遺品整理でゴルフ会員権が見つかったら?相続税評価の仕組みと、名義変更・退会という二つの選択肢

父の机の引き出しや、古い書類ファイルの中から、色あせたゴルフ会員権の証書と、年会費の振込用紙が一緒に出てくることがある。株式や預金通帳のように額面がはっきりしているわけでもなく、ただの古いカードのようにも見えるが、ゴルフ会員権はそれ自体が「物」なのではなく、プレーできる権利と預託金を返してもらう権利がセットになった、契約上の地位にあたる。名義を引き継ぐか、それとも退会して預託金を返してもらうか。会員権の正体を知らないまま急いで結論を出すと、評価や相続放棄の判断を誤りかねない。

ゴルフ会員権は「物」ではなく契約上の地位である

日本のゴルフ会員権の多くは「預託金会員制」と呼ばれる仕組みを採っている。入会時にゴルフ場の運営会社へ一定額の預託金を預け、その見返りとしてプレーする権利を得る一方で、退会時には預けた預託金の返還を請求できる、という契約関係である。このほかに、株式を保有することが会員の条件になっている「株主会員制」、株主であることに加えて預託金も必要な「株主・預託金併用制」もあり、どの方式かによって評価の方法が変わってくる。

相続の場面でまず押さえておきたいのは、ゴルフ会員権が相続人にとってプラスの財産であると同時に、年会費の支払義務という負担も一緒に引き継がれる財産だという点である。会員権を名義変更して使い続けるのか、退会して預託金の返還を受けるのか、あるいはそのどちらも選ばずに放置してしまうのかによって、その後の扱いが大きく変わってくる。

相続税の評価はどう決まるか

ゴルフ会員権も、現金や不動産と同様に相続税の課税対象になり得る財産である。国税庁のタックスアンサー「No.4647 ゴルフ会員権の評価」および財産評価基本通達211では、ゴルフ会員権の評価方法が取引相場の有無によって分けて定められている。

取引相場があるゴルフ会員権については、課税時期における通常の取引価格の70パーセントに相当する金額で評価する。さらに、そのゴルフ場に預託金等を預けている場合は、相続開始時点ですぐに返還を受けられる金額、または一定の据置期間を経過した後に返還を受けられる金額を複利現価の額に引き直したものを、取引価格の70パーセント評価額に加算する。預託金の全額がそのまま評価額に乗るわけではなく、将来受け取れる時点までの金利相当分を割り引いた金額で計算する点が特徴である。

取引相場のないゴルフ会員権は、さらに三つのパターンに分かれる。株主であることだけが会員の条件になっている会員権は、保有する株式の評価額がそのままゴルフ会員権の評価額になる。株主であることに加えて預託金等の預託も必要な会員権は、株式部分と預託金部分をそれぞれ個別の方法で評価したうえで合算する。預託金等を預けるだけで会員になれる会員権は、取引相場のある会員権と同じ考え方で預託金部分を評価する。なお、株式でも預託金でもなく、譲渡もできず、単にプレーできる機能だけを持つ会員権については、相続税の評価対象にはならないとされている。

どのパターンに当てはまるかは、入会時の規約や証書の記載を見ないと判断できないことが多い。評価額が確定しないまま遺産分割や相続税の申告期限が迫ってくることもあるため、会員権証書が見つかった段階で、どの種類の会員権にあたるのかをゴルフ場に問い合わせておくと、後の手続きがスムーズになる。遺産総額が相続税の基礎控除額を超えるかどうかの判断については「遺品整理で通帳や証券会社からの書類が何通も出てきたら?相続税の申告が必要かどうかの判断基準と、10か月の申告期限を解説」で取り上げている。

名義変更か、退会して預託金の返還を受けるか

相続人がゴルフ会員権を引き継ぐかどうかを決める際、選択肢は大きく二つに分かれる。一つは、ゴルフ場に相続による名義書換を申請し、相続人の誰かがそのまま会員として利用を続ける方法である。この場合、戸籍謄本一式や遺産分割協議書、印鑑証明書に加えて会員証券の提出を求められるのが一般的で、税理士事務所の解説記事では「ゴルフ会員権の相続手続き|名義書換・退会・預託金の返還」として、名義書換料がゴルフ場ごとの規約によって数万円から数十万円規模になることもあると紹介されている。全国一律の相場があるわけではなく、金額はゴルフ場の規約次第である。

もう一つの選択肢は、会員権を相続した後に退会を申し出て、預託金の返還を請求する方法である。ただし、ここには大きな制約がある。預託金には据置期間が設けられていることが多く、入会から一定の年数が経過するまでは返還を請求できない規約になっているゴルフ場が少なくない。しかも、バブル崩壊以降に経営状況が悪化したゴルフ場では、据置期間が満了しても預託金が予定どおりに返還されなかったり、減額されたりするケースがある。会員権を「資産」として単純に捉えるのではなく、返還を受けられるかどうかの不確実性も含めて検討する必要がある。

