仏壇の引き出しや家の書類箱から、亡くなった親の自宅の権利証や、市区町村から届いていた固定資産税の納税通知書が出てくることがある。名義がどうなっているのか気になっても、他にやることが多く、つい後回しにしてしまいがちだ。しかし2024年4月1日以降、相続で取得した不動産の名義変更(相続登記)は、先送りできない法律上の義務になった。期限内に手続きをしないと過料の対象になる場合があり、2026年に入ってからは関連する制度も相次いで新設され、放置するほど確認しなければならない事柄が増えていく。
遺品整理中に見つかる「権利証」「納税通知書」
権利証(登記済証・登記識別情報通知)や固定資産税の納税通知書は、故人が所有していた土地や建物の存在を示す数少ない手がかりだ。遺品整理の中でこうした書類を見つけたら、それは相続の手続きを考える出発点でもある。そして近年、この不動産の相続に関して大きな制度変更があった。2024年4月1日に施行された相続登記の申請義務化である。
2024年4月から相続登記の申請が義務になった
これまで、相続によって不動産の所有権を取得しても、登記をするかどうかは相続人の判断に委ねられていた。しかし所有者が亡くなった後も名義変更がされないまま放置される不動産が全国で増え、持ち主が分からない「所有者不明土地」が社会問題となったことを背景に、不動産登記法が改正された。国土交通省の資料によると、所有者不明の土地は全国で約410万ヘクタール(全国の土地の20.3%)にのぼると推計されており、これは九州の土地面積(約368万ヘクタール)を上回る規模にあたる。登記からの経過年数が長い土地ほど所有者不明率は高くなる傾向があり、登記後0〜29年で21%だった不明率は、70〜89年経過すると79%に達するという調査結果も示されている。法務省によると、令和6(2024)年4月1日以降、相続(遺言による取得を含む)により不動産の所有権を取得した相続人は、相続登記を申請する義務を負うことになった。
申請期限は「知った日」から3年以内
義務化後の申請期限は一律の日付ではなく、相続人ごとに起算される。法務省の説明では、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日」から3年以内に申請しなければならない。遺産分割協議によって不動産を取得した場合は、その分割が成立した日から3年以内という別の期限も定められている。東京法務局の案内でも、この二つの起算点が明記されている。誰が相続人になるのか、遺産分割の話し合いがどう進むのかが分からないと期限の起算点も定まらないため、高価な遺品や祭祀財産の扱い方と合わせて早めに家族間で共有しておきたい論点である。
過料の対象になる「正当な理由がない」場合とは
正当な理由がないまま期限内に相続登記を申請しなかった場合、10万円以下の過料の対象になり得る。ただし、いきなり過料が科されるわけではなく、登記官が申請を促す催告を行い、それでもなお正当な理由なく申請しない場合に限られる。法務省のQ&Aは、「正当な理由」があると認められ得る場合として、次のようなケースを挙げている。相続人が極めて多数に上り、戸籍関係書類の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要する場合。遺言の有効性や遺産の範囲が相続人の間で争われている場合。登記の申請義務を負う本人に重病その他これに準ずる事情がある場合。DV被害者等で、生命・心身に危害が及ぶおそれがあり避難を余儀なくされている場合。そして、経済的に困窮していて登記申請に必要な費用を負担する能力がない場合である。逆にいえば、単に「手続きが面倒」「他の相続人と連絡が取りづらい」というだけでは、正当な理由として認められない可能性が高い。
相続登記に必要な書類と、戸籍集めの負担を軽くする制度
