仏壇の引き出しを片付けていたら、錆びた五十銭玉や見慣れない硬貨、輪ゴムで束ねられた古い切手の束が出てきた——遺品整理の現場では、こうした場面によく出くわす。紙幣なら日本銀行で今も使えるか調べられると知っていても、硬貨や切手に同じ理屈が通用するとは限らない。硬貨には紙幣にはない独自の制限があり、切手には有効期限がない代わりに別の落とし穴が待っている。
「銭」単位の硬貨は、紙幣と同じ昭和28年に通用を失った
旧紙幣が出てきた場合の記事で触れたとおり、1953年(昭和28年)、法律第60号「小額通貨の整理及び支払金の端数計算に関する法律」は1円未満の小額通貨について、その年の12月31日限りで通用を禁止すると定めた。この法律は紙幣だけでなく硬貨も対象にしている。法律本文の第2条は「小額通貨」を、硬貨(額面50銭以下の政府発行貨幣、額面1円以下の臨時補助貨幣)と紙幣(50銭の小額紙幣、10銭・5銭の日本銀行券)の両方で定義し、第3条で一律に通用を禁止している。つまり、遺品の中から出てきた五十銭玉や十銭硬貨は、デザインが古いからではなく、額面がそもそも1円に満たないという理由で、70年以上前にお金としての役目を終えている。一方、現在も発行されている1円・5円・10円・50円・100円・500円の硬貨は、額面どおりの価値を保ったまま使うことができる。
大量の硬貨には、紙幣にはない「強制通用力」の上限がある
ただし、有効な硬貨であっても紙幣と同じようには扱われない場面がある。「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」第七条は、「貨幣は、額面価格の二十倍までを限り、法貨として通用する」と定めている。法律本文にあるこの規定により、同じ種類の硬貨であれば21枚目以降は支払いの相手が受け取りを拒んでも違法にならない。日本銀行券(紙幣)には発行額に応じたこうした上限がなく、何枚であっても法律上は支払いに使えるのとは対照的だ。貯金箱いっぱいの100円玉や500円玉が遺品の中から出てきた場合、店舗の窓口で少量ずつ使うか、金融機関の窓口を使うほうが現実的になりやすいのは、この上限が背景にある。
記念硬貨も法律上は「普通のお金」と同じ扱いを受ける
東京オリンピックや大阪・関西万博を記念した500円硬貨なども、法律上は通常の硬貨と変わらない。同じ「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」第五条は、国家的な記念事業にあたって閣議決定を経れば、通常の6種類の硬貨に加えて一万円・五千円・千円の記念貨幣を発行できると定めており、発行枚数は政令で個別に決められる。つまり記念硬貨も額面どおりの支払い能力を持つ正式な貨幣であり、前項で触れた「額面の20倍まで」という強制通用力の上限も同じように適用される。当サイトは査定や買い取りを扱わないため金額の目安には立ち入らないが、収集市場での評価は額面とは別の基準で決まる点は、旧紙幣の記事で触れた考え方と変わらない。
江戸時代の古銭は、そもそも今の法律が対象にしていない
桐だんすの奥から寛永通宝や天保通寳、あるいは小判・一分銀といった江戸時代の貨幣が出てくることもある。これらは「古銭」と呼ばれる収集対象ではあるものの、現在の法律上は貨幣そのものではない。明治4年(1871年)に制定された新貨条例によって通貨単位は両から円に切り替わり、小判・二分判・一分銀などの江戸時代の金貨・銀貨は新貨幣との交換期限が明治21年(1888年)12月31日限りで終了し、天保通寳も明治29年(1896年)12月31日限りで交換が打ち切られたと記録されている。寛永通宝のような1円に満たない額面の銅銭・真鍮銭は、その後も細々と通用が認められていたが、最終的には前述の昭和28年の法律によって、ほかの「銭」単位の硬貨と同時に通用停止になったと説明されている。つまり遺品整理で見つかる古銭の大半は、お金としての法的な役目をとうに終えており、現在では歴史的な工芸品・収集品という性格のほうが強い。
切手は有効期限がないが、料金改定で額面が足りなくなる