名義変更の届け出期限は、死亡日ではなく遺産分割協議が成立した日から数える

ゴルフクラブの会則では、会員が死亡した場合、相続人は一定の期間内に「預託金の返還」「相続人のうち一名への名義書換」「第三者への会員資格の譲渡」のいずれかを選んで届け出なければならない、と定められていることが多い。この届出期間の起算点をめぐって争われた裁判例がある。

最高裁判所第三小法廷は平成9年5月27日の判決で、会則上「死亡後六箇月以内」に手続きを選択して届け出るよう定められていたケースについて、この六箇月の期間は被相続人の死亡日からではなく、遺産分割協議が成立した日から起算すべきだと判断した。判決は、会員権が譲渡可能で市場でも預託金額を上回る価格で取引されており、会費もきちんと納入されている状況であれば、相続人の手続きが多少遅れてもゴルフクラブ側が特別な不利益を被るわけではない、という事情を踏まえたものである。相続人同士の遺産分割協議が長引いているあいだに、ゴルフ会員権の名義変更の期限だけが機械的に過ぎてしまうのではないか、という不安を持つ必要はない、ということになる。

もっとも、この判決はあくまで当時の会則や取引状況を前提にした判断であり、すべてのゴルフクラブに当然に当てはまるわけではない。会則の内容と届出期間は、結局のところゴルフ場に直接確認するしかない。

相続放棄を考えているなら、名義変更や利用に注意する

借金などのマイナスの財産が多く、相続放棄を検討している場合、ゴルフ会員権の扱いには注意が要る。相続放棄は、預貯金や不動産といったプラスの財産と、借金などのマイナスの財産をまとめて放棄する手続きであり、ゴルフ会員権だけを選んで放棄する、ということはできない。

さらに気をつけたいのは、相続放棄をする前に名義変更の手続きを進めたり、会員として実際にプレーを続けたりすると、相続財産を処分したとみなされて、相続放棄や限定承認ができなくなる可能性があることだ。民法921条1号は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなすと定めている。ゴルフ会員権の名義書換の申請や、会員としての利用継続が、ここでいう「処分」に該当するかどうかは個別の事情によって判断が分かれ得るため、相続放棄を考えている段階では、会員権の名義変更にも利用にも手をつけず、専門家に相談してから動くべきだ。遺品を独断で処分した場合に単純承認とみなされる仕組み全般については「遺品を勝手に処分すると相続放棄ができなくなる?『法定単純承認』をわかりやすく解説」で詳しく取り上げている。会員権に限らず、評価に迷う高価な遺品が見つかったときにまず手を止めて記録を残すという基本姿勢は「遺品整理で高価なものが見つかったら?勝手に処分しないための民法と相続税の基礎知識」で解説した考え方と共通している。

ゴルフ場の経営交代や倒産で預託金はどうなるか

ゴルフ会員権をめぐるもう一つの不安材料は、ゴルフ場を運営する会社自体の経営状況である。預託金返還請求権は、株式や抵当権付きの債権のように優先的に保護される権利ではなく、一般の債権として扱われる。運営会社が経営破綻した場合、他の債権者と同様の扱いを受けるため、預託金の全額が戻ってくる保証はない。

運営会社が別の会社に事業を譲渡したり、会社分割によってゴルフ場事業だけを切り離したりするケースも珍しくない。最高裁判所第三小法廷は平成20年6月10日の判決で、会社分割によってゴルフ場事業を承継した会社が、分割前と同じクラブの名称を引き続き使用している場合には、会社法22条1項の規定を類推適用して、承継会社が預託金の返還義務を負うことを認めた。経営主体が変わったことを理由に預託金の返還義務そのものが消えてしまうわけではない、という方向性を示した判決だが、だからといって返還が確実に保証されるわけではなく、交渉や訴訟に発展する余地も残る。相続したゴルフ会員権の運営会社が経営交代や会社分割を経ている場合は、現在の運営状況を確認したうえで、名義変更を続けるか退会するかを判断したほうがよい。

証書を見つけたら、まず種類と運営状況を確認する

ゴルフ会員権は、見つかった瞬間にはただの古い証書にしか見えないが、相続税の評価が必要になる財産であり、年会費という負担も伴い、相続放棄の判断にも影響し得る、扱いの難しい遺品のひとつである。証書が出てきたら、まずはそれが預託金会員制なのか株主会員制なのかを確認し、ゴルフ場に問い合わせて現在の運営状況と据置期間を把握する。名義変更を急ぐ必要はないが、相続放棄を考えている場合は、名義変更の手続きにも利用にも手をつけないことが、選択肢を残す一番の近道になる。

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