実際に相続登記を申請するときに必要になる書類は、遺言の有無や遺産分割の方法によって変わる。法務局の手続きハンドブックによると、共通して必要になるのは、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本一式と、登記上の住所を確認するための住民票の除票または戸籍の附票の写し、相続人全員の戸籍謄本、不動産を相続する人の住民票である。遺産分割協議によって不動産を取得する場合は、相続人全員が実印を押して作成した遺産分割協議書と、全員分の印鑑証明書も添付する。遺言がある場合は、公正証書遺言の正本・謄本や、自筆証書遺言であれば家庭裁判所の検認証明書が必要になる。登録免許税は不動産の固定資産税評価額の1000分の4だ。先述の「正当な理由」の一つに挙げられていた「戸籍関係書類の収集に時間がかかる」という負担を軽くする仕組みとして、無料で利用できる「法定相続情報証明制度」がある。法務局に一度戸籍一式を提出して認証を受ければ、以後は相続関係を一覧にした証明書(法定相続情報一覧図の写し)を戸籍謄本の代わりに使えるため、相続登記だけでなく預貯金の解約など複数の相続手続きで戸籍の束を何度も出し直す手間を省ける。
遺産分割がすぐに終わらないときの「相続人申告登記」
相続人同士の話し合いがまとまらず、期限内に遺産分割協議を終えられない場合に備え、「相続人申告登記」という簡易な制度も設けられた。法務省によれば、これは登記簿上の所有者について相続が開始したこと、自分がその相続人であることなどを期限内(3年以内)に登記官へ申し出る手続きで、相続人のうち特定の一人が単独で申し出ることができる。ただし注意点がいくつかある。まず、申出をした相続人についてのみ義務を履行したとみなされるため、相続人全員が義務を果たしたことにするには全員がそれぞれ申出をする必要がある。また、遺産分割が既に成立した後の登記義務は、相続人申告登記では代わりが利かない。相続した不動産を売却したり、抵当権を設定したりする場面では、結局あらためて正式な相続登記が必要になる点も変わらない。あくまで「ひとまず過料を避けるための応急的な手続き」であって、名義変更そのものを完了させる制度ではないことを踏まえておく必要がある。
2024年より前に亡くなった人の相続にも適用される
この義務化は、施行日である2024年4月1日より後に発生した相続だけでなく、それ以前に発生していた相続で、まだ登記が済んでいないものにも及ぶ。法務省の案内では、施行日前に発生していた相続については、令和9(2027)年3月31日までに登記する必要があるとされている。遺品整理の過程で、何年も前に亡くなった祖父母や親族名義のままになっている不動産の書類が見つかった場合も、この経過措置の対象になり得る。名義人が祖父母のまま何十年も放置された不動産は、相続人の数が増えて権利関係が複雑になっていることが多く、相続放棄や単純承認の判断にも影響するため、早めに戸籍を集めて相続人の範囲を確定させておくほうがよい。
登録免許税が軽くなる免税措置もある
相続登記には登録免許税がかかるが、一定の条件を満たす土地については免税になる措置が設けられている。法務局によると、租税特別措置法第84条の2の2に基づき、不動産の価額(原則として固定資産課税台帳に登録された価格)が100万円以下の土地について相続による所有権移転登記を受ける場合は、登録免許税が免税となる。令和7年度の税制改正で適用期限が2年延長され、現在は令和9(2027)年3月31日までの申請が対象だ。実家の裏山や、価値の低い山林・原野が遺品整理で見つかったときに、費用面のハードルを理由に登記を後回しにしなくて済むよう用意された仕組みといえる。免税を受けるには、申請書にこの免税措置の根拠となる条文を記載する必要があるため、法務局や司法書士に相談する際はこの土地の評価額を確認しておくとよい。
使い道のない土地は「相続土地国庫帰属制度」という選択肢もある
遺品整理で見つかった不動産が、実家から遠く離れた山林や、活用の見込みがない小さな土地であることも珍しくない。相続はしたものの手放したいという場合の選択肢として、令和5(2023)年4月27日から「相続土地国庫帰属制度」が始まっている。法務省によると、相続や遺贈によって土地を取得した人が法務局に申請し、審査を経て承認されれば、その土地の所有権を国に引き取ってもらえる制度で、審査手数料は土地一筆当たり14,000円、承認後には国がその土地を管理するのに要する10年分の標準的な費用相当額を負担金として納める必要がある。ただしすべての土地が対象になるわけではない。建物が建っている土地、担保権や賃借権が設定されている土地、境界が明らかでなく所有権に争いがある土地、通路や墓地・境内地として他人に利用されている土地などは、申請の時点で却下される。勾配や高さが一定の基準を超える崖のある土地、災害の危険がある土地なども、審査の中で不承認となる場合がある。相続登記を済ませたうえで、それでも管理を続けるのが難しい土地について検討する、いわば最後の選択肢と位置づけられている。
