災害で家族が行方不明のまま見つからなかったら?「認定死亡」という制度と、遺族に支給される「災害弔慰金」

大雨や地震のニュースで「行方不明者」として家族の名前が挙がったまま、何日経っても遺体が見つからない。葬儀の日取りも決められず、実家の名義や通帳をどう扱えばいいのかも分からないまま、時間だけが過ぎていく。こうした事態に備えて、遺体がなくても死亡を戸籍に記載する「認定死亡」という制度があり、そこから相続や遺品整理の手続きが動き出す。

「認定死亡」とは何か──戸籍法89条に基づく特別な死亡の記載

認定死亡とは、事故や災害で死亡した可能性が極めて高いものの、遺体そのものは発見できない場合に、取調べにあたった官公署が死亡を認定し、市町村長に報告することで戸籍に死亡の記載をする制度だ。根拠となるのは戸籍法89条で、「水難、火災その他の事変によつて死亡した者がある場合には、その取調をした官庁又は公署は、死亡地の市町村長に死亡の報告をしなければならない」と定めている。通常の死亡は遺族が死亡診断書や死体検案書を添えて死亡届を提出するが、認定死亡では遺体が存在しないためこの届出ができない。そこで遺族による届出を待たず、事故や事変を調査した官公署が主体となって死亡を報告する仕組みになっている。

この制度が実際にどう運用されているかは、海上保安庁の例が分かりやすい。葬儀ガイドの解説と司法書士事務所の解説のいずれも、海上保安庁が「死亡認定事務取扱規程」に基づき、親族から死亡認定の希望があること、周囲の状況から生存が考えられないこと、そして海難の発生からおおむね3か月以上が経過していることを要件として運用していると説明している。実際に、2011年の東日本大震災では、行方不明者について申出人の申述書を添付した死亡届により死亡が認定された例があったことが日本語版Wikipediaの解説で紹介されている。山岳遭難や水難事故など、官公署が現場を調査した事案であれば、この制度の対象になり得る。

認定死亡と失踪宣告、何が違うのか

行方不明のまま長期間が経過したときにとる手続きとして、失踪宣告を思い浮かべる人も多いはずだが、認定死亡とは根拠となる法律も効力も別物だ。失踪宣告は民法30条に基づき家庭裁判所が審判する制度で、生死不明の状態が続く「普通失踪」なら7年間、船舶の沈没や登山中の遭難といった死亡の原因となる危難に遭遇した「特別失踪(危難失踪)」なら危難が去ってから1年間、生死が明らかでない必要がある。一方の認定死亡は、海難であればおおむね3か月というように、官公署が死亡を確信できる調査結果を得た時点で成立し、家庭裁判所の審判を経る必要がない。

両者の違いは期間だけにとどまらない。行政書士法人の解説によれば、失踪宣告は生死不明の人を法律上死亡した者と「みなす」制度であり、効力は強く、覆すには家庭裁判所による正式な取消しの審判(民法32条)が必要になる。これに対して認定死亡は死亡を「推定」する制度にとどまる。推定である以上、本人が生存していたという反証が出れば、失踪宣告のような取消しの審判を経ずに効力は覆る。相続が開始する時点にも違いが生じる。認定死亡では官公署が認定した死亡の日に相続が開始するのに対し、失踪宣告では普通失踪は7年の期間が満了した時、特別失踪は危難が去った時にさかのぼって死亡したものとみなされる(民法31条)。行方不明の相続人がいる場合の不在者財産管理人との使い分けについては、相続人が行方不明のまま遺品整理を進める場合の解説で詳しく取り上げている。

認定死亡なのに本人が生きていた場合はどうなるか

認定死亡はあくまで推定にすぎないため、後になって本人が生存していたと分かることもある。この場合、戸籍上の死亡記載を消すために失踪宣告のような取消しの審判は不要だが、実際に記載を訂正するには家庭裁判所の許可を得て戸籍訂正の申請をする手続き(戸籍法113条)を踏むことになる。生存の証明さえできれば認定死亡の効力そのものは当然に覆るという点で、失踪宣告よりも簡便な仕組みになっている。

問題になるのは、認定死亡を前提にすでに支払われた財産をどう扱うかだ。相続によって財産を取得した相続人や、死亡保険金を受け取った受取人は、本人が生存していたと判明した時点で法律上の原因を失う。この場合の返還は不当利得の規定にしたがう。法律事務所の解説によれば、利得に法律上の原因がないことを知らなかった善意の受益者は、民法703条により手元に残っている「現存利益」の範囲でのみ返還すればよいが、知っていた悪意の受益者は民法704条により受け取った全額に利息を付して返還する義務を負う。生活費として使ってしまった分まで一律に取り戻されるわけではない一方で、知りながら使い込んだ場合は話が変わってくる。

認定死亡によって相続・遺品整理はいつから動き出すのか

相続は死亡によって開始する(民法882条)。認定死亡の場合、この起点は官公署が認定した死亡の日であり、そこから相続放棄・限定承認の熟慮期間である3か月や、相続税申告の期限である10か月が動き出す。行方不明のまま数か月が経過し、認定死亡によってようやく死亡日が確定するというケースでは、この期限の起算点がいつになるのかは、戸籍の記載をたどって見極めることになる。

認定死亡が成立する前、つまりまだ生死が公式には確定していない段階で、実家の家財や遺品を独断で処分してしまうと、後から生存が確認された場合はもちろん、遺産分割の内容をめぐる争いのもとにもなりかねない。法定単純承認の考え方が示すとおり、相続財産の処分は相続を承認したとみなされる行為にあたり得るため、認定死亡が確定するまでの間は、形見分けや高価な遺品の処分は控え、必要な書類や通帳、貴金属といった財産的価値のあるものを保管しておくのが無難だ。行方不明のまま気持ちの整理がつかない時期をどう過ごすかについては、遺品整理をいつから始めるかを取り上げた記事も参考になる。

