遺品整理での「ネコババ」はなぜ問題になる?無断売却・着服と業務上横領罪の関係をわかりやすく解説

遺品整理を業者に依頼したところ、大切にしていた着物や骨董品、貴金属が「気づいたらなくなっていた」「勝手に売られていたらしい」――そんな相談が後を絶たない。いわゆる「ネコババ」と呼ばれるこの問題は、単なるマナー違反ではなく、刑法上の犯罪に触れる可能性がある行為だ。国民生活センターに寄せられている実際の相談傾向と、業務上横領罪・古物商許可という二つの切り口から、法律上どのように位置づけられる行為なのかを整理する。

1. 国民生活センターに寄せられている遺品整理サービスの相談

国民生活センターは2018年7月19日、「こんなはずじゃなかった!遺品整理サービスでの契約トラブル」と題する発表資料を公表した。全国の消費生活センター等に寄せられた遺品整理サービスに関する相談件数は、2013年度73件、2014年度109件、2015年度90件、2016年度114件、2017年度105件と、毎年一定数が報告され続けている。具体的な事例としては、見積もりを取らないまま契約させられて高額請求を受けたケースや、「処分しないでほしい」と指示していた物を誤って(あるいは無断で)運び出されてしまったケースが紹介されている(「こんなはずじゃなかった!遺品整理サービスでの契約トラブル」)。

同センターの見守り情報「遺品整理を頼むときは、事業者選びは慎重に」でも、当初20万円程度と説明されていた費用が作業後に30万円へ引き上げられた事例や、アルバムなど残しておくよう依頼していた品まで処分され、業者側が「すでにごみ処理場に運搬済みで取り戻せない」と回答した事例が取り上げられている(国民生活センター見守り情報「遺品整理を頼むときは、事業者選びは慎重に」)。同センターは、複数社から見積もりを取ること、作業内容・料金・キャンセル料を事前に契約書で明確にすること、残す遺品と処分する遺品をあらかじめ区別しておくことを消費者に呼びかけている。

遺品整理サービスの実態そのものを調べた調査もある。総務省行政評価局が2020年3月に公表した「遺品整理のサービスをめぐる現状に関する調査結果報告書」では、依頼者が保管を希望していたラジカセやDVDプレーヤー、辞書などが、作業後に「誤って別の作業員が運び出した」として見つからなくなった事例が報告されている(総務省行政評価局「遺品整理のサービスをめぐる現状に関する調査結果報告書」令和2年3月)。誤操作なのか意図的な着服なのかを依頼者の側から見分けるのは難しく、この見分けにくさ自体がネコババの発覚を遅らせる一因になっている。

ただし、こうした報告に挙がる「物が無くなった」というトラブルには、本稿で扱う「作業員が自分の物にする意図を持って持ち去る」ケースと、依頼者が「処分しないでほしい」と伝えていた物を確認不足で誤って運び出してしまう過失のケースという、原因の異なる二つの型が混在している。後者の誤処分は横領罪のような刑事責任の対象ではなく、契約違反(債務不履行)や不法行為にもとづく民事上の損害賠償で解決を図る場面であり、具体的な進め方は遺品整理で「処分しないで」と頼んだ物を処分されたら?業者の法的責任と損害賠償を求める手順で扱った。本稿が対象にするのは、持ち去りに故意がある前者のケースだ。

2. 無断で売却・持ち帰られた場合の法律上の位置づけ(業務上横領罪と単純横領罪)

遺品整理を依頼した時点で、遺族は遺品の処分や保管を業者に「委託」したことになる。業者やその作業員は、契約に基づいて一時的に遺品を占有しているにすぎず、所有権まで譲り受けたわけではない。にもかかわらず、その立場を利用して遺品を無断で売却したり自分の物として持ち帰ったりした場合、委託された他人の物を不法に自分の物にする行為として、横領罪(刑法252条、5年以下の拘禁刑)や、それが業務として行われた場合はより重い業務上横領罪(刑法253条、10年以下の拘禁刑)に該当し得る。これは日本語版Wikipedia「横領罪」や辞典類でも整理されている一般的な理解であり、遺品整理業者に限らず、他人から物を預かる立場にある者すべてに共通する刑法上の枠組みだ。なお刑罰の呼称は2025年6月1日施行の刑法改正により「懲役」から「拘禁刑」に変更されている。

