遺品整理をしていると、実家の車庫や月極駐車場に置かれたままの車に行き当たることがある。鍵は見つかったし、バッテリーも上がっていなければ動かせる状態だ。だが車検証を見ると、所有者の欄は亡くなった親の名前のままになっている。売るのか、廃車にするのか、それとも誰かが乗り続けるのか——方針を決める前に買い物や通院の送迎にうっかり使ってしまうと、実はそれだけで相続の選択肢を狭めてしまう場合がある。
車も相続財産——相続人全員の共有になる
自動車は不動産や預貯金と同じく、相続財産を構成する動産の一つである。被相続人が死亡した時点で、遺産分割が終わるまでの間、相続財産は相続人全員の共有状態になる(民法898条)。これは現金や通帳だけでなく、車のような「動かせるもの」にもそのまま当てはまる。
したがって、相続人の一人が他の相続人に断りなく車を売ってしまったり、知人に譲ってしまったりすることは原則としてできない。遺品をどう仕分けるか、誰が何を引き継ぐかを相続人全員で話し合う必要があるかという論点は車にも及ぶし、売却して現金化する場合も遺品を売るときに必要な相続人全員の同意が前提になる。
名義変更をしないとどうなるか——道路運送車両法の「15日ルール」
自動車の所有者が死亡したという事実は、車検証の名義を直ちに書き換えなければならないという法律上の義務を発生させる。道路運送車両法第12条第1項は、自動車の所有者に変更があった場合、その事由があった日から15日以内に変更登録の申請をしなければならないと定めている。これは引っ越しによる住所変更の場合と同じ条文で、所有者の死亡による変更も対象になる。
この申請を怠った場合には罰則が科される可能性がある。茨城県が自動車税の案内文書で示しているとおり、「変更登録・移転登録はそれぞれ15日以内にしなければなりません。これに違反すると、罰金(50万円以下)が科せられることもあります」という扱いになっており、自動車専門メディアの解説でも同様に50万円以下の罰金という罰則が紹介されている。実際に罰金が科されるケースは多くないとしても、名義変更をしないままでは車を売ることも廃車にすることもできず、さらに自動車税(種別割)は車検証の登録情報に基づいて課税されるため、名義変更をしない限り納税通知書は亡くなった人の名前で送られ続けることになる。
相続による名義変更の進め方——普通車と軽自動車で窓口が違う
相続を理由とする名義変更(移転登録)は、普通自動車であれば車の使用の本拠地を管轄する運輸支局、軽自動車であれば軽自動車検査協会が窓口になる。どちらも「死亡した人の名義から、相続人の名義へ」という点では同じだが、求められる書類の組み合わせが少し異なる。
遺品として出てくるのは普通車・軽自動車だけではない。126cc以上のバイクは普通車と同じく運輸支局の扱いになるが、125cc以下の原付は窓口が変わり、使用の本拠地の市区町村役場(税務課など)で名義変更か廃車の手続きを行う。たとえば静岡市の案内では、故人の戸籍謄本か法定相続情報一覧図の提示を基本としつつ、故人と相続人が同一世帯で住民票上も確認できる場合には、この書類の提示自体を省略できるとされている。原付は自治体ごとに扱いが細かく異なるため、車検証にあたる標識交付証明書を手元に、窓口へ直接問い合わせるのが近道になる。
普通車・軽自動車に話を戻すと、名義変更で基本的に必要になるのは、車検証、被相続人の死亡と相続人の範囲がわかる戸籍謄本(または法定相続情報一覧図)、申請する相続人の実印を押した印鑑証明書である。相続人が複数いて、その中の一人が単独で車を引き継ぐ場合は、相続人全員の実印が押された遺産分割協議書(または遺言書、調停調書など)を添える必要がある。これに対し、複数の相続人が共有名義のまま登録する場合は、遺産分割協議書は原則不要とされている。
もう一つ、車両の価格が100万円以下であることを確認できる場合には、簡易な扱いが用意されている。関東運輸局や北陸信越運輸局(石川)が案内しているとおり、査定証や査定価格のわかる資料を添付することで、相続人全員の実印を集めた遺産分割協議書に代えて、申請する相続人一人の実印だけで済む「遺産分割協議成立申立書」を使うことができる。古い車や軽自動車のように資産価値が小さい車では、この方法で手続きの負担をかなり減らせる。
