遺品整理で衣装ケースや引き出しの奥を片づけていると、使われなくなった古いモバイルバッテリーがいくつもまとまって出てくることがある。スマートフォンのおまけでもらったもの、旅行用に買い足したもの、型番も分からなくなったもの。充電ケーブルと一緒に不燃ごみの袋へそのまま入れてしまいたくなるが、この手のひらサイズの電池が原因の火災は近年急増しており、ごみ収集車や処理施設で実際に発火した事例が相次いでいる。
なぜモバイルバッテリーの火災がこれほど増えているのか
消防庁が令和8年3月26日に公表した調査結果では、リチウムイオン電池等が原因とみられる火災は令和4年の601件から令和5年739件、令和6年982件と増え続け、令和7年には1,297件に達したと報告されている。このうちごみ処理関連施設と収集車(塵芥車)での火災だけで令和7年は213件(ごみ処理関連施設106件、塵芥車107件)にのぼる。消防庁が公開している注意喚起資料では、令和7年のモバイルバッテリーからの出火は482件で製品別の中でも突出して多く、令和6年の290件と比べて前年からおよそ7割増加したという。出火原因の上位は「地面に落とすなどの外部からの衝撃」と「車内など高温になる場所での使用・保管」が占めている。遺品整理で集めた段ボール箱を車のトランクに積みっぱなしにする、作業中に床へ落としてしまうといった何気ない場面が、そのまま火災のきっかけになりかねない。
実際の事故も起きている。福岡市が公表した報道発表によれば、2026年6月13日未明、不燃ごみを収集中のパッカー車から出火し、車両1台が大きく損傷して廃車になった。収集していたごみの中には多量のガスボンベに加え、リチウムイオン電池を使う充電式掃除機が含まれていたという。パッカー車は内部でごみを圧縮する仕組みのため、内蔵電池が押しつぶされればそのまま発火につながる。遺品整理でまとめて出す不燃ごみの中に、こうした充電式の製品が紛れ込んでいないか、袋に入れる前に見直す価値がある。
「小形二次電池」として回収が法律で義務づけられている
モバイルバッテリーに使われているリチウムイオン電池は、乾電池のように自由に捨ててよいものではない。2001年4月に施行された「資源の有効な利用の促進に関する法律」(資源有効利用促進法)は、ニカド電池・ニッケル水素電池・リチウム二次電池・小形シール鉛蓄電池を「指定再資源化製品」と位置づけ、環境省の説明によれば製造事業者・輸入事業者に自主回収と再資源化の取り組みを求めている。電動工具やコードレス電話、ビデオカメラなど電池を内蔵した28品目についても、メーカー側に同様の自主回収の取り組みが課されている。
この自主回収の実務を担っているのが一般社団法人JBRCだ。JBRCの案内では、会員企業が製造した小型充電式電池であれば、全国の協力店(家電量販店やホームセンターなど)に設置された回収ボックスに、金属端子部分をビニールテープで絶縁したうえで入れられるとされている。遺品整理で出てきたモバイルバッテリーも、メーカーがJBRC会員であれば、このルートに乗せれば費用はかからない。
注意したいのは、このJBRCのルートが前提にしているのは「電池を本体から取り外せる製品」だという点だ。スマートフォンのように電池が内蔵され、利用者が自分で取り外せない機種は、電池単体としてではなく端末ごと小型家電リサイクル法の回収ルートに乗せ、解体時に認定事業者の手で電池が取り出される。遺品整理で出てきた古いモバイルバッテリー本体は資源有効利用促進法とJBRCのルートへ、ロックのかかったスマートフォンや古いノートパソコンは小型家電リサイクル法のルートへと、見た目は似ていても処分先が分かれる点を押さえておくと迷いが減る。
膨らんだ・壊れたバッテリーは回収ボックスに入れてはいけない
ただし、どんな状態の電池でも回収ボックスに入れてよいわけではない。JBRCは回収対象を「破損、水濡れや膨張等の異常のない」電池に限っており、変形や膨張が見られるものはそもそも回収ボックスの受け入れ対象から外れる。長期間使われずに眠っていたモバイルバッテリーは、外から見ただけでは分からないレベルで劣化・膨張していることがあり、ボックスの中で他の電池と押し合う形になれば発火の引き金になる。
