賃貸物件の契約者(故人)の名義変更がまだだったら?賃貸借契約は死亡しても終わらない仕組みと、相続人・連帯保証人の責任を解説

遺品整理を始めてひと月ほど経ったころ、賃貸マンションの管理会社から「今月分のご入金が確認できておりません」という連絡が来ることがある。もう誰も住んでいない部屋なのに、家賃の請求だけは止まらない。名義変更も解約も済ませていなければ、賃貸借契約は契約者本人が亡くなったあとも当然には終わらないからだ。

賃貸借契約は、契約者が死亡しても終わらない

賃貸住宅に一人で暮らしていた家族が亡くなったとき、多くの人がまず誤解するのが「本人が死んだのだから契約も自然に終わる」という点である。しかし賃貸借契約はそのようには扱われない。民法896条は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めており、賃借権もこの「一切の権利義務」に含まれる。無償で物を借りる使用貸借であれば借主の死亡によって契約が終わるという考え方があるのに対し、賃料を支払って借りる賃貸借には、死亡によって当然に終了するという明文の規定がない。つまり、賃貸住宅の契約は故人の死後も生き続け、相続人が賃借人としての立場をそのまま引き継いだ状態になる。これは公益社団法人全日本不動産協会をはじめ、複数の不動産・法律の専門サイトで一致して説明されている整理である。大家や管理会社に連絡しない限り、契約書の名義は故人のまま、法的な地位だけが相続人へ移っている状態が続く。

名義変更をしないまま放置するとどうなるか

最も直接的な影響は、家賃の支払い義務がそのまま相続人に残ることだ。誰も住んでいない部屋であっても、解約の手続きを取らない限り賃料は発生し続ける。大家の立場からすれば契約はまだ有効なので、空室として扱うことはできない。

家賃保証会社がついている契約では、相続人が支払いに応じないまま放置すると、保証会社が家賃を立て替え(代位弁済)、その立て替えた分の請求権を保証会社があとから相続人に対して行使してくる、という流れになる場合がある。未払いが続けば、契約違反を理由に契約を解除され、残っていた家財の明け渡しを求められることもある。

もう一つ注意したいのは、名義変更をせずに、同居していた別の家族がそのまま住み続けるケースである。賃借人の地位は亡くなった本人から相続人全員に引き継がれるため、法律上は「誰も住む権利を持たない状態」ではないものの、大家に事情を伝えず実質的に住み続ける人が変わっているという状態を放置すると、民法612条が禁じる無断での賃借権の譲渡・転貸にあたるのではないかという疑いを招きやすい。同条2項は、賃貸人の承諾なく第三者に部屋を使わせた場合、契約を解除できると定めている。トラブルを避けるには、まず大家・管理会社に連絡し、今後誰が住むのか、あるいは解約するのかを明確に伝えることが欠かせない。

相続人が複数いる場合、誰が家賃を払い、誰が解約を申し出るのか

相続人が一人であれば話は単純だが、きょうだいなど複数の相続人がいる場合は注意点が増える。民法898条は「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」と定めており、賃借権も相続人全員の共有(正確には準共有)となる。死亡前から滞納していた家賃は、各相続人が法定相続分に応じて分割して引き継ぐ。一方、死亡後に発生する家賃は、遺産分割で賃借人が一人に決まるまでの間、相続人全員が連帯して負う「不可分債務」として扱われる。大家は相続人の誰か一人に全額を請求することができ、請求を受けた相続人が家賃を立て替えた場合は、あとで他の相続人に分担を求める形になる。

解約の意思表示についても同じ発想が適用される。民法544条1項は「当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる」と定めている。つまり、同居していた相続人一人だけが大家と話をつけて解約を済ませても、法律上は相続人全員からの解除とは認められないおそれがある。相続人が複数いる賃貸物件の遺品整理では、誰が代表して連絡を取るかを決めつつも、解約そのものは相続人全員の合意として進めることが望ましい。遺産分割協議がまとまらず相続人の意見が割れている場合は、賃貸借契約の扱いも含めて長引きやすい。この点は遺産分割協議がまとまらないときの進め方でも扱っている。

連帯保証人の責任は、相続放棄をしても消えるとは限らない

賃貸借契約には、親などが連帯保証人としてついていることが多い。ここで整理しておきたいのは、「借主本人の相続」と「連帯保証人の責任」はまったく別の問題だという点である。借主の相続人が全員相続放棄をしても、もともとの連帯保証契約自体が消えるわけではない。連帯保証人は借主とは別の人格として契約を結んでいるため、保証人自身が契約を解除しない限り、保証債務はそのまま残る。

