遺品整理で「後見制度支援信託」の案内が見つかったら?本人の死亡で信託はどうなるのか、相続人が確認すべきこと

「後見制度支援信託のご案内」という信託銀行名入りの書類が、成年後見人として管理していた父の引き出しから何件も出てきた。認知症の診断を受けてから家庭裁判所の指示で司法書士が後見人になっていたのは知っていたが、通帳に載っている預金とは別に、簡単には下ろせない大きな金額が信託銀行に預けられていたことは、父が亡くなるまで家族の誰も聞いていなかった。遺産分割の話を始める前に、この信託だけは普通の預金と同じ手順では動かせないらしいと分かり、まず誰に連絡すればいいのか見当がつかなくなる。

1. 後見制度支援信託とはどのような制度か

後見制度支援信託は、成年後見・未成年後見を利用している本人(被後見人)の財産のうち、日常的な支払いに使わない分の金銭を、信託銀行などに信託する仕組みである。信託協会のリーフレット(2025年1月発行)でも、信託財産は元本補てん付の指定金銭信託として運用され、預金保険制度の対象になると説明されている。

この信託の契約締結、一時金の交付、定期交付金額の変更、解約のいずれも、家庭裁判所が発行する指示書がなければ信託銀行は動かせない。後見人が単独で「このお金を下ろしたい」と信託銀行に言っても、指示書がない限り応じてもらえない。三菱UFJ信託銀行の場合、信託金額の目安は1,000万円以上とされ、管理報酬はかからないが中途解約時には解約手数料が発生する。また厚生労働省「成年後見はやわかり」によれば、この制度を使えるのは成年後見と未成年後見に限られ、保佐・補助・任意後見では利用できない。任意後見契約を結んでいた本人には、そもそも後見制度支援信託という選択肢自体が出てこない。

2. 家庭裁判所がこの信託を使わせる理由

家庭裁判所が後見制度支援信託の利用を勧めるのは、親族が後見人になった場合の使い込みを防ぐためである。金沢家庭裁判所委員会(平成24年5月31日開催)の議事概要には、まとまった現金が手元にあると使ってしまうのが一般的だという前提のもと、日常費用にあたる200万円から300万円程度だけを親族後見人に渡し、残りを信託に移せば不正が起きても被害を手渡し分の範囲に抑えられる、という考え方が記録されている。家族信託が本人の意思で設計する生前の備えであるのに対し、後見制度支援信託は家庭裁判所が財産保護のために組み込む仕組みという違いがある。

3. 信託が終わるのは本人が死亡したとき

後見制度支援信託の存続期間は、後見人が誰であるかとは関係がない。後見人が辞任したり交代したりしても、信託自体はそのまま続く。信託協会のリーフレットは、成年後見の場合はこの信託が原則として本人が死亡するまで続き、未成年後見の場合は本人が成年に達するまで続くとしている。つまり信託が終わる基準は、後見人の生死や任務ではなく、本人の生死(または成年年齢への到達)そのものである。父の後見人だった司法書士が生きていても死亡していても、父自身が亡くなった時点で信託は終了に向かう。

4. 本人の死亡後、信託財産はどう扱われるか

信託協会のリーフレットは、成年後見で利用していた信託について、本人の死亡によって信託は終了し、信託財産は本人の相続財産として相続人に引き継がれると説明している。民法882条が定めるとおり相続は死亡によって開始するため、信託銀行に預けられていた金銭も、死亡の瞬間から相続財産の一部として扱われる。遺産分割の対象になるのはもちろん、相続税の計算でも通常の預貯金と同じく本人の財産として計上しなければならない。信託に多額の金銭が残っていたのに申告から漏らすと、後から税務署に発覚する展開はタンス預金や名義預金が見つかった場合と同じ構造になる。信託に高額な金銭が残っていることが分かった時点で、独断で相続人の一人が使い込んでしまうと、高価な遺品が見つかったときと同様、相続人間のトラブルや相続放棄ができなくなるリスクに発展する。

