、かかる時間・費用の考え方」にまとめてあるので、消火器のような細かい品目がいくつも出てきそうな場合はあわせて確認しておくとよい。
赤い消火器を見つけたら、まず動かす前に窓口を調べる
古い消火器は、粗大ごみのシールを貼って出せば済むものでも、消防署に持ち込めば片付くものでもない。腐食が進んでいれば操作しないこと、そして消火器リサイクル推進センターが案内する特定窓口・指定引取場所・ゆうパックのいずれかに乗せることが、遠回りに見えて一番早い処分の道筋になる。

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