同居していた外国籍の配偶者が入院先で息を引き取り、通夜を終えてから遺品を整理しようとタンスを開けると、日本語ではない言語で書かれた通帳や、見慣れない書式の証明書が出てきた——。日本国内で外国籍の家族が亡くなった場合、死亡届の出し方も、遺産を誰がどう受け継ぐかを決めるルールも、日本人同士の相続とは仕組みが一部変わる。本国の法律と日本の法律のどちらに従うべきかが定まらないまま遺品や預金に手をつけると、後になって相続人全員の同意を欠いていたことが問題になりかねない。
1. 死亡後にまず行う届出:死亡届と在留カードの返納
1-1. 死亡届は日本人と同じ期限・仕組みで提出する
日本に住民登録して暮らしていた外国人が死亡した場合も、死亡届の提出義務は日本人と変わらない。法務省の案内によれば、届出義務者は同居の親族・その他の同居者・家主や地主・家屋や土地の管理人などで、国内で死亡した場合は死亡の事実を知った日から7日以内、国外で死亡した場合は3か月以内に届け出る必要がある。届出先は死亡地・死亡者の本籍地・届出人の所在地のいずれかの市区町村役場でよいが、外国人には日本の戸籍がないため、実務上は死亡地または住民登録していた市区町村に死亡届と死亡診断書(死体検案書)を提出し、住民票の抹消と死亡届記載事項証明書の交付を受ける流れになる。
1-2. 在留カードは14日以内に入管へ返納する
中長期在留者が在留カードを所持していた場合、届出義務は死亡届だけでは終わらない。出入国在留管理庁の案内では、死亡した日から14日以内に、親族または同居者が在留カードを返納しなければならないとされている。返納先は住居地を管轄する地方出入国在留管理官署で、直接持参のほか、死亡証明書や戸籍謄本など返納理由を証する書類を添えて東京出入国在留管理局おだいば分室へ郵送する方法も用意されている。期限内に返納しないと過料の対象になり得るため、遺品の中から在留カードが見つかった時点で、誰が返納するかを親族間で早めに決めておく必要がある。
1-3. 大使館・領事館への連絡と埋火葬をめぐる選択
日本では火葬が一般的だが、故人の信仰や本国の慣習によっては土葬を望む家族もいる。行政書士事務所の解説によれば、日本国内で火葬して遺骨を本国へ持ち帰る方法と、遺体そのものを本国へ移送して現地で埋葬する方法があり、遺体を搬送する場合は腐敗を防ぐためのエンバーミング(防腐処理)が国際的に必須とされる。どちらの方法をとるにしても、故人の国籍国の大使館・領事館への死亡届出と、埋火葬証明書の発行手続きが必要になる。遺体の扱いが決まるまで自宅や賃貸物件に立ち入れない期間が生じることもあり、これが遺品整理に着手できる時期を左右する点は、日本人同士の相続とは異なる実務上の特徴といえる。
なお、事件性のある死亡や、留置施設内での拘禁中の死亡については、領事関係に関するウィーン条約37条にもとづき、警察署長が氏名・死亡の年月日と場所・死亡の原因を領事機関へ通報する義務を負う。逆に事件性がなく、国内在住の遺族が遺体・所持品を引き取り、領事機関への通報を希望しない場合はこの通報は不要とされている。
2. 遺産を誰がどう受け継ぐかは「本国法」で決まる
2-1. 通則法36条の本国法主義
日本人同士の相続であれば当然に民法が適用されるが、外国籍の人が亡くなった場合はまずどの国の法律で相続を判断するかという「準拠法」の問題が先に立つ。日本の国際私法である法の適用に関する通則法36条は、相続を被相続人(亡くなった人)の本国法によると定めている。日本は財産の種類や所在地を問わず一つの法律で相続全体を処理する「相続統一主義」を採用しており、遺産が日本にある預金でも本国にある不動産でも、原則としてすべて被相続人の国籍国の相続法にもとづいて相続人の範囲や相続分が決まる。つまり、相続人が誰で、法定相続分がどう配分されるかは、日本の民法ではなく故人の母国の法律を確認しなければ分からないことになる。
2-2. 反致(41条)で日本法に戻ることがある
本国法主義には「反致」という例外がある。通則法41条により、被相続人の本国の国際私法が「相続は所在地の法律による」などと定めていて、それが結果的に日本法を指定する場合は、日本法が適用される。アメリカやイギリスなど英米法系の国は、不動産は所在地の法律、動産・金融資産は本国法やドミサイル(住所)地の法律によるという「相続分割主義」を採用していることが多く、被相続人がこうした国の国籍で日本に不動産を持っていた場合、その不動産に限っては反致により日本の民法が適用される可能性がある。この構造は被相続人の本国の国際私法を個別に調べなければ結論が出ないため、遺品の中に見つかった実家の権利証や日本国内の預金通帳だけを見て、日本の民法どおりに遺産分割を進めてよいと判断するのは早計になりやすい。逆に不動産以外の遺品や動産は、反致が働かず本国法のまま扱われることもあるため、財産の種類ごとに準拠法が食い違う場合があるという点は押さえておきたい。
3. 遺品整理の実務で直面しやすい壁
3-1. 戸籍がない相続人を証明する「宣誓供述書」
