遺品整理で出た服や家具は寄付していい?無償で譲る前に確認したい相続人の同意と「廃棄物」の境界線

実家の片付けをしていると、去年買ったばかりのような羽毛布団や、まだ十分に着られるコート、目立った不具合のない炊飯器が次々と出てくる。可燃ごみの袋に入れる手が止まり、必要としている誰かに譲れないかと考える。ただ、遺品は自分ひとりの持ち物ではなく、遺産分割が終わるまでは相続人全員の共有財産でもある。無償で手放す行為が、お金に換える行為と同じように「処分」として扱われるのだとしたら、善意の寄付のつもりが、相続の選択肢を狭める結果につながりかねない。

1. 遺品を無償で譲ることも、法律上は「処分」の一種になる

遺産分割前の相続財産は民法898条により相続人全員の共有に属し、相続人の一人が独断で売却や大量廃棄をすれば他の相続人の持分を侵害しかねないという点は、仕分けの手順を扱った遺品整理は何から手をつける?仕分けの順番と、独断で進めると起こる法的トラブルで取り上げた。無償で譲る「寄付」も、この理屈から逃れられるわけではない。司法書士事務所が公開している解説では、相続財産を使ってしまう、誰かにあげてしまう、捨てる・壊すといった行為を典型的な処分行為として挙げたうえで、対価を受け取らない贈与であっても、経済的価値のある遺品を第三者に渡す行為は民法921条1号の処分にあたるとされている(松谷司法書士事務所「相続放棄できなくなる『相続財産の処分』とは」)。お金を受け取るかどうかは処分にあたるかどうかの分かれ目ではなく、価値のあるものを独断で動かしたという事実そのものが問題になる。

もっとも、遺品を動かせば何でも法定単純承認になるわけではない。裁判所は一貫して、社会通念上の経済的価値の有無を基準に判断してきた。裏地の擦り切れた普段着や使用感の強い家電、雑貨程度のものを手放す分には、通常この問題は生じない。どこまでが「経済的価値がほとんどないもの」にあたるのかという境界と、価値のある遺品を独断で動かした場合のリスクについては、遺品を勝手に処分すると相続放棄ができなくなる?「法定単純承認」をわかりやすく解説で裁判例とともに整理している。まとまった数の状態の良い衣類やブランド品、動作良好な家具・家電をまとめて寄付に出そうとしているなら、金額の大小にかかわらず、他の相続人に一声かけておいた方がいい。声をかける手間は、売却するときとまったく同じだけかかる。

2. 「まだ使えるものを譲る」は廃棄物処理法の対象になるのか

不用品を業者に引き渡す場合、家庭から出る不用品は法律上「一般廃棄物」に区分され、有償で収集運搬するには市町村長の一般廃棄物処理業許可が必要になる。この制度の詳細は遺品整理と廃品回収は何が違う?「一般廃棄物処理業」の許可という分かれ目を解説で扱った。では、譲る相手が業者ではなく、必要としている個人や団体で、しかもお金のやり取りが発生しない「寄付」の場合はどうなるのか。

横浜市が公開している解説によれば、あるものが廃棄物に該当するかどうかは、「占有者が自ら利用し、又は他人に有償で譲渡することができないために不要となったもの」という基本原則のもと、物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無、占有者の意思という五つの要素を総合的に勘案して判断される、いわゆる総合判断説によって決まる(横浜市「廃棄物該当性の判断について」)。無償の譲渡そのものには取引価値がなくても、受け取る側に明確な利用意思があり、実際に再利用される見込みが高いのであれば、そもそも「不要となったもの」という前提を欠くとも考えられる。

ただし、この線引きは個別の事情によって幅があり、誰の目にも一義的に明らかというわけではない。実務上は、自治体やNPO法人が設けている正規の窓口を通したほうが安全だ。この曖昧さにつけ込み、「寄付になります」「無料でお引き取りします」と説明しながら実際には一般廃棄物処理業の許可を持たないまま回収し、そのまま不法投棄したり、後から高額な追加料金を請求したりする事業者も存在する。無許可業者とのトラブルの実態は上記の記事で扱っているほか、預かった遺品を無断で転売・着服される、いわゆる「ネコババ」問題とも根っこは同じで、善意で手放したはずのものが、渡した相手の手によって別の使われ方をしてしまうリスクを常にはらんでいる。

3. どこに寄付できるのか — 品目ごとに窓口が異なる

3-1. 家具・家電などの大型品は自治体のリユース窓口を確認する

環境省は市町村向けに「使用済製品等のリユース取組促進のための手引き」を公表しており、自治体が取り得るリユース促進の方式として、リユース事業者紹介方式、交換掲示板方式、イベント方式、常設交換方式、リユース品回収方式、市町村回収後選別方式という六つの型を紹介している(環境省「市町村による使用済製品等のリユース取組促進のための手引き」)。実際の取組例として、東京都八王子市は品物の持ち込みが難しい市民のために個別回収を行い、福島県郡山市は粗大ごみとして出される家具類やスポーツ用品、子ども用品を対象にリユーススポットでの収集・配布を実施している(環境省「令和6年度使用済製品等のリユースに関する自治体モデル実証事業…採択事業について」)。実家のある自治体のごみ・リサイクル関連のページで、こうした窓口が設けられていないか確認する価値がある。粗大ごみとして出す前に、リユースに回せる品目かどうかを一度調べてみるだけでも選択肢は広がる。

