孤独死の遺品整理と特殊清掃はどう違う?国土交通省ガイドラインからみる注意点

警察に呼ばれて初めて、家族が長期間気づかないまま自宅で亡くなっていたことを知る——そうした孤独死の現場に立ち会うことになった遺族は、通常の遺品整理とは違う判断を次々に迫られる。居室の状態によっては消毒や消臭のための「特殊清掃」が必要になり、その費用を誰が持つのか、部屋を貸主に返す前に何を済ませておくべきかが、悲しみに向き合う間もないまま重なってくる。「特殊清掃」という一つの言葉が、原状回復や不動産の告知義務、相続放棄の判断にまで波及することは、あまり知られていない。

警察庁の統計にみる孤独死の実態

警察庁は2025年4月、令和6年(2024年)中に警察が取り扱った死体のうち、自宅で死亡した一人暮らしの人について初めての年間集計を公表した。これによると、自宅で死亡した一人暮らしの人は7万6020人で、警察が取り扱った死体全体(20万4184体)の37.2%を占めた。年齢階層別の内訳では、65歳以上の高齢者が5万8044人と、自宅で死亡した一人暮らしの人全体の76.4%を占めている。発見までにかかった日数を見ると、死亡当日のうちに発見されたケースが2万8756人(37.8%)である一方、発見までに8日以上を要したケースも2万1856人(28.8%)にのぼり、1か月以上経ってから発見された例も6945人(9.1%)を数える。長期間発見されなかった場合、居室の劣化が進み、通常の清掃だけでは対応できない状態になる。ここで登場するのが「特殊清掃」と呼ばれる作業である。

特殊清掃と遺品整理はどう違うのか

特殊清掃という言葉には、法令上の統一的な定義があるわけではない。国土交通省が公表している「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」でも、この言葉は「いわゆる特殊清掃」という表現で使われており、行政が定めた用語というより、業界内で使われてきた通称であることがうかがえる。一般には、遺体が長期間発見されなかったことに伴う消毒・消臭・原状回復のための清掃工事などを指し、遺品(故人の所有物)を仕分けて搬出する遺品整理とは、作業の性質そのものが異なる。実務上は同じ事業者がまとめて請け負うことも多いが、遺品(家財)の搬出そのものは、業者がどう名乗っていても市区町村長の一般廃棄物処理業許可を持つ者が担う必要がある。この許可制度の仕組みと、無許可業者に依頼した場合の実際のトラブルは一般廃棄物処理業の許可という分かれ目についての記事で扱った。見積書や契約書のなかで「どこまでが特殊清掃(清掃・消毒・原状回復に関する工事)」で「どこからが遺品整理(仕分け・搬出・処分)」なのかを分け、遺品搬出の担当が許可を持つ業者かどうかも尋ねておくと、後から作業範囲や責任の所在をめぐって行き違いが生じにくい。

特殊清掃の実施は不動産取引にも関わる

特殊清掃の有無は、遺品整理を終えたあとの不動産の扱いにも影響する。国土交通省は2021年10月、宅地建物取引業者に向けて「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定した(概要は2024年3月時点の版が最新として公表されている)。このガイドラインは、老衰や病死などのいわゆる自然死や、自宅の階段からの転落・入浴中の事故など日常生活のなかで生じた死については、「そのような死が生ずることは当然に予想されるものであり」「買主・借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性は低い」として、原則として賃貸借・売買のいずれについても取引時に告げなくてよいとしている。一方で、同じ自然死・日常生活の中での死であっても、長期間発見されずに放置されたことに伴って特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合には、「買主・借主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性がある」として、告知の対象になり得るとしている。特殊清掃が実際に行われたかどうかという事実そのものが、その後にその部屋や建物を貸したり売ったりする際の告知義務の判断材料になる。ここで見落とされやすいのが、賃貸と売買とで告知を要する期間が異なる点である。ガイドラインは、賃貸借取引については「特段の事情がない限り、特殊清掃等が行われることとなった死が発覚してから概ね3年間を経過した後は、原則として借主に告げなくてもよい」としている一方、売買取引についてはこうした期間の定めを置いていない。つまり、特殊清掃があった賃貸住宅は一定期間を経れば新たな借主への告知義務が薄れていくのに対し、同じ部屋を売却する場合は年数が経っても告知の対象であり続けるという非対称な扱いになる。なお、事件性が特に高い場合を除き、亡くなった部屋の両隣や真上・真下の住戸、廊下やエレベーターといった共用部分で発生した死については、賃貸借・売買のいずれについても告げる必要はないともされている。遺族が特殊清掃を依頼した場合は、実施した業者名・作業内容・作業日を書面や領収書で残しておくと、将来その不動産を貸すか売るかを判断し、説明資料をそろえる際に役立つ。