逆に、連帯保証人自身が亡くなった場合は話が変わる。連帯保証債務はマイナスの遺産として、保証人の相続人に引き継がれる。これを望まない場合は、相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所へ相続放棄を申し立てる必要がある。期限内に動かなければ、保証人としての債務もそのまま背負うことになる。

なお、2020年4月1日に施行された民法改正により、個人が賃貸借の連帯保証人になる場合は「極度額」(負う責任の上限額)を契約書に明記することが義務づけられた。民法465条の2第2項は「個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない」と定めており、極度額の定めがない個人の根保証契約はそもそも効力を持たない。古い契約書で極度額の記載が見当たらない場合、契約が結ばれた時期によって扱いが異なる可能性があるため、契約書の日付を確認しておくとよい。

相続放棄を考えているなら、部屋の家財の扱いに注意

故人の借金が多く、相続放棄を検討している場合、賃貸物件の遺品整理には特に気をつけたい点がある。部屋に残された家財を売却したり廃棄したりすると、民法921条1号が定める「相続財産の処分」にあたり、相続を単純承認したものとみなされて、あとから相続放棄ができなくなるおそれがあるからだ。この法定単純承認の考え方については法定単純承認の基礎知識で詳しく解説しているが、賃貸物件の場合はこれに加えて、部屋を明け渡すまでの家賃という問題が重なる。

家財を別の場所へ移すだけであれば処分には当たらないとされているが、売却や廃棄は避けたほうがよい。また、死亡後に発生した未払いの家賃を、故人の預金などの遺産から支払ってしまうと、同じく相続を承認したとみなされるおそれがある。支払う必要がある場合は、相続人自身の財産から立て替え、あとで清算するという順番を踏むことになる。相続放棄をした後も、部屋を実際に占有している相続人には保存義務が残るため、鍵をかけて放置するのではなく、次の管理者が決まるまでの最低限の管理は必要になる。この保存義務の範囲については相続放棄後に残る保存義務で扱っている。

一人暮らしの家族がいるなら、次に備えられる制度もある

今回の遺品整理そのものを楽にする方法ではないが、家族の中に今後一人暮らしをする高齢者がいる場合に知っておきたい制度がある。国土交通省と法務省は2021年6月7日、単身高齢者(60歳以上)が賃貸住宅に入居する際に活用できる「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を公表した。これは、入居者が生前に受任者(基本的には推定相続人、難しい場合は居住支援法人などの第三者)との間で死後事務委任契約を結び、自分が亡くなったときの賃貸借契約の解除と、部屋に残る家財(残置物)の処理をあらかじめ委任しておく仕組みである。入居者は、どの家財を指定の送付先へ送ってほしいか(指定残置物)をリストにして明示しておき、それ以外は受任者が死亡後に廃棄してよいという取り決めになる。国土交通省の発表資料によれば、相続人の有無や所在がわからないために大家が高齢者への賃貸をためらう、という問題を和らげることが目的とされている。生前に備える契約という点では、家族信託や死後事務委任契約と同じ発想に立つ制度であり、家族信託の仕組みや死後事務委任契約でできることと合わせて検討する価値がある。

実際に進める手順

目の前の賃貸物件を片付けるときの実務的な流れは、おおむね次のようになる。まず管理会社または大家に連絡し、契約者が亡くなったことと、今後解約するのか名義変更して住み続けるのかの方針を伝える。解約する場合は、死亡を確認できる書類の提出を求められることが多いが、求められる書類は会社によって異なるため、連絡の際に確認しておく。その後、荷物の搬出と部屋の明け渡し、鍵の返却を行い、敷金の返還額や原状回復の範囲について管理会社と取り決める。

賃貸物件は、持ち家と違って家賃という形で時間の経過がそのままコストに変わる。相続放棄の期限が3か月、相続税の申告期限が10か月という目安があることは遺品整理はいつから始めるべきかでも触れているが、賃貸物件の遺品整理ではこれに加えて、家賃の発生という独自の時間的な制約が重なる。

部屋の鍵を返すまでは、契約も家賃も自動的には止まらない。賃貸物件の遺品整理が、持ち家の遺品整理よりも一段、時間に追われる理由はここにある。

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