仏壇の引き出しを片付けていたら、輪ゴムで束ねられたビール券と、使いかけの図書カードが何十枚も出てきた。古い全国百貨店共通商品券に混じって、角が変色した商品券も交じっている。現金や預金通帳なら相続財産だとすぐに分かるが、紙切れのように見える商品券を遺品としてどう扱えばいいのか、判断に迷う人は少なくない。好きに使ってしまってよいのか、それとも相続人全員で分けるべきものなのか、そこには法律上の線引きがある。
商品券も、現金や貴金属と同じく遺産分割の対象になる
民法896条は、相続人が被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めている。商品券は不動産でも株式のような有価証券でもないが、金銭的な価値を持つ以上、この「財産に属した権利」から外れるわけではない。遺産分割の対象となる財産は一般に不動産・動産・有価証券・預貯金債権などに分類され、現金や貴金属、骨董品といった具体的な換金価値を持つものは「動産」として整理される。弁護士法人による遺産分割対象財産の解説でも、現金や家財道具、貴金属・宝石類が動産として遺産分割協議の対象に含まれることが示されている。商品券はこの現金に近い動産の一種として扱われ、見つけた相続人が一人で使い切ってよいものではない。日本語版Wikipediaの商品券の項目が指摘するとおり、商品券には貨幣のような強制通用力はないが、券面に記載された金額分の商品やサービスを受け取れる財産的な権利であることに変わりはなく、高価な遺品を独断で処分してはいけないという考え方は、金額の大小を問わず商品券にも当てはまる。
相続税の申告では、額面相当額として評価されるのが実務上の扱い
財産評価基本通達には、商品券やギフト券を個別に評価するための条文は置かれていない。通達の第1章総則に定められた国税庁の財産評価基本通達5項(評価方法の定めのない財産の評価)は、「この通達に評価方法の定めのない財産の価額は、この通達に定める評価方法に準じて評価する」とだけ定めている。商品券の場合、死亡時点で未使用のまま残っている金額、つまり額面から使用済み分を差し引いた残高を、現金に準じた評価額として申告に計上する取り扱いが実務上広く行われている。券面1000円の商品券が数枚出てきた程度であれば相続財産全体に占める影響はごくわずかだが、同じ発行元の商品券が束になって何十枚も見つかれば、額面を合計するだけで数万円から十万円単位になることもある。その金額が、基礎控除を踏まえて相続税の申告が必要かどうかを判断する材料の一つになる以上、見つけた枚数と額面はいったん数えて記録しておく値打ちがある。
有効期限の有無は、法律ではなく商品券ごとの規約で決まる
商品券は資金決済法3条1項が定める「前払式支払手段」にあたり、金融庁が整理する前払式支払手段の制度解説でも、商品券・ギフト券・プリペイドカードなどの総称として位置づけられている。この資金決済法は発行者の届出や供託といった義務を定めている一方で、商品券そのものの有効期限を一律に義務付ける規定は置いていない。有効期限を設けるかどうか、設けるとして何年にするかは、法律ではなく個々の発行者が定める利用規約次第ということになる。古くからある全国共通の百貨店商品券のように発行から何年経っても使えるものがある一方、自治体が地域振興のために期間限定で売り出すプレミアム付商品券のように、発行から1年に満たない使用期限が設定されているものもある。期限が過ぎた商品券は店舗での利用も換金もできなくなり、相続財産としての評価額も実質的にゼロになる。遺品の中から商品券が出てきたとき最初に確認すべきは、券面や台紙に印字された使用期限の有無と日付になる。
紛失・破損していた商品券は、原則として再発行されない
商品券には名前の記載がなく、持参した人に対して発行者が給付する仕組みになっている。そのため紛失や盗難、破損があっても、発行者が再発行に応じない規約を定めている例が多い。地域振興を目的に自治体が発行するプレミアム付商品券では、この点が利用規約に明文化されていることがある。たとえば広島市が発行したプレミアム付商品券の利用規約第7条は「商品券は、盗難、紛失、滅失、毀損、偽造その他の理由により再発行しない」と定め、第22条では使用期限の到来による失効に加えて、購入者が死亡した場合でも未利用の商品券の残高について返金や換金を行わない旨まで明記している。すべての商品券がここまで厳格とは限らないが、券面の一部が破れていたり、印字が薄れて読み取れなくなっていたりする遺品については、使える前提で数に入れず、発行元の問い合わせ窓口に現物の状態を伝えて確認する必要がある。
発行会社が廃業していても、払戻しを受けられる期間が残っていることがある
デパートや商店会が発行した商品券の中には、発行元がすでに営業をやめているものが混ざっていることもある。資金決済法20条1項は、前払式支払手段の発行者が利用を終了する際に、保有者に対して払戻し手続を実施するよう義務付けている。関東財務局が公開している払戻しに関するチェックリストによれば、発行者は60日を下回らない期間(利用者の便宜の観点から90日以上が望ましいとされる)を払戻しの申出期間として設定し、官報や日刊新聞紙、電子公告のいずれかで公告したうえで、営業所や加盟店の目につきやすい場所にも掲示することとされている。申出期間内に発行者へ申し出なければ、その権利は除斥され払戻しを受けられなくなる。発行元の名称が券面から分かる場合は、金融庁のウェブサイトに掲載されている廃止・払戻しに関する公告を確認すれば、その商品券がまだ払戻しの対象になっているかどうかの手がかりが得られる。
相続人どうしでどう分けるか、協議書にどう書くか
商品券は現金のように自由な金額で分けられるわけではなく、500円券や1000円券といった券面の単位でしか分割できないという制約がある。枚数が少なければ、相続人の一人がまとめて引き取る代わりに、その額面相当額を他の遺産の取り分から差し引いて調整するという処理を、遺産分割協議の中で決めることもできる。どのような分け方をしたかは、現金や家財道具と同じように遺産分割協議書に記載しておくと、あとから「誰が何枚使ったか分からない」という行き違いを防ぎやすい。遺産分割協議書の書き方では、商品券のような少額の動産もまとめて「その他動産一式」として記載する方法と、金額が大きい場合に個別の品目として書き出す方法のどちらもありうる。
使ってしまう前に、相続放棄を検討しているかどうかを確認する
額面が数千円程度の商品券であっても、使ってしまう前に立ち止まったほうがよい場面がある。相続人が相続財産の全部または一部を処分すると、民法上は単純承認をしたものとみなされ、その後に相続放棄や限定承認を選ぶ道が閉ざされる。相続放棄をするかどうかを判断できる期間は、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内と定められている。故人にどれほどの借金があるか分からない段階で、遺品整理の最中に出てきた商品券を日用品の買い物に使ってしまうと、後から多額の債務が判明しても相続放棄ができなくなるおそれがある。額面がどれほど小さく見えても、相続放棄を検討している間は手を付けずに保管し、発行元の規約と使用期限を確かめてから、相続人全員で次の扱いを決める。

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