物置の奥から、何年も前に車から外されたままのバッテリーが出てくることがある。持ち上げてみると意外な重さに驚き、側面には黒ずんだ液の跡も見える。粗大ごみの日に出してしまっていいものか、金属ごみと同じ扱いでいいのか判断がつかず、結局また物置に戻してしまう人は少なくない。その重さの奥には、鉛と希硫酸という組み合わせが抱える、家庭ごみとは別の処分ルートが隠れている。
1. 自動車やバイクのバッテリーは、なぜ普通のごみに出せないのか
1-1. 中に入っているのは鉛と希硫酸
自動車やバイクに使われているバッテリーは「鉛蓄電池」と呼ばれる仕組みで、内部には鉛の板と、電解液として希硫酸が入っている。希硫酸は金属を溶かし、肌に触れれば化学熱傷を起こす腐食性の液体であり、鉛も重金属として扱いに注意が必要な物質だ。可燃ごみの収集車に積まれて圧縮されたり、不燃ごみとして他の金属と一緒に扱われたりすれば、収集作業員が液漏れに触れる危険や、車両内で発火につながる危険が生まれる。
1-2. 自治体の案内でも「危険物」として別枠に置かれている
東京都港区の案内では、自動車やオートバイの部品・バッテリーは区では収集できないものとして扱われ、「お近くのカーショップ、ガソリンスタンドなどへお問い合わせください」と案内されている(港区「危険物・その他の処理困難物」)。東京都練馬区の案内も「危険物」の項目に「自動車のバッテリーなどの鉛蓄電池」と明記しており、区では収集できないものとして扱っている(練馬区「収集できないもの」)。自治体ごとに言い回しは違っても、行き着く窓口は共通してカー用品店やガソリンスタンドであり、燃えるごみ・燃えないごみ・粗大ごみのいずれにも当てはまらない独自の区分に置かれている。
2. 小型のモバイルバッテリーとは、根拠になっている法律が違う
遺品整理では、スマートフォンのモバイルバッテリーや電動工具の充電式電池も一緒に見つかることが多く、どちらも「バッテリー」とひとまとめに考えてしまいやすい。しかし両者は根拠となる仕組みがそもそも異なる。
モバイルバッテリーなどの小型充電式電池は、資源の有効な利用の促進に関する法律(資源有効利用促進法)にもとづき「指定再資源化製品」とされ、JBRCという団体の回収ボックスに出す仕組みが全国に整っている。その詳しい処分方法は別記事「遺品整理でモバイルバッテリーが何個も出てきたら?膨らんだ電池を回収ボックスに入れてはいけない理由」で扱っている。ただし環境省の資料によれば、この法律が対象とする鉛蓄電池は「小形シール鉛蓄電池」に限られ、密閉されていない大きな自動車用・バイク用のバッテリーは対象に含まれていない(環境省「資源有効利用促進法の概要」)。つまり車やバイクの古いバッテリーを家電量販店のリチウムイオン電池回収ボックスに入れることはできず、別の窓口を探す必要がある。
3. 無償で引き取ってもらえる「リサイクル協力店」という仕組み
3-1. 一般社団法人が運営する、環境大臣認定の広域リサイクル
自動車用・二輪車用の鉛蓄電池には、業界団体が運営する独自のリサイクルの仕組みがある。一般社団法人鉛蓄電池再資源化協会(SBRA)は、エンジン始動用の鉛蓄電池(自動車用・二輪車用を含む)を対象に、販売店などの排出事業者から回収事業者・解体事業者へとつなぐリサイクルシステムを運営しており、廃棄物処理法の広域認定制度にもとづいて環境大臣の認定を受けている(SBRA「使用済み自動車用鉛蓄電池のリサイクルシステムについて」)。一般廃棄物の収集運搬業者は通常、市区町村ごとに許可を受けなければならないが、広域認定を受けた事業者はこの許可なしに全国でリサイクルを行える特例が認められている。
3-2. 持ち込み先は「リサイクル協力店」のステッカーが目印
一般社団法人電池工業会のサイトでは、自動車用バッテリーについて「お近くの『リサイクル協力店ステッカー』のあるお店に持ち込んでください。無償で回収されています」と案内している(電池工業会「鉛蓄電池について」)。カー用品店、バイク用品店、ガソリンスタンド、自動車ディーラーなど、バッテリーを販売している店舗の多くがこのステッカーを掲げている。遺品整理で見つかったバッテリーも、購入した店舗である必要はなく、対象品目であれば持ち込める店は多い。