膨らんだ電池が見つかった場合の対応は、自治体ごとに個別の窓口が用意されていることが多い。西東京市の案内は、膨張したリチウムイオン電池について「衝撃を与えることなどで発火の恐れがある」ため通常の排出方法は使えないとし、資源循環推進課の窓口へ平日の時間内に直接持ち込むよう求めている。分解してガスを抜こうとする行為は厳禁で、衝撃を与えないよう慎重に運ぶことが前提になる。遺品整理で見つけたバッテリーに膨らみや変形があれば、回収ボックスに入れる前に自治体の資源循環担当やごみ減量担当の窓口へ電話で確認したほうがよい。
自治体によって分別区分も回収方法も違う
正常な状態の電池であっても、出し方は住んでいる自治体によって大きく異なる。大阪市は、市内の環境事業センターに設置した回収ボックスへの持ち込み(拠点回収)に加え、電話を申し込めば職員が自宅まで回収に来る「訪問回収」も独自に用意しており、JBRC協力店での回収とは別のルートとして選べる。郡山市のように、市指定の回収場所とJBRC協力店の両方を併用している自治体もある。一方で川崎市は、本体の長辺が30cm未満のモバイルバッテリーを「小物金属」の収集日に出すよう案内しており、30cm以上になると粗大ごみ受付センターへの申し込みと手数料が必要になる。実家のある自治体と自分が住む自治体のルールが違うことは珍しくなく、住み慣れたほうの方法をそのまま当てはめると回収してもらえないことがある。
端子部分の絶縁処理も、多くの自治体が共通して求めている手順だ。相模原市の案内も、排出の際には必ずビニールテープなどで金属の露出部分を覆うよう求めている。絶縁をせずに出すと、収集時に他の金属ごみと接触してショートし、発火の原因になる。遺品整理でまとまった数のモバイルバッテリーが出てきた場合は、一つずつ端子にテープを貼ってから、実家のある自治体のごみ分別ページで該当する区分を確認するのが確実だ。
仲間の製品にも同じ注意が必要
遺品整理で火災のリスクを持つのはモバイルバッテリーだけではない。ワイヤレスイヤホンや電動ひげ剃り、携帯用扇風機、加熱式たばこの機器も、同じリチウムイオン電池を内蔵している。遺品の仕分け手順を扱った別記事「遺品整理は何から手をつける?」でも触れているとおり、消費者庁はワイヤレスイヤホン・スマートウォッチ・携帯用扇風機で起きた発煙・発火事故が2020年度から2024年度の5年間で162件報告され、うち8割以上がリチウムイオン電池に起因すると公表している。引き出しの中にこうした小物が複数残っていた場合も、同じように端子を絶縁し、自治体が指定する区分に分けて出す必要がある。
制度は変わりつつある――モバイルバッテリーが「小型家電」の対象に加わる見通し
遺品整理では、スマートフォンやデジタルカメラの処分先として小型家電リサイクル法のルートがよく使われるが、モバイルバッテリー自体はこれまでこの法律の対象品目に含まれてこなかった。環境省・経済産業省の合同審議会資料は、小型家電リサイクル認定事業者の施設で2024年度だけで312件の発火事故が発生したとしたうえで、モバイルバッテリー・ポータブル電源・加熱式たばこデバイス・電子たばこデバイスの4品目を新たに対象品目へ加える方針を示している。2026年3月の報道によれば、この方針自体は環境省・経済産業省から示されたものの、政令改正の具体的な施行時期はまだ決まっていない。制度が切り替わるまでの間は、今までどおり自治体が指定する「電池類」「有害ごみ」の区分と、JBRCの回収ボックスを使い分けて処分することになる。
処分の前に、中のデータと資産価値を確認しておく
モバイルバッテリー自体に価値はなくても、一緒に出てきたスマートフォンやノートパソコンには、処分前に確認しておきたい情報が残っていることが多い。ネットバンキングやSNS、暗号資産取引所のログイン情報が端末にそのまま残っているケースは別記事「デジタル遺品とは?」で扱っている。また、購入して間もない高性能な端末やゲーム機を独断で売却・廃棄してしまうと、相続放棄を検討している他の相続人がいる場合に法定単純承認とみなされる余地が残る点は別記事「遺品整理で高価なものが見つかったら?」で解説したとおりだ。モバイルバッテリーのような小さな電池ひとつでも、取り出した端末の中身を確認してから処分する順番を守ることが、火災と相続トラブルの両方を避ける近道になる。

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