押し入れの奥、亡くなった母の着物をたたんでいると、白い布に包まれた桐箱が出てきた。開けてみると、中には白い骨壷。誰の遺骨なのか、家族の誰にもとっさには分からない。祖父母の代のものかもしれないし、供養のタイミングを逃したまま何十年も自宅に置かれていたのかもしれない。仏壇や位牌と違って、遺骨は「誰が引き継ぐか」だけでなく「どこに納めるか」という手続きの問題も抱えている。
遺骨は「祭祀財産に準じる」扱いで、遺産分割の対象にならない
遺骨は現金や不動産と違い、相続人全員で分け合う遺産分割協議の対象にはならない。所有権が誰に帰属するかについて、最高裁判所は遺骨は慣習に従って祭祀を主宰すべき者に帰属すると判断している(最高裁平成元年7月18日判決)。厳密には、民法897条が定める「系譜・祭具・墳墓」という祭祀財産の定義そのものに遺骨は含まれないが、東京高裁平成29年5月26日決定・平成31年3月19日決定はいずれも、遺骨をその特殊性に照らして祭祀財産に準じて扱うのが相当だと判示しており、実務上は仏壇や位牌と同じ枠組みで考えるのが一般的になっている。仏壇や位牌を誰が引き継ぐかという祭祀承継者の決め方については遺品整理で仏壇や位牌を引き継ぐのは誰?「祭祀承継者」の決め方と、なりたくないときの扱いで扱った通りで、遺骨についてもこの承継者が中心になって行き先を決めることになる。
まず確認すべきこと ― この遺骨は一度もお墓に納められていないか
骨壷や桐箱を開けたら、まず二つのことを確認したい。一つは誰の遺骨か(没年月日や戒名を書いた木札・紙が同封されていることが多い)。もう一つは、この遺骨がこれまでにどこかのお墓や納骨堂に納められたことがあるかどうかである。この確認を飛ばして先に進むと、あとで必要な手続きを間違えることになる。
墓地、埋葬等に関する法律(墓地埋葬法)2条3項は、「改葬」を「埋葬した死体を他の墳墓に移し、又は埋蔵し、若しくは収蔵した焼骨を、他の墳墓又は納骨堂に移すこと」と定義している。つまり、一度もお墓に納められたことがない遺骨(火葬後にそのまま自宅で保管され続けていたもの)を新たにお墓に納める行為と、すでにどこかのお墓や納骨堂に納められていた遺骨を別の場所に移す行為とでは、法律上まったく別の手続きになる。骨壷と一緒に火葬許可証や埋葬許可証らしき書類(役所の印がある紙)が保管されていれば、いつどこで火葬され、その後どうなったのかを知る手がかりになる。
まだ納骨されていない遺骨なら、改葬許可は不要なことが多い
前述の定義の通り、改葬とはあくまで「すでに埋蔵・収蔵されている焼骨」を移すことを指す。したがって、自宅で保管していただけで一度もお墓に入っていない遺骨を新たにお墓や納骨堂に納める行為は、改葬には当たらないというのが一般的な理解だ。この場合に必要になるのは改葬許可ではなく、火葬時に発行された火葬許可証(自治体によっては「埋火葬許可証」)で、これを新しい墓地・納骨堂の管理者に提出することで納骨できる。取り扱いに自治体差があるため、判断に迷う場合は納骨先の墓地がある市区町村の窓口に事前に確認しておくと、当日になって書類が足りず出直すことにならずに済む。
すでに別の墓や納骨堂にあった遺骨を移すなら「改葬許可申請」が必要
一方、実家の墓を閉じて別の場所に移す(いわゆる墓じまい)場合や、菩提寺の納骨堂から遺骨を引き取って別の霊園に移す場合は、墓地埋葬法5条に基づき、現在遺骨がある市区町村長の許可(改葬許可)が必要になる。武蔵野市の案内によれば、手続きはおおむね次の順で進む。まず新しい納骨先を決め、その管理者から受入証明書を取得する。次に現在の墓地・納骨堂の管理者から埋葬(埋蔵)証明を受け、現在の遺骨がある市区町村の窓口に申請書と合わせて提出する。交付された改葬許可証を受け取って遺骨を引き取り、最後に新しい納骨先へその許可証を提出して納骨する、という流れだ。窓口によっては郵送申請を受け付けておらず、代理申請の場合は本人確認書類が必要になるなど、細部は自治体ごとに異なる。実家の解体・売却に合わせて墓じまいも同時に進めることになったケースでは、空き家の管理責任を扱った遺品整理を終えた実家が「空き家」になったら?特定空家・固定資産税・相続放棄の法律知識とあわせて、早い段階でスケジュールに組み込んでおくと慌てずに済む。