2026年2月に始まった「所有不動産記録証明制度」
相続登記の義務化とあわせて検索が増えているのが、令和8(2026)年2月2日から運用が始まった「所有不動産記録証明制度」だ。相続登記の義務化そのものは2024年4月から変わっていないが、この新制度は「亡くなった人が全国にどんな不動産を持っていたか」を把握しやすくするために新設された。法務局によると、請求できるのは登記名義人本人のほか、相続人その他の一般承継人などに限られ、第三者は請求できない。手数料は書面請求の場合1通1,600円で、法務局の窓口やオンラインで取得できる。証明書に記載されるのは、請求書に記載した氏名・住所を検索条件として名寄せされた不動産の一覧(所在・地番・家屋番号など)であり、抵当権の設定状況など権利関係の詳細までは含まれない。また、登記簿上の氏名・住所が古いまま更新されていない不動産は、検索条件と一致せず一覧に現れないことがある点にも注意したい。遺品整理で権利証が1通しか出てこなくても、故人が把握していなかった土地を含めて他に不動産がないかを確認する手段として使える制度である。
2026年4月からは住所・氏名の変更登記も義務になった
もう一つ、令和8(2026)年4月1日から始まったのが、住所や氏名を変更した登記名義人自身に対する変更登記の義務化である。法務省によると、不動産の所有権の登記名義人は、住所や氏名の変更があった日から2年以内に変更登記をする必要があり、正当な理由なく怠ると5万円以下の過料の対象になり得る。施行日より前に生じていた変更についても、令和10(2028)年3月31日までに登記することが求められる。相続登記そのものとは別の義務だが、遺品整理をきっかけに実家の名義を自分に変更した相続人が、その後の転居のたびにこの義務を負うことになる点は押さえておきたい実務上のつながりだ。負担を軽くする仕組みとして、あらかじめ法務局に「検索用情報」を申し出ておくと、住民基本台帳ネットワークの情報をもとに登記官が住所変更を職権で反映してくれる制度も用意されている。ただし職権登記の前には本人への意思確認の通知が届き、これを拒否したり期限までに回答しなかったりした場合は職権登記が行われない仕組みになっているため、通知が来た場合は放置せず対応する必要がある。
自治体によってルールが違うわけではない
相続登記の義務化は不動産登記法という国の法律に基づくもので、東京でも地方でも内容は変わらない全国一律の制度である。ごみ出しのルールのように自治体ごとに基準が異なるわけではなく、どの法務局の管轄であっても、期限や過料の考え方、相続人申告登記や免税措置の要件は共通している。手続きの窓口となる法務局が不動産の所在地によって変わるだけなので、まずは自分が住んでいる場所ではなく、相続した不動産の所在地を管轄する法務局を確認することになる。
権利証が出てきたら、まず名義と最後の登記日を確認する
遺品整理そのものは相続登記の手続きではないが、故人の不動産関係の書類を発見する数少ない機会でもある。権利証や納税通知書が見つかった際は、名義が誰になっているか、最後に登記されたのがいつかをまず確認したい。名義が何十年も前の祖父母のままになっているようであれば、経過措置の期限が迫っている可能性があるし、相続人の数が増えて空き家として放置するリスクにもつながりやすい。生前整理の段階で名義を確認しておければ、エンディングノートや家族との話し合いの材料にもなる。判断に迷う状態が見つかった場合は、早めに法務局や司法書士に相談することが、後々の過料や親族間のトラブルを避ける一番の近道になる。

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遺品整理を終えた実家が「空き家」になったら?特定空家・固定資産税・相続放棄の法律知識 – 安心ライフどっとびず がピンバックを送信
2026年9月12日 8:38 AM
[…] 詳しい内容と申請期限については、別記事「遺品整理で見つかった権利証はどうする?2024年に始まった相続登記の義務化をわかりやすく解説」で扱った。空き家を今後どうするかを判断 […]
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