物置の奥から、何年も乗られていないまま空気の抜けたタイヤの電動アシスト自転車が出てきた。本体は粗大ごみに出せばいいとわかっていても、取り外したバッテリーだけは勝手が違う。近くの家電量販店に設置されたリチウムイオン電池の回収ボックスを覗いてみても、「電動アシスト自転車用バッテリーはお断りします」という注意書きが貼られていることが多い。小型の充電式電池をまとめて回収する仕組みがあるはずなのに、なぜ自転車のバッテリーだけは同じ箱に入れられないのか。答えは、電池の大きさと、回収の仕組みそのものの建て付けの違いにある。
1. 自転車本体とバッテリーは、出し先が分かれる
電動アシスト自転車の本体は、多くの自治体で粗大ごみの扱いになる。横浜市の案内では、金属製なら一番長い辺が30cm以上、それ以外の素材なら50cm以上の不用品を粗大ごみと位置づけており、自転車はほぼ確実にこの基準に当てはまる(横浜市「粗大ごみ」)。ところがバッテリーについては事情が違う。同じ横浜市が公開している分別パンフレットには「電動自転車バッテリーは、自転車販売店・区役所・収集事務所など回収先が限られます」と明記されている(横浜市「分別パンフレット」)。本体を粗大ごみとして申し込む前に、まずバッテリーを取り外し、別の窓口を探すところから手順が分かれると考えておいたほうがいい。
2. なぜ家電量販店の回収ボックスでは受け付けてもらえないのか
モバイルバッテリーや電動工具に使われる小型の充電式電池は、資源の有効な利用の促進に関する法律(資源有効利用促進法)にもとづき、ニカド電池・ニッケル水素電池・リチウムイオン電池が「指定再資源化製品」と位置づけられ、製造事業者に自主回収と再資源化の取り組みが求められている。この自主回収の実務を担っているのが一般社団法人JBRCで、全国の家電量販店やホームセンターに設置された回収ボックスに持ち込めば無償で引き取ってもらえる仕組みがある。この仕組み自体の詳しい内容は、別記事「遺品整理でモバイルバッテリーが何個も出てきたら?膨らんだ電池を回収ボックスに入れてはいけない理由」で扱った。ただしJBRCが回収ボックスで受け付けているのは、会員企業が製造した電池であることに加え、ニカド・ニッケル水素・リチウムイオンのいずれかと種類が明確で、破損や水濡れ、膨張などの異常がないものに限られるという条件がある(JBRC「リサイクルの流れ」)。電動アシスト自転車のバッテリーパックはこの3条件自体は満たしうるものの、サイズと重量が家電量販店の小さな回収ボックスの設置スペースを超えることが多く、実務上は店頭ボックスでは引き取ってもらえないケースが目立つ。
3. 処分先は「自転車販売店」か「メーカー」の窓口になる
横浜市の案内が回収先として挙げていたのは、家電量販店ではなく自転車販売店・区役所・収集事務所だった。堺市の案内はさらに踏み込み、電動アシスト自転車のような大型の充電式電池について「販売店・メーカーに相談してください」としたうえで、各社のホームページで回収方法を確認するよう求めている(堺市「小型充電式電池」)。つまり制度上は資源有効利用促進法とJBRCの枠組みの中にありながら、実際の持ち込み先は購入した自転車販売店やメーカーの窓口に絞られるという、二段構えになっている。遺品整理で見つかった自転車が、購入した店をたどれない場合は、まず本体やバッテリーに貼られたシールでメーカー名を確認し、そのメーカーのサポートページを調べるところから始めるとよい。購入した店舗でなくても引き取ってもらえるか、無償か手数料がかかるかは店舗によって対応が分かれるため、持ち込み前に電話で確認しておくと現地で断られずに済む。
4. 古いバッテリーほど、型番を確認する意味がある
長年物置や納屋にしまわれていたバッテリーには、もう一つ確認しておきたい事情がある。パナソニック サイクルテックは2020年4月21日、2012年10月から2014年12月に製造した電動アシスト自転車用バッテリーパック(NKY449B02など21品番)について、2015年11月から2020年4月までに37件の発煙・発火事故が発生し、うち16件は周辺を焼損・汚損させたとして、対象約34万6千個の無償交換を公表した(パナソニック 2020年4月21日リリース)。原因は電池内部への水分の浸入が安全弁を腐食させ、内部短絡につながったことだとされている。2024年4月23日には、2015年1月から2017年7月に製造した別の23品番(NKY450B02など、品番末尾が「B」のものは対象外)についても、2020年5月以降に発煙・発火事故が13件(うち6件は焼損・汚損を伴う)発生したとして、対象約14万個の無償交換が改めて公表された(パナソニック 2024年4月23日リリース)。こちらの原因も、内部への湿気の侵入による内部短絡と、漏れ出た電解液によるセル外部での短絡だった。仙台市消防局が注意喚起している資料でも、劣化により内部から発火するおそれがあるとして、対象型番の無償交換をメーカーが進めている例が紹介されている(仙台市消防局の注意喚起資料)。遺品整理で見つかったバッテリーが古いものであるほど、こうした過去のリコール対象ロットに該当している可能性がある。充電する前に側面や底面に印字された品番を確認し、メーカーの公式サイトでリコール情報に該当しないかを調べる手間を惜しまないほうがいい。
5. 膨らんでいる・液漏れしている場合は、自分で外そうとしない
長期間放置されたバッテリーは、外見では分からないレベルで劣化・膨張していることがある。堺市の案内は、バッテリーの外し方が分からない場合について「無理に外さないでください」としており、横浜市も破損・膨張しているバッテリーは通常の集積場所には出さず、各区収集事務所などへ個別に相談するよう求めている。端子部分を絶縁する、衝撃を与えないといった基本的な取り扱いの注意点は、モバイルバッテリー全般に共通するもので、前述の別記事で詳しく扱った内容がそのまま当てはまる。見た目に異常がなくても、長期間放置されていたバッテリーを安易に自分で運び出そうとせず、まず自治体や販売店の窓口に状態を伝えて指示を仰ぐところから始めたい。
6. 不用品回収業者にまとめて依頼するのは避けたい
自転車とバッテリーをまとめて片付けたい気持ちから、軒先を回る無料回収のトラックや、許可の有無を確認していない不用品回収業者に声をかけたくなる場面もあるだろう。しかし一般廃棄物を収集・運搬するには市区町村ごとの許可が必要で、この許可制度と廃品回収業者との違いは別記事「遺品整理と廃品回収は何が違う?「一般廃棄物処理業」の許可という分かれ目を解説」で詳しく扱った。発火のおそれがあるバッテリーが、許可のない業者の手でどのように保管・運搬されるのかを追跡する手段はなく、収集車の中で圧迫されて発火すれば、他の遺品や作業員にまで被害が及びかねない。
使える状態の自転車なら、処分の前に一度立ち止まる
バッテリーの劣化が進んでいても、フレームやモーターユニットがまだ使える状態の電動アシスト自転車は少なくない。高価な遺品を独断で処分すると相続人間のトラブルにつながりうる点は、別記事「遺品整理で高価なものが見つかったら?勝手に処分しないための民法と相続税の基礎知識」でも扱った。まだ値がつきそうな自転車であれば、処分を決める前に他の相続人へ一声かけておく価値はある。バッテリー側で立ち止まるべき最初の一歩は単純で、充電する前に品番を確認することだ。

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