遺品整理で薬が大量に出てきたら?医療用麻薬・向精神薬は普通のごみに出せない理由

枕元の引き出しや、入院していた病室から持ち帰った紙袋の中に、錠剤のシートや湿布、座薬、使いかけの注射薬がひとまとめに入っていることがある。市販の胃薬や目薬と並んで、がんの痛みを抑えるために処方されていた医療用麻薬や、眠れない夜のための向精神薬のシートが混ざっていても、見た目だけでは区別がつかない。すべてを同じ「不要な薬」として可燃ごみにまとめて出してしまっていいのかは、実は薬の種類によって答えが変わる。

1. 市販薬や余った処方薬は、何ごみとして出せばいいのか

家庭から出る不要な薬の収集・分別のルールを具体的に定めているのは、国ではなく自治体になる。多くの自治体では一般廃棄物の区分で扱われているが、実際にどの区分で出せるかは地域差が大きく、居住地のルールを個別に確認する必要がある。船橋市のように、誤飲事故を防ぐ目的で薬局やドラッグストアの店頭に「お薬回収店」のステッカーを掲示し、使用期限切れの薬や飲み残しを無料で引き取る仕組みを案内している自治体もある。スプレー缶の処分と同じで、薬の出し方にも全国一律のルールは存在しない。

入院していた場合は、死亡時や退院時に病院から私物とともに薬が返却されることもある。渡された薬袋の中にどんな薬が入っているかは、名前だけでは分からないことが多いので、袋ごと処分する前に次の章以降を確認したほうがいい。

2. がんの痛みを抑える「医療用麻薬」が残っていたら

在宅での緩和ケアを受けていた場合、モルヒネ塩酸塩やオキシコドン、フェンタニルの貼付剤といった医療用麻薬が、本人の死後もそのまま自宅に残っていることがある。これらは麻薬及び向精神薬取締法によって厳しく管理されており、免許を持たない者が所持することは原則として認められていない。ただし、処方を受けていた患者本人が死亡した場合に限り、相続人などがその麻薬を一時的に所持すること自体は認められている。福井県が公開している麻薬と覚醒剤原料の取扱い比較表でも、患者の死亡時に相続人等が所持・返却できる旨が整理されている。

これは「保管していても直ちに処罰されない」という意味にすぎず、他の家族がその麻薬を使ったり、知人に譲渡したりすることは認められていない。取るべき対応は一つで、調剤を受けた薬局か、処方していた医療機関に持ち込んで返却することになる。持ち込まれた麻薬は、薬局であれば管理薬剤師、病院であれば麻薬管理者が、他の職員の立会いのもとで焼却など回収が困難な方法で廃棄し、廃棄から30日以内に「調剤済麻薬廃棄届」を都道府県知事に提出する義務を負う。東京都の案内によれば、この届出義務は麻薬及び向精神薬取締法第29条・第35条第2項、同法施行規則第10条の2・第12条の6に基づいている。家族の側が役所に何かを届け出る必要はなく、持ち込み先の薬局や医療機関がその後の手続きを引き継ぐ。

実家が遠方で、処方を受けていた薬局や病院まで持って行くのが難しい場合もある。厚生労働省が公表している医療用麻薬の適正使用に関する手引きは、遠方のときは最寄りの、医療用麻薬を取り扱っている医療機関や薬局に持ち込んでよいとしている。もともと麻薬を処方した場所である必要はなく、受け取った側が同じ手続きで廃棄と届出を行う。実家のそばに大きな病院がなくても、近所の調剤薬局に電話で「医療用麻薬が残っている」と伝えれば、持ち込み先を案内してもらえる。

3. 睡眠薬や抗不安薬などの「向精神薬」は、誰かに譲っていいのか

向精神薬に指定されている睡眠導入剤や抗不安薬は、麻薬ほど重い保管・届出の義務は課されていないが、取り扱いが自由というわけではない。愛知県の説明では、向精神薬は保健衛生上の危害を防ぐ目的から、病院や薬局が患者のために譲渡するなどの限られた場合を除き、譲渡や譲渡目的の所持そのものが一般的に禁止されているとされている。つまり、ある家族のために処方された睡眠薬を、症状が似ているからといって別の家族がそのまま使うことは、法律が想定している使い方ではない。遺品整理で見つかった向精神薬を処分する場合も、麻薬と同じように調剤を受けた薬局に相談しておくと、あとで迷うことが少ない。

4. ADHDの治療薬など「覚醒剤原料」に指定された薬が出てきたら

注意力や多動性に関わる治療薬の一部は、医薬品であると同時に覚醒剤取締法上の「覚醒剤原料」に指定されており、処方する医師、調剤する薬局、服用する患者をあらかじめシステムに登録したうえでしか扱えない流通管理の対象になっている。医薬品医療機器総合機構(PMDA)の資料は、この登録制度の対象を「管理システムに登録された医師のいる医療機関及び薬剤師のいる薬局において、登録患者に対してのみ」行うものと位置づけている。保管や廃棄の考え方は医療用麻薬に近く、患者の死亡後に相続人等が一時的に所持すること自体は想定されているが、そこから先の処分を自分で決めることは想定されていない。見慣れない登録番号や注意書きのシールが貼られた薬が出てきたら、箱や薬袋に記載された調剤元の薬局に、まず連絡を入れておきたい。

5. 注射針や点滴のチューブが混ざっていたら

在宅医療を受けていた場合、血糖測定用のランセットや使用済みの注射針が自宅に残っていることがある。これらは密閉容器に入れていても、未使用のものであっても、集積所に出すことはできない。世田谷区の案内は、注射針などの鋭利なものについて「かかりつけの医師や購入した薬局にご依頼下さい」と明記している。かつては医療機関への返却が原則だったが、千葉市の案内では、2006年4月以降、薬局でも在宅医療廃棄物として注射針やランセットを無料で回収する仕組みが広がっているとされている。一方で、針を外した注射器本体や、内容物を適切に処理した透析用バッグなどは、可燃ごみとして出せるとする自治体もある。モバイルバッテリーや消火器、小型家電と同じく、「針の部分」と「それ以外の部分」を分けて考える発想がここでも必要になる。

6. 遺品整理業者に任せてしまってもいいのか

遺品整理業者が持つ一般廃棄物収集運搬業の許可は、家庭から出る不要品を収集・運搬するためのものであり、麻薬や向精神薬の廃棄を代行する権限までは含まれていない。業者の作業範囲を確認するときと同じ発想で、薬の入った箱や引き出しだけは別にしておき、仕分けの段階で家族の手元に残す必要がある。業者に処分を一任した結果、麻薬や向精神薬が他の不用品と一緒に回収・処分されてしまうと、誰も気づかないまま法律が想定していない経路で薬が流通してしまう恐れがある。立ち会いができる家族がいるうちに、薬だけは先に確認しておいたほうがいい。

薬袋に書かれた薬局の名前が、処分先の答えになる

遺品整理で出てきた薬をひとまとめの袋に入れて自治体や片付け業者に任せてしまうと、麻薬や向精神薬、覚醒剤原料に指定された薬が紛れたまま一般ごみに出てしまう恐れがある。薬のシートや薬袋には、調剤した薬局や病院の名前がほぼ必ず記載されている。処分に迷う薬が見つかったら、まずその名前を確認し、電話で聞くところから始める。それだけで、違法な所持や、本来避けるべき廃棄のリスクを避けられる。

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