業務上横領罪の成立には、刑事事件を専門に扱う複数の法律事務所が共通して整理する四つの要件がある。社会生活上の地位に基づいて反復継続して行われる事務であること(業務性)、委託を受けて対象物を事実上支配していること(委託信任関係に基づく占有)、その対象物が他人の所有物であること、そして委託された任務に背いて所有者でなければできない行為をすること(横領行為)の四つだ。遺品整理を仕事として請け負う業者やその従業員が、預かった遺品を無断で売却・費消・持ち帰りする行為は、この四要件を満たしやすい。

一方、遺品整理を仕事として反復的に請け負っているわけではない親族や友人が、遺族から一度だけ手伝いを頼まれて遺品を預かり、そのまま無断で持ち帰ったり売却したりした場合はどうか。「業務」にあたるかどうかは反復継続性の有無で判断されるという説明が複数の法律事務所解説で一致しており、一度限りの預かりはこの業務性を欠くと考えられる。この場合に成立し得るのは業務上横領罪ではなく、より軽い単純横領罪(刑法252条、5年以下の拘禁刑)だ。なお、相続人自身が遺品を独断で処分・持ち帰った場合は横領罪の問題ではなく、相続放棄ができなくなる「法定単純承認」の問題として扱われる。この違いは遺品を勝手に処分すると相続放棄ができなくなる?「法定単純承認」をわかりやすく解説で扱った。形見分けの範囲を超えて価値のある遺品を独断で持ち帰る行為が招くリスクは遺品の形見分けはいつ・何を渡す?勝手にすると相続放棄ができなくなるケースと相続税の考え方でも取り上げている。

もっとも、遺品整理の現場で物が消えたとき、常に横領罪にあたるとは限らない。横領罪は、業者や作業員が契約に基づいてすでに遺品を占有している(委託信任関係に基づく占有)状態から成立する犯罪であり、占有を取得する過程そのものを問題にする窃盗罪(刑法235条、10年以下の拘禁刑)とは成立要件が異なる。日本語版Wikipedia「窃盗罪」の整理によれば、窃盗罪が成立するには、財物が占有者の「支配の事実」と「支配の意思」が及んでいる状態から、その占有者の意思に反して取得されたことが必要とされる。遺品整理の現場では、作業員が契約に基づいて部屋全体の仕分け・搬出を任されている以上、通常は委託信任関係に基づく占有が認められ業務上横領罪の枠組みで捉えられやすいが、依頼者が立ち入りを許可していない部屋や、作業対象として明示していない保管場所から無断で持ち出すなど、占有の委託そのものが及んでいないと評価される場面では窃盗罪が問題になる余地もある。どちらの罪が成立するかは契約や指示の範囲という個別の事実関係によって変わるため、相談時には「どこまでの作業・場所を任せたか」を具体的に伝えることが重要になる。

3. 発覚したとき、時効や告訴の要否はどうなるか

業務上横領罪は親告罪ではない。刑事事件を専門とする複数の法律事務所の解説によれば、被害者の告訴がなくても検察官が起訴することは法律上可能であり、告訴を起訴の要件とする「親告罪」の制限はかからない。ただし実務上は、遺族の側が被害届を提出することが捜査開始のきっかけになるのが通常の流れであり、告訴が不要だからといって警察が自発的に動き出すとは限らない。

刑事上の時効(公訴時効)にも期限がある。業務上横領罪は法定刑の上限が10年以下の拘禁刑にあたるため、「長期15年未満の拘禁刑にあたる罪」の区分に入り、公訴時効は7年だ(刑事訴訟法250条2項4号)。時効は横領行為が終わった時から進行する(同法253条1項)。売却や着服から時間が経つほど、刑事責任を追及できる余地は狭まっていく。

刑事責任とは別に、民事上の損害賠償請求も可能だ。無断売却や着服は不法行為(民法709条)にあたり、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年、または横領行為の時から20年で請求権が時効によって消滅する(民法724条)。刑事告訴をするかどうかにかかわらず、まずは被害額の算定と証拠の保全を急ぐ必要がある。

4. 遺品の買取に必要な「古物商許可」という視点

遺品の中には、着物や骨董品、貴金属など換金価値のある品が含まれることがある。こうした品を業者が買い取って転売する場合、古物営業法に基づく「古物商許可」が必要になる。愛知県警察が公表している古物営業法Q&Aによれば、古物を買い受けたり委託を受けたりして利益が生じる取引を行う場合には許可が必要とされ、完全に無償で譲り受けたものを売る場合などに限って許可が不要になるとされている。逆に言えば、遺品整理の名目で価値のある遺品を安く引き取り、無許可のまま転売するような行為は、この許可制度そのものに反する可能性があるということだ。許可制度全体の仕組みと、無許可業者に売ってしまうリスクについては遺品整理業者の「買い取ります」に許可は必要?古物商許可の仕組みと、無許可業者に売ってしまうリスクで詳しく扱っている。

