遺品整理で祖父名義のままの権利証が見つかったら?「数次相続」の仕組みと、代襲相続・再転相続との違いをわかりやすく解説

実家の整理をしていて、仏壇の引き出しから祖父の名前が書かれたままの土地の権利証が出てきた。祖父はもう何年も前に亡くなっているのに、名義変更をしないまま今度は母も亡くなり、二人分の相続が同時に残った状態になっている。遺産分割協議書は誰と誰の間で作ればいいのか、相続人はいったい誰になるのか、権利証を前に手が止まる。

1. 「数次相続」とは何か——遺品整理の現場でこの言葉に出会う理由

一次相続(最初に亡くなった人の相続)について遺産分割協議や相続登記が終わらないうちに、その相続人自身が死亡し、二次相続が始まってしまう状態を、実務では「数次相続」と呼ぶ。「数次相続」という言葉自体は民法の条文に出てくる用語ではなく、相続が立て続けに発生する事案を指すための実務上の呼び方である。ただし、そこで生じる権利関係は民法896条が定める一般原則、つまり相続人は相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するという包括承継のルールがそのまま二重に適用された結果にすぎない。祖父の遺産分割協議をしないまま父が亡くなった、きょうだいの一人が独身で他のきょうだいの相続手続きの途中に急死した、といった形で、遺品整理の現場では珍しくない状況である。名義変更や形見分けを後回しにしている期間が長いほど、次の相続が重なる可能性は上がっていく。

2. 似た言葉との違いを整理する——代襲相続・再転相続と「二次相続」

2-1. 代襲相続との違いは「発生のタイミング」

代襲相続は、一次相続の被相続人が死亡する前に、本来相続人になるはずだった人がすでに死亡していた場合に発生する。根拠となるのは民法887条2項で、その代襲相続人が被相続人を直接相続する権利を取得するという構成をとる。これに対して数次相続は、一次相続の被相続人が死亡した後、遺産分割が終わらないうちに相続人が死亡した場合に生じる。「相続人が先に死んでいたか、後から死んだか」という発生時点の前後関係が、両者を分ける唯一にして最大の違いになる(参照: 税理士法人ht-taxの解説)。

2-2. 再転相続との違いは「選択の余地」が残っているかどうか

再転相続は、相続人が承認・放棄のどちらを選ぶかまだ決めていない熟慮期間の途中で死亡してしまった場合に生じる、より特殊な状態を指す。根拠は民法916条で、「相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する」と定められている。数次相続との違いは、一次相続についてすでに承認したのと同じ扱いになっているか(数次相続)、それとも承認・放棄という選択自体がまだ残っているか(再転相続)という点にある。この916条の起算点をめぐっては、最高裁判所が令和元年8月9日の判決で、再転相続人の熟慮期間は「先順位の相続人としての地位を自己が承継した事実を知った時」から起算されると判断しており、単に伯父や祖父の死亡を知った時点ではなく、自分がその相続人としての立場を引き継いだと知った時点が基準になることを明確にした(スプリング法律事務所の判例紹介、ジン法律事務所弁護士法人の解説)。数次相続と再転相続はしばしば混同されるが、遺品整理の現場で圧倒的に多いのは、承認・放棄の選択が未了のまま死亡した再転相続のケースよりも、遺産分割や名義変更を先延ばしにしているうちに次の相続が重なった数次相続のケースである。

2-3. 相続税の「二次相続」とは別の言葉

相続税の相談では「一次相続」「二次相続」という言葉もよく使われるが、これは夫婦のうち先に亡くなった側の相続と、後に亡くなった側の相続を指すための税務上の呼び方であり、遺産分割が未了のまま重なっているかどうかとは関係がない。二つの相続の時期が離れていて、それぞれ問題なく分割・登記が終わっていても「一次相続」「二次相続」とは呼ぶため、遺産分割未了を意味する数次相続と同じ言葉のようでいて指している状況が違う。この記事で扱う数次相続は、あくまで遺産分割協議や相続登記が完了しないうちに次の相続が始まってしまった場合を指している。