特殊清掃の費用は誰が負担するのか

特殊清掃そのものの費用は、被害の程度や業者によって差が大きく、一律の相場を示すことは難しい。持ち家であれば、この費用は遺品整理費用と同じく相続財産の管理に伴う支出として扱われるのが実務上の一般的な考え方で、相続人間でどう分担するか、立て替えた場合にどう精算するかは遺品整理の費用は誰が払う?相続人間の負担割合についての記事に整理している。賃貸住宅の場合は事情がやや異なる。自然死そのものは賃借人の責めに帰すべき事由とはいえず、原状回復義務を基本的には生じさせないとする専門家の解説もある(東京・埼玉の理系弁護士「賃貸建物内で自然死があった後の原状回復義務」)。一方で、発見が遅れて特殊清掃や大規模な補修が必要になった場合の扱いや、連帯保証人がどこまで費用を負うかは、契約の内容や発見までの経緯によって判断が分かれる部分が大きい。連帯保証人の責任が賃借人の死亡時点でいったん確定するという民法上のルールを含め、賃貸・孤独死のケースでの費用負担の詳細は同記事の後半で扱っている。

入居前にできる備え——「残置物の処理等に関するモデル契約条項」

孤独死そのものを防ぐことはできなくても、賃貸住宅への入居時に備えておける制度がある。法務省と国土交通省は2021年6月7日、単身の高齢者等が賃貸借契約を結ぶ際に活用できる「残置物の処理等に関するモデル契約条項」のひな形を共同で公表した(法務省「残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)の策定について」、2024年10月に第2版へ改訂)。高齢の単身者は、貸主から「死亡後に契約解除や遺品処理をしてくれる身寄りがいるか分からない」という理由で入居を断られやすく、この不安を取り除くことが策定の狙いになっている。

仕組みは二つの委任契約からなる。一つは賃貸借契約の解除を代理して行ってもらう「解除関係事務委任契約」、もう一つは残置物(遺品)の廃棄や指定した引取先への送付を委託する「残置物関係事務委託契約」で、国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」によれば、同じ受任者にまとめて任せることも、別々の受任者に分けることもできる。売却できる価値のある残置物については、受任者が売却に努める旨の条項も盛り込まれている。誰に受任者を頼めるかは本人の状況次第だが、2025年10月に施行された改正住宅セーフティネット法により、居住支援法人の業務に「入居者からの委託に基づく残置物処理」が加わっており、身寄りに頼れない場合の選択肢も広がりつつある。このひな形の利用は義務ではなく、費用も別途かかるが、賃貸住宅に一人で暮らす親や自分自身の契約内容を、生前整理の一環として確認しておく価値はある。

特殊清掃業者との契約にもクーリング・オフが使える場合がある

特殊清掃や遺品整理を業者に依頼する契約も、業者が自宅を訪れて結ぶ形であれば、特定商取引法上の「訪問販売」にあたる。同法9条により、法律が定める事項を記載した契約書面を受け取った日を1日目として8日以内であれば、消費者側は理由を問わず申し込みの撤回や契約の解除を書面などで通知できる。国民生活センターが2018年7月19日に公表した遺品整理サービスの契約トラブルに関する資料でも、見積もりのために呼んだ業者からその場で契約を勧められたケースは訪問販売にあたり、クーリング・オフの対象になり得るとされている。特殊清掃は現場を見なければ被害の程度が分からず、当日になって当初の見積もりより高額な追加費用を求められることもある。故人を悼む間もない時期に契約を急かされたと感じたら、まず契約書に記載された受領日を確かめたい。訪問購入(買い取り)との違いや、8日を過ぎたあとに使える別の救済手段についてはクーリング・オフについての記事で詳しく扱った。

相続放棄を検討している場合に注意したいこと

孤独死の現場では、原状回復や特殊清掃にかかる費用をめぐって、相続人が相続放棄を検討する場合もある。ここで注意したいのは、相続放棄をする前後に遺品や部屋にどう関わったかによっては、民法上「相続を単純承認したもの」とみなされ、後から相続放棄ができなくなる可能性があることだ。この「法定単純承認」の仕組みについては、「遺品を勝手に処分すると相続放棄ができなくなる?『法定単純承認』をわかりやすく解説」で詳しく解説している。特殊清掃そのものは居室を衛生的な状態に保つための行為として扱われる余地があるが、清掃の過程で現金や高価な遺品が見つかり、それを持ち帰ってしまえば話は別で、相続放棄の可否を左右しかねない。清掃や遺品の処分に取りかかる前に、放棄の可能性が少しでも残っているなら、まずこの一点を確かめておく。

特殊清掃が終わった部屋は、まだ「片付いた」だけである

特殊清掃を終えた実家が、そのまま空き家として何年も手つかずのまま残るケースは少なくない。悪臭や汚れが消えても、契約の解除、告知義務、相続放棄の判断、そして空き家としての管理責任は、清掃とは別に一つずつ残っている。清掃業者への支払いを済ませたことは、遺品整理が終わったことを意味しない。片付いたのは部屋であって、名義と契約はまだ動いていないままだ。

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