4. 持ち込む前に確認しておきたいこと
リサイクル協力店の仕組みは、もともと新しいバッテリーへの買い替えに合わせて古いバッテリーを引き取る商習慣から広がってきた経緯があり、店舗によっては購入者以外からの引き取りに条件をつけたり、処分だけの持ち込みに手数料を求めたりする場合もある。遺品整理で見つかったバッテリーを持ち込む際は、事前に電話で「購入した店舗でなくても引き取ってもらえるか」「無償か、処分費用がかかるか」を確認しておくと、現地で断られて持ち帰る事態を避けられる。
長期間物置や車庫に置かれていたバッテリーは、内部の希硫酸がにじみ出て端子付近が白く腐食していることがある。液が漏れている場合は、厚手のビニール袋に入れて口を固く縛り、直接肌や衣類に触れないようにしたうえで運ぶ。車に積んで持ち込む場合も横転させず立てた状態を保ち、座席や荷室に直接置かず段ボールやビニールで保護しておくと、車内を腐食から守れる。
5. 電動車椅子やシニアカーのバッテリーは、また別の相談先になる
遺品整理の現場では、高齢の家族が使っていた電動車椅子やシニアカー(ハンドル型電動車いす)がそのまま残されていることも多い。これらの乗り物には鉛蓄電池が内蔵されているが、本体に組み込まれて取り外しにくい構造になっている場合が多く、単体のバッテリーとして持ち込める自動車用バッテリーとは事情が違う。さいたま市が公開している処理困難物の一覧には、電動車いすやシニアカー(電動)がそれ自体「処理困難物」として挙げられている例があり(さいたま市「適正処理困難物」一覧)、自治体によっては通常の粗大ごみとして受け付けていない。購入した福祉用具販売店やレンタル事業者、本体を製造したメーカーに相談するのが最初の一歩になる。
6. 車やバイク本体がまだ残っている場合は、先に済ませておくこと
見つかったのがバッテリー単体ではなく、故人名義の車やバイクそのものだった場合は、バッテリーの処分よりも先に名義変更や廃車の手続きを済ませておく必要がある。名義変更・廃車の進め方や、相続放棄を考えている場合に車を動かしてはいけない理由については別記事「遺品整理で故人名義の車が見つかったら?名義変更・廃車の手続きと、相続放棄前に乗ってはいけない理由」で扱っている。借金の有無が分からず相続放棄の可能性を残しておきたい場合、車を動かしてバッテリーを交換する行為自体が相続財産の処分とみなされ、法定単純承認につながるリスクもあるため、別記事「遺品を勝手に処分すると相続放棄ができなくなる?『法定単純承認』をわかりやすく解説」も手続きの前に確認しておきたい。
7. 「とりあえず不用品回収に頼む」をおすすめしない理由
バッテリーを含めてまとめて片付けたい気持ちから、軒先を巡回する無料回収のトラックや、無許可の不用品回収業者に声をかけたくなる場面もあるだろう。しかし一般廃棄物を収集・運搬するには市区町村ごとの許可が必要であり、許可を持たない業者に引き渡した廃棄物がどのように処分されるかを確認する手段はない。一般廃棄物処理業の許可の仕組みについては別記事「遺品整理と廃品回収は何が違う?『一般廃棄物処理業』の許可という分かれ目を解説」で扱っている。廃棄物処理法は何人も廃棄物をみだりに捨ててはならないと定め(同法第16条)、これに違反した場合は5年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方が科され、法人の場合は3億円以下の罰金が科される(同法第25条・第32条、仙台市「廃棄物の不法投棄は法律により罰せられます」)。この罰則は捨てた本人だけでなく、不法投棄を依頼した側にも及ぶ可能性がある規定であり、重さと液漏れのリスクを抱えたバッテリーを安易な回収業者に預けることは避けたい。
バッテリーを前に手が止まったら、まず近くのカー用品店やガソリンスタンドの入口に「リサイクル協力店」のステッカーがあるかを確かめてみることから始めたい。

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