3. 相続人の範囲は「どこまで」広がるのか

遺産分割協議に参加する権利、つまり「相続人としての地位」は、亡くなった相続人自身の相続人へとそのまま引き継がれていく。理論上は世代を重ねるごとに何度でも承継されうるが、実際には相続人の人数がそのたびに増え、面識のない親族同士で遺産分割協議をしなければならなくなる。祖父の相続人が5人、そのうち一人が亡くなればその配偶者や子が新たに加わり、次の世代でさらに枝分かれしていく。放置期間が長いほど相続人の数は増える一方であり、減ることはない。これは民法896条の包括承継が世代を超えて機械的に適用された結果であって、家族関係が疎遠かどうかとは無関係に生じる構造上の問題である。たとえば祖父の相続人がもともと子3人だったとして、その一人が遺産分割を終える前に亡くなれば、その配偶者と子1人が新たに協議に加わる形になる。この時点で協議の当事者は3人から4人に増えており、さらにこの4人のうち誰かが亡くなればまた同じことが起きる。独身のきょうだいが遺産分割の途中で急死した場合は、その相続人がその人のきょうだい(元の協議の当事者)や甥・姪にまで広がることもあり、当初は想定していなかった親族が突然協議に加わることになる。

4. 数次相続と相続放棄——選べる場面と選べない場面

4-1. 一次相続分だけを選んで放棄することはできない

数次相続が生じている場合、一次相続についてはすでに死亡した相続人(二次相続の被相続人)が単純承認したのと同じ状態になっている。したがって、二次相続の相続人が「一次相続で得た分だけ放棄して、二次相続の固有財産だけ引き継ぐ」といった選び方はできない。相続放棄をするのであれば、二次相続の相続人としての地位そのものを放棄することになり、その結果として一次相続で承継していた持分もまとめて手放すことになる。二次相続を放棄すれば一次相続分についても改めて手続きをする必要はなく、自動的に放棄した扱いになるという点は複数の専門家サイトで共通して説明されている(税理士法人ht-tax、司法書士法人さくら事務所)。すでに一次相続の遺産である不動産や預金を使ってしまっている場合は、民法上の単純承認とみなされる可能性があり、その後の放棄が認められなくなる点にも注意がいる。単純承認とみなされる行為の範囲については、遺品を勝手に処分すると相続放棄ができなくなる?「法定単純承認」をわかりやすく解説で扱っている。

4-2. 熟慮期間の起算点は「自分が相続人になったことを知った時」

数次相続の場合、二次相続の相続人としての熟慮期間は、民法915条1項の原則どおり、二次相続の開始(死亡の事実と自分が相続人であること)を知った時から3か月で計算される。前述した916条・再転相続の特別な起算点とは場面が異なるため、混同しないようにしたい。負債の有無が分からないまま放置していると、一次相続分・二次相続分をまとめて相続放棄するか、あるいは財産の範囲内でのみ債務を引き継ぐ限定承認を選ぶかを、期限内に決めなければならなくなる。限定承認という選択肢については遺品整理で借金が見つかったら?「限定承認」で実家を残す仕組みと、相続放棄との違いをわかりやすく解説で扱っている。

5. 遺産分割協議書はどう書けばいいのか——「相続人兼被相続人」という書き方

数次相続が発生した後に一次相続の遺産分割協議書を作る場合、すでに死亡している二次相続の被相続人については、一次相続の相続人としての立場と、二次相続の被相続人としての立場の両方を書面上に示す必要がある。実務上は「相続人兼被相続人」という肩書を付け、その人物の相続人(つまり二次相続の相続人)が代わりに署名・押印するという形をとる。署名欄には「相続人兼〇〇の相続人」のように記載する運用が広く行われている(税理士法人ht-taxの記載例)。一次相続と二次相続を1通の協議書にまとめて作成することも、別々の協議書に分けて作成することも可能で、相続人の構成や不動産の分け方が複雑な場合は分けて作成したほうが後から見返しやすい。基本的な協議書の書き方や、あとから財産が見つかった場合の対処法は遺品整理で通帳や実印が出てきたら?遺産分割協議書の書き方と、あとから財産が見つかった場合の対処法で解説している。