使わない車は廃車か売却か——リサイクル券と税金の還付
相続人の誰も乗らない車であれば、名義変更を済ませたうえで廃車(抹消登録)にするか、買取業者やディーラーに売却するかを選ぶことになる。廃車には、再登録を前提とした「一時抹消登録」と、二度と公道を走らせない「永久抹消登録」の二種類があり、どちらも自動車リサイクル法に基づくリサイクル料金(リサイクル券)がすでに車両購入時に預託されているかどうかの確認が必要になる。
永久抹消登録をした場合は、自動車税(種別割)の還付を受けられる仕組みもある。大阪府の案内によれば、「抹消登録した月の翌月から月割で減額(還付)」される。還付の窓口は都道府県ごとの税事務所になるため、具体的な手続きは車の使用の本拠地を管轄する自治体に確認するのが確実である。いずれの方法でも、名義変更を終えていない車は売ることも廃車にすることもできない点は変わらない。
自動車保険・自賠責保険の名義変更も忘れずに
車検証の名義変更に話が向きがちだが、自動車保険(任意保険)と自賠責保険の契約者・記名被保険者の変更も別に必要になる。保険会社大手の案内では、「記名被保険者や契約者が亡くなったときは、記名被保険者や契約者の名義を変更する必要があります」とされており、まずは保険会社に連絡して手続きを確認することになる。
長年かけて積み上げてきたノンフリート等級(事故を起こさないほど保険料が安くなる等級)も、名義変更にあわせて引き継げるかどうかが分かれ目になる。保険会社の案内によれば、記名被保険者の配偶者または同居の親族であれば、等級をそのまま引き継ぐことができる。たとえば同居していた子どもが親の車を引き継ぐ場合、記名被保険者を子どもに変更することで、親が積み上げてきた等級をそのまま使える。ただし運転者限定特約(本人限定、配偶者限定など)がついている場合、新しい記名被保険者がその範囲に含まれているかどうかを必ず確認する必要がある。範囲が合っていないと、万が一の事故のときに補償を受けられないおそれがある。
相続放棄を考えているなら、車を動かす前に立ち止まる
借金の方が多いなど相続放棄を検討している場合は、名義変更どころか、車を日常的に使うことそのものが問題になりうる。相続人が相続財産の全部または一部を「処分」したときは、単純承認をしたものとみなされ、あとから相続放棄や限定承認を選ぶことができなくなる(法定単純承認、民法921条1号)。車を売ったり廃車にしたりする行為はもちろん、日常的に乗り続けて経済的価値を消費する使い方も、処分とみなされるリスクがある場面として挙げられている。相続放棄をするかどうか決まっていない車には、まず鍵をかけたまま動かさないでおくのが安全である。
借金だけでなく、車自体にローンが残っているケースにも注意したい。ローンが残っている車は、所有権がディーラーや信販会社に留保されている(車検証の所有者欄が信販会社名になっている)ことが多く、相続人が自由に名義変更できる対象ではない。ローン会社に死亡の事実を伝え、残債の扱いを確認するところから始まる。借金そのものが多く限定承認を検討している場合は、車もその対象財産に含めて考えることになる。なお、車の資産価値をどう見積もるかという論点は、遺品整理で高価なものが見つかった場合の考え方と共通する部分が多い。
動かす前に、処分の方針を決める
車は家財の中でも扱いが分かれやすい遺品である。名義変更を済ませなければ売却も廃車もできず、保険の等級や自動車税の扱いも名義が変わるまで宙に浮いたままになる。それでいて、相続放棄を考えている最中にうっかり使ってしまうと選択肢そのものを失う。車検証を確認した時点で、まずエンジンをかけずに、相続人全員でどう引き継ぐかを決めることが、後の手続きをすべて単純にする一番の近道になる。

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