この段階でよく起きるトラブルが、現在の墓地の管理者(寺院)が埋蔵証明書の発行に応じないケースだ。改葬に伴って檀家を離れることへの引き止めとして、根拠のはっきりしない高額な「離檀料」の支払いを条件に持ち出されることがある。弁護士の解説によれば、墓地使用契約や寺院規則に定めがない限り離檀料を支払う法的義務は原則としてなく、専門家サイトでは10万〜30万円程度という目安が語られることもあるが、これは各寺院の慣習によるものであって公的な相場ではない。埋蔵証明書の発行を拒まれた場合も、行政書士の解説が指摘する通り、墓地埋葬法施行規則2条2項1号は「市町村長が必要と認めるこれに準ずる書面」による代替を認めており、墳墓の写真や交渉の経緯をまとめた申述書などで対応できる場合がある。まずは申請先の市区町村の窓口に相談し、どのような代替書類なら受け付けてもらえるかを確認するのが現実的な進め方になる。
火葬許可証・埋葬許可証が見当たらないときの対応
何十年も前に火葬された遺骨の場合、当時の許可証が桐箱の中に残っていないことも珍しくない。神戸市の案内によれば、埋火葬許可証そのものは紛失後に再発行される性質の書類ではなく、代わりに区役所などで交付を受けられる「埋火葬許可申請書の写し」や、火葬を行った斎場が発行する「火葬証明書」で対応することになる。どちらの書類で足りるかは納骨先の管理者や申請窓口によって異なるため、まず双方に確認したうえで必要な書類をそろえる順番になる。保存期間や代替書類の扱いは自治体によって幅があり、一律の年数で区切れるものではないため、古い遺骨ほど早めに火葬地の自治体へ問い合わせておいた方がいい。
分骨したい場合は「分骨証明書」で足りる
遺骨の一部を手元供養用に残し、残りをお墓に納めたいという場合は、改葬許可ではなく「分骨証明書」が必要になる。佐世保市の案内が整理しているように、分骨証明書は火葬場での火葬時にその場で発行を受けるか、すでに納骨されている墓地・納骨堂の管理者から発行を受ける。改葬許可証が「遺骨のすべてを別の場所に移す」場面で必要になるのに対し、分骨証明書は「遺骨の一部だけを切り分けて別の場所に納める、あるいは手元に残す」場面で必要になる書類という違いがある。将来、分骨して手元に残した一部を改めてお墓に納めることになったときは、この証明書を提示することになる。
自宅に置き続ける「手元供養」も選択肢のひとつ
見つかった遺骨を、すぐにどこかへ納めなければならないという法律上の期限はない。自宅で保管し続ける、いわゆる手元供養を続けること自体に問題はなく、改葬許可も原則として不要というのが一般的な理解だ。ただしこれは、今の代の誰かがずっと管理し続けるという前提の上に成り立つ選択でもある。仏壇や位牌と同じく、いずれは次の世代の誰かが「このままにするか」「お墓に納めるか」を判断する場面が来る。その判断材料は、供養に出すか手元に残すかを扱った遺品が捨てられない・処分に迷うときは?供養に出すか、手元に残すかの判断材料や、祭祀承継者の決め方を扱った前述の記事で触れた考え方がそのまま当てはまる。
散骨したいときに確認しておきたいこと
遺骨を粉状にして海や山に撒く散骨を希望する家族もいる。散骨そのものを直接禁じる法律は存在しないが、厚生労働省は令和3年3月31日付で散骨事業者向けのガイドラインを策定しており、散骨を行う場所の選定、遺骨を粉末状にする「粉骨」の実施、周辺住民や関係者への配慮、自然環境への配慮といった事項を、事業者が守るべき基準として示している。個人で散骨する場合であっても、このガイドラインが示す「関係者の宗教感情を害してはならない」という基本方針や、自治体によっては散骨を制限する条例が定められている場合があることを踏まえると、実績のある散骨事業者を通じて行うのが現実的な選択になる。
独断で処分・遺棄してはいけない理由
気持ちの整理がつかないまま「もう手放したい」と思っても、遺骨をごみとして処分したり、無断で敷地に埋めたりする行為は、刑法190条の死体損壊等罪に触れる可能性がある。同条は死体・遺骨・遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者を3年以下の拘禁刑に処すると定めており、宗教的習俗上の埋葬・供養と認められない方法で処分する行為は「遺棄」に当たり得る。相続人の一人が他の相続人に断りなく遺骨を処分してしまえば、刑事上の問題だけでなく親族間の感情的な対立にも直結しやすい。遺品を独断で処分した場合の相続放棄への影響は遺品を勝手に処分すると相続放棄ができなくなる?「法定単純承認」をわかりやすく解説で扱った通りだが、遺骨についてはそれ以前に、刑事罰の対象になりうるという一線がある。判断に迷う骨壷が出てきたら、まず祭祀承継者を中心に家族で方針を話し合い、それから納骨先や供養の方法を決める。この順番を崩さないことが、あとになって「勝手に決めた」と言われないための一番の備えになる。

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