5. 解約の実務、普通の預金より時間がかかる理由

信託財産を相続人が受け取るまでの道筋は、通常の預金の解約手続きとは順番が違う。後見人は本人の死亡を信託銀行と家庭裁判所の両方に連絡し、家庭裁判所に信託契約を解約するための指示書を発行してもらう必要がある。指示書が発行されて初めて、信託銀行は信託を解約し、資金を後見人が管理する口座等に移すことができる。最高裁判所の説明資料(平成23年12月発行)も、信託財産の払戻しや信託契約の解約にはあらかじめ家庭裁判所が発行する指示書を必要とすると明記している。銀行の窓口に死亡届と除籍の記載された戸籍謄本を持って行けば進む通常の預金解約とは異なり、信託銀行は家庭裁判所の指示書が来るまで動けない立場にある。この指示書の発行に数週間単位の時間がかかることもあるため、信託財産を遺産分割の資金として当て込んでいる場合は、相続税の申告期限(10か月)を意識して早めに後見人へ確認したほうがよい。

指示書が発行されたあとの流れは、信託特有の手続きではなく、後見終了時の通常の実務に合流する。後見人が在任中の収支をまとめる「後見の計算」や、相続人への財産の引き継ぎ方、相続人が複数いる場合の受け取り方といった一般的な手順は、成年後見人がついていた家族が亡くなったときの死後事務と引き継ぎで詳しく扱っている。信託の解約だけが特別に家庭裁判所を経由する点を押さえておけば、そのあとの流れは一般の後見終了の手順と同じだと考えてよい。

6. 利用を拒否できるか、指摘されているデメリット

家庭裁判所から後見制度支援信託の利用を求められた場合、法律上の強制ではないとされているものの、実務上は拒否しにくい運用になっているとの指摘がある。信託協会が発行する学術誌に掲載された萩原俊彦氏(名古屋経済大学大学院)の論文(2020年11月)では、拒否すると家庭裁判所が職権で後見監督人を選任することがあり、その監督人の報酬も本人の財産から支払われるため、結果的に財産がさらに減ってしまう事例が紹介されている。同論文はほかにも、専門職後見人が付くこと自体で年間30万円程度の費用がかかるケースや、信託銀行によっては預け入れ額が少ないほど手数料率が相対的に不利になる点、まとまった金銭を長期的な運用に回せなくなることで実質的な価値が目減りするおそれがある点を課題として挙げている。これらは一つの研究者による分析であり、すべての利用者に当てはまるとは限らないが、信託を組んだ時点で手数料や監督コストが発生する仕組みであることは踏まえておきたい。

一方で、後見人の側から見れば負担が軽くなる面もある。信託に移した金銭は信託銀行が管理するため、後見人が毎回の支出のたびに家庭裁判所へ細かく報告する必要がなくなり、通帳と現金だけを管理していた頃より日常の事務は簡素になる。専門職(弁護士・司法書士など)が後見人に就いているケースでは、その報酬は家庭裁判所が本人の財産状況や後見事務の内容を踏まえて審判で決定し、本人の財産から支払われる。信託に移した金銭からも、家庭裁判所の指示書があれば報酬分の一時金を交付してもらえる。

7. 後見制度支援預貯金との違いと、利用の広がり

信託銀行に預ける後見制度支援信託と並んで、地域の信用金庫などに預ける「後見制度支援預貯金」という選択肢もある。厚生労働省のサイトによれば、どちらも家庭裁判所の指示書に基づいて利用する点は共通しており、日常的に使わない金銭を後見人以外の金融機関に分けて管理させるという基本構造も同じである。最高裁判所が2026年5月に公表した令和7年(1月から12月)の利用状況では、この1年間に新たに信託を利用し始めた人が615人(信託財産の合計約283億7,300万円)、支援預貯金を利用し始めた人が2,005人(合計約585億6,400万円)にのぼる。制度が始まった2012年2月から2025年12月までの累計では、信託の利用者が31,234人に達し、信託と預貯金を合わせた財産の累計は約1兆4,873億円に及ぶ。

後見制度支援信託が使われていたかどうかで、死亡後に最初に連絡すべき相手は、信託銀行の窓口ではなく家庭裁判所になる。この一点を後見人から聞き漏らさないことが、遺産分割の段取りを大きく左右する。

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