遺品整理で介護用ベッドや車椅子が出てきたら?レンタル品は返却、買った物は処分していいという分かれ目

布団や押入れの整理が済み、最後に部屋の隅へ目を向けると、使われなくなった介護用ベッドと車椅子がそのまま残っていることがある。「もう使わないのだから粗大ごみに出してしまおう」と手を伸ばしたくなるが、そのベッドが介護保険のレンタル品だった場合、所有者は家族ではなく契約していた事業者であり、勝手に処分すれば契約上の問題に発展しかねない。

介護用ベッドや車椅子には「レンタル」と「買った物」の二種類がある

介護保険の福祉用具には、月々の利用料を払い続ける「貸与(レンタル)」と、購入費の補助を受けて買う「購入(販売)」という、仕組みの異なる二つの制度がある。遺品整理の現場で特に多いのが特殊寝台(介護用ベッド)と車椅子で、この二つは原則として貸与の対象になる。鹿児島市が公開している福祉用具貸与の対象品目一覧によれば、貸与の対象になる用具は13種類にわたり、車椅子、特殊寝台、床ずれ防止用具、体位変換器、手すり、スロープ、歩行器、歩行補助つえ、認知症老人徘徊感知機器、移動用リフト、自動排泄処理装置などが含まれる(鹿児島市「福祉用具貸与」)。

ここで見落とされやすいのが、要支援1・2と要介護1の認定を受けている場合の扱いだ。このうち車椅子、特殊寝台、床ずれ防止用具、体位変換器、認知症老人徘徊感知機器、移動用リフトの6種類は、原則として保険の対象から外れる(例外的に認められる場合もある)。該当する認定区分だった家族が車椅子や介護用ベッドを使っていたなら、それは介護保険を使わずに自費で購入した用具である可能性が高くなる。

一方、購入(販売)の対象になるのは、腰掛便座、入浴補助用具、簡易浴槽、自動排泄処理装置の交換可能部品、排泄予測支援機器、移動用リフトのつり具といった、直接肌に触れたり使い切ったりする性質の用具だ。こちらは1年度(4月から翌年3月)につき10万円を上限に、費用の7割から9割が支給される仕組みで、購入した時点で用具の所有権は利用者側に移る(鹿児島市「特定福祉用具購入費」)。なお令和6年4月からは、固定用スロープ、歩行器、単点杖、多点杖の4品目について、利用者が貸与と購入のどちらかを選べる「選択制」が導入されている(厚生労働省「福祉用具の選択制」)。

レンタル品かどうかは、どこを見れば分かるか

遺品整理の時点で、家族が契約内容を正確に覚えていないことは珍しくない。手がかりはいくつかある。まずベッドや車椅子の本体に、レンタル事業者名が入ったシールや管理ラベルが貼られていないかを確認する。次に、本人が利用していた居宅介護支援事業所(ケアマネジャー)に連絡すれば、担当していたケアプランの中に福祉用具のサービス計画が残っているため、貸与品か購入品かをすぐに確認できる。担当のケアマネジャーが分からない場合は、地域包括支援センターが相談窓口になる。介護保険被保険者証とともに保管されていることが多い「サービス利用票」にも、その月に利用していた福祉用具の名称が記載されている。

レンタル品の所有権は、実は事業者側にある

厚生労働省が開催した「介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会」に業界団体(一般社団法人日本福祉用具供給協会)が提出した資料では、介護保険のレンタルと一般的な分割購入(割賦販売)が取引形態として対比されている。そこでは、介護保険のレンタルでは用具の所有権は事業者側にあり、利用者は契約上いつでも返却できる、という構造が示されている(厚生労働省「第3回 介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会提出資料」)。つまり貸与品は、家族が「もう使わないから」と判断して廃品回収に出したり、親族同士で譲り合ったりできる対象ではなく、契約上はあくまで事業者の資産を借りた状態のまま、本人の死亡を迎えることになる。