日本の相続手続きでは、相続人の範囲を戸籍謄本の連続した記載で証明するのが基本になる。ところが戸籍制度を持たない国も多く、その場合は出生証明書や婚姻証明書に加えて、相続人が現地の公証役場などで作成する「宣誓供述書」(アフィデビット)を、戸籍に代わる証明書類として提出する実務が定着している。宣誓供述書には在日領事館または現地公証人の認証、場合によってはアポスティーユ(公文書の認証)が求められ、日本語訳の添付も必要になる。この書類が整わないまま銀行が預金の払い戻しや不動産の相続登記に応じることはまずないため、遺品の中から見つかった通帳や権利証を実際に動かせるようになるまでには、日本人同士の相続より時間がかかることを見込んでおく必要がある。
3-2. 相続人と連絡が取れない・所在が分からない場合
相続人が本国に住んでいて連絡先が分からない、あるいは生存の確認自体が難しいという事態も起こりうる。身元が判明している親族への聞き取りや海外の調査会社の利用で手がかりを探るほか、それでも所在が分からない場合は家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てるという選択肢がある。これは日本人の相続人が行方不明の場合と同じ仕組みで、不在者財産管理人と失踪宣告の違いで扱った制度がそのまま利用できる。相続人全員の所在と意思が確認できない限り遺産分割協議はまとまらないため、遺品のうち処分に困る大型の家財や、賃料が発生し続ける居室の扱いだけを先に決めておき、遺産分割そのものは相続人の確定を待つという進め方が現実的になる場面も多い。
3-3. 未成年者や海外在住の相続人がいる場合
相続人の中に未成年の子がいれば、親権者と子の利益が対立する場面で家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要が生じるのは、国籍にかかわらず変わらない。また、相続人自身は日本国籍でも海外に生活の拠点があるという逆のケースでは、サイン証明や在留証明で印鑑証明書の代わりを用意する手続きが参考になる。今回のように被相続人が外国籍であるケースとは前提が異なる論点だが、相続人の構成によっては複数の制度が重なって必要になることも珍しくない。なお、身寄りが確認できないまま亡くなった外国人については、相続財産清算人や自治体が関与する仕組みが働く場合があり、これは今回のような相続人が存在するケースとは対応の道筋が異なる。
4. 相続税は誰がどこまで課税されるか
4-1. 無制限納税義務者と制限納税義務者
準拠法の問題とは別に、日本の相続税は国籍を問わず一定の基準で課税対象を決めている。国税庁のタックスアンサーによれば、相続人や被相続人の住所・国籍・過去10年以内の日本居住歴などの組み合わせによって、国内外すべての財産が課税対象になる「無制限納税義務者」か、日本国内にある財産のみが課税対象になる「制限納税義務者」かに区分される。たとえば相続人が日本に住所を持たない外国籍で、被相続人も長期間日本に住所がなかったようなケースでは、日本国内にある財産だけが課税対象になる。逆に相続人や被相続人のどちらかが日本に生活の拠点を置いていた期間が一定以上あれば、本国にある財産も含めて日本の相続税の対象になり得る。遺品の中から海外の口座情報や本国の不動産の資料が出てきた場合、それを「関係ない財産」として無視してよいかどうかは、この区分を確認しないと判断できない。
4-2. 海外にいる相続人に必要な「納税管理人」
相続人が日本国内に住所を持たない場合、相続税の申告や納税の窓口として「納税管理人」を定め、あらかじめ税務署に届け出ておくことが求められる。納税管理人は税理士や親族などが引き受けることが多く、これを立てないまま申告期限が過ぎると、加算税や延滞税が生じるおそれがある。相続財産から遺品整理の費用を支出できるかという論点は相続財産からの支出と相続税の関係で扱った通りだが、相続人の全員または一部が海外にいる場合は、この納税管理人の選任と申告期限の管理を誰が担うかを早い段階で決めておかないと、遺品整理そのものより先に税務上の手続きが滞ってしまう。
5. 遺品そのものへの手のつけ方
準拠法の確認にも相続人の証明書類の収集にも時間がかかる以上、遺品を前にして「とりあえず片付けてしまいたい」という気持ちが先に立つのは無理もない。しかし、相続人の範囲や相続分が本国法や反致によって日本の常識と異なる可能性がある局面で、一部の相続人の判断だけで金銭的価値のある遺品を処分したり売却したりすれば、法定単純承認とみなされて相続放棄ができなくなるリスクは、日本人同士の相続と何ら変わらない。遺品整理そのものを相続人の一人だけで進めても差し支えない範囲と、遺産分割協議を経なければ動かせない財産の境界線を意識しながら、まず生活に支障が出る部分(賃貸物件の解約や生き物の世話など)だけを先行させ、価値の判断に迷う遺品は誰が相続人になるかが確定するまで動かさずに残しておくのが、結局はいちばんの近道になる。

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