3-2. 衣類は回収ボックスや地域のリユースイベントを通じて

環境省は衣類についても、サステナブルファッションの推進と経済対策の両面から「使用済衣類回収のシステム構築に関するモデル実証事業」を進めており、採択された自治体では子ども服の無料回収・配布、公共施設への回収ボックスの設置、リユースイベントの開催といった、住民が参加しやすい仕組みが展開されている(前掲・環境省報道発表)。アパレル企業の店頭回収に持ち込む方法もあるが、回収対象の品目や状態の条件は店舗・企業ごとに幅があり、公式サイトの記載を一度確かめておくだけで無駄足を防げる。

3-3. 未開封の食品はフードドライブ・フードバンクへ

仏壇へのお供え物や、まとめ買いされていた保存食のように、未開封のまま残る食品が出てくることもある。農林水産省は、食品企業の製造工程で発生する規格外品などを引き取り、福祉施設等へ無償で提供する活動を「フードバンク」と位置づけ、食品ロス削減を図る手段の一つとして支援している(農林水産省「食品寄附」)。家庭から未利用食品を持ち込む窓口は「フードドライブ」と呼ばれ、自治体が直接運営するものと、コンビニやスーパーなど民間事業者と自治体が協定を結んで運営するものがある。たとえば東京都港区の窓口では、包装や外装が破損していない、生鮮食品以外、未開封で賞味期限まで2か月以上あり、常温保存が可能な食品を受け付けている(港区「フードドライブ」受付窓口)。受け入れ条件は窓口ごとに幅があり、港区の基準がそのまま他の自治体にあてはまるわけではない。

4. 価値がありそうな遺品は、寄付する前に立ち止まる

骨董品や美術品、由緒のありそうな古い品が出てきた場合、それを美術館や博物館に寄贈したいと考える人もいるだろう。ただし、価値の見極めがつかないまま独断で寄付先に渡してしまうと、後になって相続財産の一部を承知の上で動かしたと評価されるおそれがある。高価な遺品が見つかった場合にまず何を確認すべきかは、遺品整理で高価なものが見つかったら?勝手に処分しないための民法と相続税の基礎知識で扱った通りで、寄付するかどうかを決める判断は、その品が相続財産全体の中でどの程度の価値を持つのかを確かめたあとに来る。

相続財産をまとまった形で公益法人等に寄付する場合には、税制上の特例も関わってくる。国税庁は、相続や遺贈によって取得した財産(生命保険金や退職手当金を含む)を、国・地方公共団体、独立行政法人や国立大学法人、公益社団法人・公益財団法人、学校法人、社会福祉法人、認定NPO法人、公益信託といった一定の法人等に寄付した場合、その財産には相続税がかからないとする特例を設けている(国税庁「No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき」)。この特例を使うには相続税の申告書の提出期限までに寄付を終えている必要があり、寄付先の法人は寄付の時点ですでに設立されているものに限られる。寄付を受けた法人が2年以内に要件から外れたり、財産を公益目的の事業に使わなくなったりした場合には、非課税の扱いが取り消される点にも注意がいる。日用品程度の寄付でこの特例が関係する場面はほとんどなく、まとまった資産価値のある遺品を寄付先として選ぶときにだけ、申告期限との兼ね合いが実務上の論点として浮かび上がる。

5. 「寄付」を名乗って持ち去る業者との見分け方

寄付という言葉には、無料で気軽に手放せるという響きがある分、悪質な業者が付け入りやすい面もある。見分ける手がかりはいくつかある。一つは、引き渡した際に受領証明や領収書を発行してくれるかどうかだ。自治体やNPO法人が運営する正規の窓口であれば、寄付として受け付けた記録を残す運用になっていることが多い。もう一つは、その窓口が自治体の公式サイトに掲載されている、あるいは認定NPO法人としての実績が確認できるかどうかで、名前も所在地もはっきりしない事業者が「寄付になります」とだけ説明して大量の家財を運び出そうとする場合は、実態が無許可の廃品回収である可能性を疑ったほうがいい。その場で「思ったより量が多いので追加費用がかかる」などと言い出す業者への対応は、廃品回収との違いを扱った記事で触れた無許可業者のトラブル事例とまったく同じ構図になる。

「もったいない」という気持ちが先に立つときほど、誰の遺産をどこに渡すのかという二つの確認を、寄付先に品物を積み込む前に済ませておきたい。

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