本人が亡くなったら、レンタル品はどう返却するか

返却の具体的な手順は事業者や自治体によって多少異なるが、基本の流れは共通している。利用者が入院や死亡によって自宅で用具を使わなくなったときは、速やかに契約していた事業者へ連絡するという対応が、各自治体の福祉用具貸与の案内で共通して示されている(大田区「福祉用具貸与」)。連絡を受けた事業者が自宅まで回収に来て、その時点で貸与契約が終了する。

費用の面でも、連絡を先延ばしにする理由はない。杉並区が示す福祉用具貸与費の算定方法では、貸与の開始月と中止(終了)月が異なり、その月の貸与期間が一か月に満たない場合、利用料は日割りで計算される(杉並区「福祉用具貸与費の日割り計算」)。裏を返せば、返却の連絡が遅れているあいだも契約上はレンタルが継続している状態になり、月をまたげばその分の利用料が発生しうる。葬儀や行政手続きで慌ただしい時期ではあるが、不要になった福祉用具の連絡は、死亡後の他の届出と合わせて早めに済ませておきたい事柄のひとつになる。

自費で購入した用具は、ほかの遺品と同じように扱っていい

一方、腰掛便座や入浴用の椅子のように購入費の支給を受けて買った用具、あるいは介護保険を使わずに家電量販店や介護用品店で自費購入した車椅子・ベッドであれば、それは本人の財産であり、相続財産の一部になる。レンタル品のような返却の義務はなく、処分するか、必要とする親族・知人に譲るか、売却するかは、ほかの遺品と同じように相続人の判断に委ねられる。ただし相続放棄を検討している場合、高額な用具を独断で売却・処分すると「相続財産の処分」とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性がある点は、現金や貴金属などの遺品と変わらない。この考え方は「法定単純承認」を解説した記事で詳しく取り上げている。

粗大ごみとして出す場合は、自治体ごとの取り扱いの違いに注意する

自費購入した用具を処分する場合、通常の粗大ごみとして出せることが多いが、電動の用具は例外になりやすい。さいたま市が公表している「処理困難物」の一覧では、電動機付きの車椅子とシニアカー(電動)が、市では収集・処理できない品目として明記されている(さいたま市「処理困難物」一覧)。手動の車椅子や介護用ベッドは通常の粗大ごみとして扱われる一方、電動車椅子やシニアカーのように自前のバッテリーやモーターを積んだ用具は、別の処分ルートが必要になる自治体が多い。以前取り上げたモバイルバッテリーの処分と同じく、動力源を積んだ用具ほど自治体の通常の収集ルートに乗りにくい傾向がある。介護用ベッドは分解を要することが多く、搬出だけでも一人では難しい作業になりやすいため、粗大ごみに申し込む前に電動かどうか、分解が必要かどうかをお住まいの自治体の収集案内で確認する一手間が欠かせない。自分で進めるか業者に依頼するかで迷う場合は、判断基準を整理した記事も参考になる。

譲る・寄付するという選択肢もある

処分する前に、必要としている人へ譲る方法を検討する余地もある。たとえば港区社会福祉協議会は、一時的に車椅子が必要になった区民向けに、短期は無料、それ以外は1,000円程度での貸出サービスを運営している。ただし要介護2から5の認定を受けている人は、介護保険の福祉用具貸与が優先されるため、この貸出の対象から外れる(港区社会福祉協議会「車いす貸出」)。こうした貸出や受け入れの体制は社会福祉協議会ごとに異なり、清掃済みであることや年式といった条件を設けている場合もある。寄付を考えるときは相続人全員の同意を得たうえで、お住まいの自治体の福祉担当窓口か社会福祉協議会に、受け入れ可能かどうかを先に問い合わせることになる。遺品を寄付する際に相続人の間で確認しておきたい点はこちらの記事でも取り上げている。

勝手に処分する前に確かめるべき一点

介護用ベッドや車椅子を「もう使わないから」とひとまとめに処分する前に見極めるべきは、それが家族の持ち物なのか、事業者から借りていた物なのか、という一点に尽きる。レンタル品であれば、まず連絡すべき相手はごみ収集でも買取業者でもなく、契約していたケアマネジャーか福祉用具の事業者になる。

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