「災害弔慰金」とは何か──遺族の生活再建のための給付金

行方不明者が認定死亡によって死亡したと扱われた場合や、災害で家族を亡くした場合に、遺族の生活再建を目的として市町村から支給されるのが災害弔慰金だ。根拠となる「災害弔慰金の支給等に関する法律」は昭和48年9月に制定された。福島県の制度概要資料によれば、それまで災害対策基本法や災害救助法では個人の被害そのものに対する直接の救済制度がなかったことから、この法律が創設された。

すべての災害で支給されるわけではなく、対象となる災害には規模の要件がある。同資料によれば、1市町村の区域内で住居が5世帯以上全壊(滅失)した災害のほか、都道府県内で災害救助法が適用された市町村がある災害など、いくつかの基準のいずれかに該当する必要がある。支給の実施主体は市町村(特別区を含む)で、内閣府の資料によれば、費用は国が2分の1、都道府県と市町村がそれぞれ4分の1を負担する仕組みになっている。

誰が、いくら受け取れるのか

支給額は死亡者一人当たり、法律の条文により「500万円を超えない範囲内」で、生計維持者が死亡した場合と、その他の場合とで金額に差が設けられている。内閣府の資料では、生計維持者が死亡した場合は500万円、その他の者が死亡した場合は250万円という金額が示されている。世帯の生計維持状況などを勘案して政令で具体的な額が定められる仕組みであり、一律にこの金額になるとは限らない点には注意がいる。

受け取れる遺族の範囲にも順位がある。法律第3条は、配偶者、子、父母、孫、祖父母を遺族として定め、これらがいずれも存在しない場合に限り、死亡者と同居または生計を同じくしていた兄弟姉妹が対象に加わると規定している。事実婚の配偶者が含まれるかどうかや、離婚後の元配偶者の扱いなど個別の判断が必要な場面もあるため、実際の申請にあたっては窓口となる市町村の福祉担当課に世帯の状況を伝えて確認することになる。

同じ法律には、死亡ではなく重い障害が残った場合を対象にした「災害障害見舞金」という制度もある。しばしば「災害弔慰金と災害見舞金は何が違うのか」という形で並べて調べられているのはこの二つで、内閣府の資料によれば、災害障害見舞金の対象は失明や両上肢の切断など常時介護を要する重度の障害を負った本人であり、金額も生計維持者で250万円、その他の場合は125万円と、弔慰金よりも低く設定されている。対象災害の基準は弔慰金と共通しているため、同じ災害で死亡した遺族と、重い障害を負った本人とで、申請する制度が分かれると考えるとわかりやすい。

「災害関連死」も対象になる

災害弔慰金は、津波や倒壊で直接亡くなった場合だけを対象にしているわけではない。避難生活での体調悪化や、負傷の悪化によって後日亡くなる「災害関連死」も対象に含まれる。岩手県の案内では、津波にのまれたことによる肺炎の悪化で死亡した例が災害関連死として紹介されており、市町村が遺族からの聞き取りや関係機関への調査を行い、条例に基づく審査会の審査を経て認定するという流れが示されている。災害関連死は通常どおり死亡診断書に基づいて死亡が確認されるケースであり、遺体が見つからないまま死亡を推定する認定死亡とは前提がまったく異なる。行方不明のまま見つからないのか、いったん助かったものの後から亡くなったのかで、進む手続きの入り口そのものが違ってくる。

災害弔慰金は相続財産に含まれるのか

災害弔慰金は、亡くなった本人の遺産ではなく遺族に直接支給される金銭であり、法律第3条があらかじめ受給できる遺族の範囲と順位を定めている。会社から支給される一般的な弔慰金についても、税理士法人の解説は「受取人固有の財産」であって相続財産には該当せず、遺産分割協議の対象にもならないと説明している。災害弔慰金も受給権者を法律があらかじめ名指しする仕組みである以上、同じ性格を持つと考えられ、相続人全員の同意を得て分けるような財産ではない。

実際、東日本大震災の後には災害弔慰金や義援金を保護するための法整備も行われた。法務省の案内によれば、「災害弔慰金の支給等に関する法律及び被災者生活再建支援法の一部を改正する法律」などにより、災害弔慰金・災害障害見舞金・被災者生活再建支援金・東日本大震災関連義援金が新たに差押禁止財産として位置づけられた。被災者や遺族の生活再建に充ててもらうという制度の趣旨を守るための措置であり、破産手続においても自由財産として手元に残せるとされている。相続放棄をした場合にこの給付金まで受け取れなくなるのかという疑問を持つ人もいるが、少なくとも相続財産としての性格を持たない以上、相続財産からの支出や相続税との関係を考えるときの整理の仕方とは切り分けて考える必要がある。

行方不明のまま時間だけが過ぎていくときに

遺体が見つからないまま数週間、数か月が過ぎていく状況は、遺族にとって最も判断に迷う時期でもある。認定死亡が成立するまでは戸籍上も相続上もまだ死亡していない状態にあり、実家や遺品を一人の判断だけで動かしてよい段階ではない。遺品整理をどこまで一人で進めてよいかという論点とあわせて、まずは官公署による調査の状況を確認し、認定死亡が成立した後に、相続や災害弔慰金の手続きへと進むという順序を崩さないことが、後々の手続きのやり直しを避ける一番の近道になる。

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