遺品整理で物置を片付けていたら、去年の冬に使い切れなかった灯油の入ったポリタンクが何本も出てきた、という場面は珍しくない。石油ストーブの給油タンクにも、まだ半分近く灯油が残っていることもある。可燃物だから燃えるごみに出せるだろうと自治体のごみ分別表を確認すると、「収集できないもの」の欄に石油類という文字を見つける。灯油は消防法上の危険物に指定されており、最初から家庭ごみの収集ルートに乗らない仕組みになっている。
灯油は「収集できないごみ」に当たる
東京23区でも灯油の扱いは共通している。港区は、ごみとして収集できない「危険物・その他の処理困難物」の一覧に灯油・ガソリン・エンジンオイルを挙げ、「有害性、危険性、引火性のあるもの」に該当するため区では収集できないとしたうえで、お近くのガソリンスタンドへの問い合わせを案内している。大田区も同様に、ガソリン・軽油・灯油・シンナー・エンジンオイル・塗料などの石油類を収集できないごみとして明示しており、灯油が入ったままの石油ストーブも「灯油を抜けば粗大ごみとして収集できる」と条件を付けている。さいたま市の案内でも、消火器やガスボンベと並んで「石油・ガソリンなどの鉱物性油」が「爆発や火災の危険があるごみ」に分類され、通常収集の対象外とされている。ポリタンク1本だけでも、量の多少にかかわらず同じ扱いになる点は、どの自治体でも共通している。
消防法上は「危険物」に分類されている
この取り扱いの根拠になっているのが、消防法上の危険物規制である。横浜市消防局の案内によれば、灯油は第4類(引火性液体)のうち「第2石油類(非水溶性)」に区分され、指定数量は1,000リットルとされている。指定数量以上を貯蔵・取り扱う場合は市長の許可が必要になり、指定数量の5分の1(灯油であれば200リットル)以上指定数量未満の場合は「少量危険物」として届出の対象になる。この少量危険物の技術上の基準は、消防法第9条の4により国の政令ではなく市町村条例に委ねられているため、具体的な届出の要否や窓口は自治体ごとに異なり、量が気になる場合は最寄りの消防署へ確認したほうが確実である。遺品整理で物置から見つかる量がこの基準に達することはまずないが、ガソリン(指定数量200リットル)より基準が緩いとはいえ、灯油が法律上「危険物」という同じ枠組みで管理されている以上、一般ごみの収集ルートからは最初から外れているわけだ。保管そのものについても、仙台市消防局は火災予防条例の技術基準として「危険物を貯蔵し、又は取り扱う場所においては、みだりに火気を使用しないこと」、容器は「破損、腐食、さけめ等がないもの」を使うこと、地震で容器が転倒・落下しないよう固定することを求めている。北九州市消防局も、劣化した古い灯油を石油ストーブに使うと芯を劣化させて火災につながる場合があるとして、古い灯油をそのまま使い続けないよう注意を呼びかけている。遺品整理で見つかった灯油を「もったいないから使ってしまおう」と判断する前に、保管期間がわからない灯油は劣化している可能性があるという前提で考えたほうがよい。
処分先はガソリンスタンドが基本だが、対応は店舗ごとに差がある
港区・大田区のいずれも、収集できない灯油の処分先として案内しているのは「お近くのガソリンスタンドへお問い合わせください」という窓口であり、どの店舗でも一律に引き取ってもらえると保証する書き方にはなっていない。灯油の販売や配達を担当している店舗、セルフ式ではなくスタッフが対応するフルサービス型の店舗のほうが、相談に応じてもらえる可能性は高い。電話で在庫の有無や引き取り可否、容器の持ち込み方法を確認してから向かうと、空振りにならずに済む。なお、港区・大田区・さいたま市のいずれの案内にも、灯油を土に埋めたり排水に流したりして処分する方法は示されていない。自治体が案内している窓口は、ガソリンスタンドへの相談か、量に応じた許可業者への依頼のいずれかであり、自己判断で土中や排水に処理する方法は選択肢として扱われていない。