切手の扱いは硬貨よりも単純だ。郵便切手には法律上、使用期限を定める規定がなく、何十年前に発行されたものでも額面どおりの価値を保ち続ける。落とし穴になるのは、郵便切手ではなく郵便料金そのものが改定され続けていることだ。2024年10月の料金改定では、定形郵便物(25グラム以下)が84円から110円へ、通常はがきが63円から85円へ、それぞれ引き上げられたと日本郵便が公表している。手元にある古い82円切手や63円分の切手をそのまま貼っても、現在の料金には届かない。この場合は不足分の切手を追加で貼れば、額面そのものは無駄にならず普通郵便として使うことができる。遺品の中からまとまった枚数の切手が出てきた場合、1枚ずつの価値を気にするより、合計額面を数えて今の料金に当てはめるほうが実務的だ。
郵便局の窓口で新しい切手に交換してもらう方法
額面を細かく組み合わせるのが面倒な場合、郵便局の窓口で普通切手や通常はがきなど現在よく使われている形式に交換してもらう方法もある。この交換には手数料がかかり、日本郵便の発表によれば2023年4月1日の改定後、1回の交換請求が100枚以上になる場合は郵便切手・通常はがき等で1枚あたり10円から20円の手数料がかかり、100枚未満であれば従来どおりの手数料で交換できる。1万枚以上をまとめて交換する場合は、指定された郵便局への提出が必要になる。デザインが古くて使いにくい、あるいは枚数が多くて額面の組み合わせが煩雑な場合は、この交換サービスを使えば額面を目減りさせずに手元の切手を実用的な形に戻せる。
海外の硬貨は、銀行でも両替できないことが多い
海外旅行の土産で余った外国のお金が遺品の中に混じっていることもある。紙幣であれば金融機関で円に両替できる場合があることは旧紙幣が出てきた場合の記事で触れたが、硬貨は事情が異なる。みずほ銀行は外貨両替サービスについて、「外国通貨の硬貨(コイン)はお取り扱いしておりません」と案内しており、紙幣に限って取り扱う姿勢を明確にしている。硬貨は紙幣に比べて保管・運搬のコストが高く、取扱通貨の種類も限られることから、取り扱ってくれる窓口自体が一部の金券ショップや両替専門店に絞られる。まとまった種類・枚数の外国硬貨が見つかった場合、国内の銀行をあてにしても両替できないことが多い。
相続税の申告では「現金」ではなく「動産」として評価する
タンス預金のような現金が遺品から見つかった場合は額面どおりの金額で遺産に合算すればよいが、古銭や切手のコレクションは性格が異なる。タンス預金が見つかった場合の記事で扱った現金とは違い、これらは財産評価基本通達上「動産」として扱われる。第128条は評価単位について、1個または1組の価額が5万円以下の家庭用動産であれば世帯ごとに一括して評価してよいと定めている。これに対し、個別に高い価値が見込まれるものは一括評価の対象にならず、第129条の原則に従って売買実例価額や精通者(鑑定人など専門家)の意見価格を参酌して評価する。希少な古銭や年代物の切手帳など、歴史的・収集的価値が額面をはるかに超えると見込まれるものについては、書画骨とう品の評価を定めた第135条に準じた扱いになる場合もある。どちらに当たるかを自己判断するのは難しく、高価なものが遺品の中から見つかったときにまず確認すべきことは、額面の大小にかかわらず共通する判断材料になる。
使えるかどうかより先に、中身を相続人全員で共有する
硬貨は通用するか、切手は額面が足りるか、古銭は収集品としての性格が強いか——見分け方はそれぞれ違うが、結論を出す前にやるべきことは一つに絞られる。見つけた本人の判断だけで使ってしまったり、知人に譲ったり、処分してしまったりするのは筋が違う。遺品を売却してお金に換える行為には相続人全員の同意が必要になる理由があり、それは硬貨や切手であっても変わらない。まずは種類と枚数を数え、有効かどうかを見分けたうえで、相続人全員で共有してから使うか、交換するか、保管するかを決めればいい。

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