6. 相続登記はどうなるのか——中間省略登記ができる場合とできない場合

2024年4月の相続登記義務化以降、こうした名義変更を放置すること自体に過料のリスクが生じるようになった。制度の詳細は遺品整理で見つかった権利証はどうする?2024年に始まった相続登記の義務化をわかりやすく解説で扱っているが、数次相続に特有の論点として、祖父から父を経て孫へと二段階で名義変更するのではなく、祖父から孫へ一気に名義を移す「中間省略登記」が使えるかどうかという問題がある。中間省略登記が認められるのは、中間に立つ相続人(一次相続の相続人であり二次相続の被相続人)が単独で不動産を取得した場合に限られる。中間の相続人がもともと一人しかいなかった場合のほか、遺産分割協議によって中間の相続人一人が取得することになった場合や、他の相続人が相続放棄をした結果として単独になった場合も含まれる。この扱いの根拠は昭和30年12月16日民事甲第2670号民事局長回答という登記先例にあり、中間の相続人が複数のまま確定している場合には、原則どおり祖父から父への登記、父から孫への登記という二段階の申請が必要になる(行政書士法人Treeの解説、はる司法書士事務所の解説)。中間省略ができるかどうかは、一次相続の遺産分割の内容が確定して初めて判断できるため、まず一次相続をどう分けるかを決めることが登記の前提になる。

7. 相続税を計算するときに見落としやすい「相次相続控除」

数次相続と名前がよく似た制度に、相続税法20条が定める「相次相続控除」がある。これは遺産分割の未了・完了とは関係なく、今回の相続開始前10年以内に開始した相続によって被相続人が財産を取得しており、かつその財産について被相続人自身に相続税が課税されていた場合に、今回の相続税額から一定額を差し引ける仕組みである。控除額は、前の相続で課された相続税額に、前の相続から今回の相続までの期間に応じて1年につき10パーセントの割合で逓減する係数などを掛け合わせて算出する(国税庁タックスアンサーNo.4168)。相続放棄をした人はこの控除の対象にならない。遺品整理をしていて祖父の代からの相続が続けて発生していたと分かった場合、今回の相続税を計算する前に、前の相続で相続税がいくら課されていたかを確認しておくと、控除の適用漏れを防げる。相続税額の基本的な計算方法は遺品整理で相続税がかかりそうだと分かったら?速算表を使った税額の計算方法と、配偶者の税額軽減・2割加算までわかりやすく解説で解説している。数次相続(遺産分割が未了のまま相続が重なる状態)と相次相続控除(税額を軽減する制度)は名前こそ似ているが別物であり、混同すると控除の適用漏れや逆の勘違いにつながりやすい。

二つの相続を一度に動かそうとする前に、まず一次相続の状態を確定させる

数次相続で最初につまずくのは、二つの相続をいきなり一緒に処理しようとしてしまうことだ。だが実際に決めるべき順番は逆で、まず一次相続の遺産分割協議がどこまで進んでいたのか、相続人は誰で、誰がどの財産を取得することになっていたのかを確定させることが先になる。それが固まって初めて、二次相続の相続人が何を承継したのかが定まり、遺産分割協議書の書き方も、登記で中間省略が使えるかどうかも、相続税の計算も後から積み上げられる。仏壇の引き出しから出てきた祖父名義の権利証は、まずその一次相続を終わらせてほしいという合図として受け止めるところから始めることになる。

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