量が多いときは一般廃棄物処理業の許可業者という選択肢もある
ポリタンク数本分など、ガソリンスタンドへの持ち込みだけでは手に余る量が出てきた場合は、一般廃棄物の収集・運搬を手がける許可業者に相談する方法もある。遺品整理業者がうたう「何でも回収します」という言葉が、実際には許可の範囲を超えていることがある点は、廃品回収と遺品整理の違いの記事で扱った一般廃棄物処理業の許可の問題と同じ構図になる。自分で運ぶか業者に頼むかという判断そのものは、灯油に限らず遺品整理を自分で進めるかどうかの記事で扱った時間・体力・費用の比較があてはまる。
遺品整理特有の多量ごみと「一時多量ごみ」制度
横浜市は、引っ越しや遺品整理など家庭から一度に大量に出るごみを「一時多量ごみ」と位置づけ、通常の収集とは別枠で申し込める仕組みを用意している。対象品目として示されているのは燃やすごみ・燃えないごみ・缶・びん・ペットボトル・粗大ごみなどで、危険物についての記載は見当たらない。遺品整理でまとめて多量のごみを出す段になっても、灯油のような危険物だけはこの一時多量ごみの枠にそのまま乗せられるとは限らず、別途問い合わせて確認する必要がある。「とりあえず全部まとめて申し込めば片付く」という発想が、灯油に関しては通用しない。
空き家になった実家の屋外灯油タンクは、盗難の対象にもなる
灯油そのものの処分とは別に、注意しておきたいのが盗難である。北海道警察北見方面本部生活安全課は、灯油価格の高騰を背景に、屋外に設置された灯油タンクやポリタンクが被害品となる窃盗事件が発生していると注意を呼びかけ、対策として盗難防止器具の付いたタンクへの交換、送油管の切断防止カバー、鍵付きキャップの取り付け、ポリタンクであれば物置に保管して施錠することなどを挙げている。実家が空き家になり、見に行く頻度が下がっている場合ほど、屋外の灯油タンクは発見が遅れる被害対象になりやすい。遠方に住んでいて遺品整理や実家の管理を進めている場合は、灯油そのものの処分と同時に、タンクの施錠状況も確認しておく価値がある。
家庭から出る灯油は「産業廃棄物」ではなく「一般廃棄物」
ネット上の記事には、灯油を「特別管理産業廃棄物」と説明するものもあるが、これは事業者が出す灯油に限った話である。文京区が事業系ごみの原則として示している定義によれば、産業廃棄物とは「事業活動に伴って生じた廃棄物」であって、燃え殻・汚泥・廃油など特定の種類に限られるという枠組みになっている。環境省がまとめている説明でも、一般廃棄物は産業廃棄物以外の廃棄物と位置づけられている。遺品整理で見つかった家庭用の灯油は、事業活動にもとづくものではないため一般廃棄物にあたり、自治体が許可した一般廃棄物処理業者であれば取り扱える対象になる。「危険物だから特別な業者でなければ扱えない」という思い込みと、「産業廃棄物だから事業者しか関わらない」という思い込みは、どちらも家庭の灯油には当てはまらない。
石油ストーブ本体は、灯油を抜いてから
遺品整理で灯油と一緒に見つかることが多いのが、石油ストーブや石油ファンヒーター本体である。大田区の案内が示すとおり、灯油を入れたままでは収集できないストーブも、灯油を抜けば粗大ごみとして出せるようになる。給油タンクの口を下にして注ぎ出すか、ストーブに付属する排油の仕組みを使えば、抜く作業自体は難しくない。抜いた灯油の行き先を決めてからストーブ本体に手をつけたほうが、二度手間にならずに済む。灯油はスプレー缶や蛍光灯・水銀体温計と同じく、遺品整理で見つかる「普通のごみに出せない危険物」の一つにすぎない。量が少なければガソリンスタンドへの相談、多ければ許可業者への依頼というように、行き先は量と状況で決まる。処分先を決めるのに必要なのは、まず灯油の量を把握することだけだ。

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