無許可で古物営業を行った場合、古物営業法31条により3年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはこれらの併科という刑事罰の対象になる。罰金以上の刑を受けると許可の取消しに加えて、その後5年間は新たに許可を取得できない欠格期間も生じる。見積書や契約書に「買い取る場合の品目・金額・許可の有無」が明記されているかどうかは、業者の適法性を判断する一つの手がかりになる。

実態としてどの程度の事業者が許可を得ているのかを示す調査もある。前出の総務省行政評価局の報告書によれば、調査対象の遺品整理事業者69社のうち、古物商許可を取得していたのは59社で、内訳は古物商許可のみを取得していた事業者が32社、一般廃棄物処理業の許可と古物商許可の両方を取得していた事業者が27社だった。一方で一般廃棄物処理業の許可を取得していない事業者は35社にのぼり、このうち21社は取得を希望していると回答している。同報告書は、古物商許可を取得していても実際には買取を行わない事業者も存在し、遺品整理サービスに買取のイメージがあっても実態は必ずしもそうではないと指摘している。許可の有無だけで業者の営業実態のすべてが分かるわけではない。一般廃棄物処理業許可と古物商許可は別の制度であり、遺品整理と廃品回収を分ける許可の仕組みについては遺品整理と廃品回収は何が違う?「一般廃棄物処理業」の許可という分かれ目を解説で詳しく扱った。

5. 「勝手に売られたかもしれない」と気づいたときにすべきこと

遺品がなくなっている、あるいは無断で売却された疑いに気づいたときは、まず手元に残っている証拠を確保することが先決だ。仕分け前後の写真や動画、業者とやり取りした見積書・契約書・領収書、担当した作業員の氏名や車両のナンバーといった記録は、あとから事実関係を説明する場面で欠かせない。記憶だけに頼ると、いつ何がどれだけあったのかを示せず、話が水掛け論になりやすい。

相談先は目的によって使い分ける。契約内容や料金をめぐるトラブルとして整理したい場合は、消費者ホットライン(188)や最寄りの消費生活センターに相談できる。窃盗や横領といった犯罪の疑いが強い場合は、警察相談専用電話(#9110)や最寄りの警察署に相談し、被害届の提出を検討する。業務上横領罪は親告罪ではないとはいえ、実務上は被害届の提出が捜査の入り口になることが多い。損害賠償請求など民事上の対応まで見据える場合は、早い段階で弁護士に相談し、時効期間内に必要な手続きを取れるようにしておきたい。消費生活センターでの話し合いが不成立に終わった場合の内容証明郵便や少額訴訟という次の手段については遺品整理業者に見積もりと違う金額を請求されたら?消費生活センターで解決しないときの内容証明郵便・少額訴訟という選択肢でも扱っており、ネコババの被害回復を検討する場面でも同様の手順が使える。

6. 疑わしい業者を避けるために、契約前にできること

ネコババや無断処分のトラブルは、遺品の内容や数量、貴重品の所在があいまいなまま作業が進んでしまうことから生じやすい。作業前に現金、預金通帳、印鑑、貴金属、着物、美術品といった貴重品の所在を家族間で確認し、写真やリストとして残しておく。相続手続きに必要な書類が紛れ込んでいないかの確認も含めて、残すもの・処分するものの仕分け方は遺品整理で捨ててはいけないものとは?相続手続きに必要な書類の保管の考え方で扱っている。

見積書には処分品・保管品・買取品の区分を明記してもらい、買取品がある場合は古物商許可の番号まで確認する。作業当日はできる限り立ち会い、難しければ写真や動画での報告を受けられる業者を選ぶ。業者が実際にどこまでの作業を引き受け、何が追加料金の対象になるのかを事前に確認しておく方法は遺品整理業者はどこまでしてくれる?作業範囲と見積もりで確認すべきことで整理した。高価な遺品が見つかった場合の扱いは遺品整理で高価なものが見つかったら?勝手に処分しないための民法と相続税の基礎知識も参考にしてほしい。

契約書や領収書を必ず保管しておくこと、そして疑わしい点があれば「その場で処分・売却させない」こと。この二つを徹底するだけで、ネコババに巻き込まれる可能性は大きく下がる。

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