遺品整理でSuicaやPASMOが何枚も見つかったら?残高の払いもどしと、死亡時の手続きがはっきりしない理由

定期入れを片付けていると、使いかけのSuicaが出てくる。別の引き出しからは、通勤定期が入ったままのPASMOも見つかった。チャージ残額はいくらか残っているようだが、カードには持ち主の名前が印字されている。現金や預金なら迷わず遺産分割の対象だとわかるが、この小さなプラスチックのカードをどう扱えばいいのか、いくら調べても明確な答えが見つからない。実はSuicaもPASMOも、残高は遺族が引き継げる財産にあたる一方で、本人が死亡した場合の払いもどし手続きを、鉄道会社自身がはっきりと定めていない。

1. Suica・PASMOの残高は、法律上「遺族が引き継ぐ財産」にあたる

SuicaやPASMOにチャージされた金額は、資金決済に関する法律第3条第1項が定める「前払式支払手段」にあたる(衆議院「資金決済に関する法律」)。民法896条は、相続人が相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めており、この財産的価値も例外ではない。現金や預金と同じように、Suica・PASMOのチャージ残額も遺産分割の対象になる。

この性質はSuica・PASMOに限らず、PayPayや楽天Edyといった他の電子マネーにも共通する。電子マネー全体の相続可否やポイント・マイルとの違いについては、別記事でより広く扱っている。ここではSuica・PASMOという交通系ICカードに絞り、残高を実際に手にするための手続きと、そこで実際に突き当たる壁を具体的に見ていく。

2. 払いもどしの金額は「残額マイナス220円プラス預り金500円」

SuicaとPASMOは発行会社が異なるが、払いもどしの計算方法はほぼ同じ仕組みになっている。JR東日本の公式サイトによれば、Suicaの払いもどし額は、チャージ残額から手数料220円を差し引いた額に、預り金(デポジット)500円を加えた金額になる。残額が220円以下であれば、預り金500円のみが返金される(JR東日本「Suicaの払いもどし」)。東京都交通局が案内するPASMOの払いもどしも、SF残額(チャージ残額)から手数料220円を差し引き、デポジット500円を加えるという同じ計算式で、残額が手数料以下の場合はデポジット500円のみが戻る(東京都交通局「PASMO払いもどしのご案内」)。カード自体はJR東日本またはPASMO加盟各社からの借り物という位置づけで、払いもどしに応じてカードそのものを返却する扱いになる。

手続きができる窓口も決まっている。PASMOは都営地下鉄各駅や都営バス営業所、定期券発売所など、加盟する各社の窓口が対象になる。どちらも、記名式のカードや定期券が入ったカードを払いもどす場合は、運転免許証やマイナンバーカードなど本人確認ができる公的証明書の提示が求められる。

3. 「代理人による手続き」の原則と、死亡している場合に生じる食い違い

家族が故人のカードを窓口に持ち込む場合、Suicaの公式案内は「記名人本人の委任状」と「代理人本人の証明書」の両方を求めている。委任状には決まった書式はないとされているが、委任状という文書は、委任する本人が自分の意思で作成し署名することを前提にした仕組みだ。本人がすでに死亡している場合、この前提そのものが成り立たない。

ここで重要なのは、Suica・PASMOのどちらの公式サイトも、契約者が死亡した場合の取り扱いを明記していないという事実だ。「死亡の場合は委任状の代わりに何を提出すればよいか」という問いに対する答えが、窓口の案内ページには書かれていない。これは制度に欠陥があるという話ではなく、物理的なカードの払いもどしという業務が、そもそも本人がその場で手続きするか、本人の意思で委任するかという前提で設計されていることの裏返しだと考えたほうが正確だ。実際に死亡を理由に払いもどしを申し出た場合、死亡診断書や死亡届記載事項証明書といった死亡を証明する書類の提示を窓口で求められる可能性は高いが、それが委任状の代わりとして全国どの窓口でも一律に認められるかどうかは、公開されている情報からは判断できない。推測で窓口に向かうより、持ち込む前に死亡の事実を電話で伝え、その場で求められる書類を先に聞いておく。これが遠回りを避ける唯一の道筋になる。

4. スマホの中のSuica・PASMOには、死亡時専用の手続きがすでに用意されている

物理カードの案内に欠けている死亡時の手続きは、実はスマートフォンに搭載するモバイル版にはすでに明文化されている。モバイルSuicaの公式案内によれば、会員が死亡した場合は、死亡診断書または死亡届記載事項証明書の写しと、払いもどしを受ける人の身分証明書の写しをモバイルSuicaサポートセンター宛に郵送したうえで、退会・払いもどし事由に「会員本人死亡」と入力してオンライン申請する手続きが用意されている(JR東日本「モバイルSuica会員本人が亡くなった場合」)。

モバイルPASMOも同様の仕組みを持つ。公式FAQによれば、会員専用の退会・払いもどしフォームから代理人が申請し、サポートセンターから案内を受けたうえで、会員本人の死亡を証明する書類(死亡診断書や死亡届記載事項証明書など)の写し1点と、代理人の本人確認書類の写し1点を郵送する。返金先の金融機関口座は、代理人自身の名義で入力する(モバイルPASMO「会員本人が亡くなった場合の手続き」)。

つまり、同じSuica・PASMOという名前のサービスでありながら、スマホ版には死亡時の正式な手続きが用意され、カード版にはその案内が存在しないという非対称な状態になっている。故人のスマホにモバイルSuicaやモバイルPASMOが入っていた場合は、物理カードより手続きの見通しが立てやすい。手元に残っているのが物理カードだけなら、この違いを踏まえたうえで窓口に相談する必要がある。

5. SuicaとPASMOは窓口が別、他社発行のカードも同様

SuicaとPASMOは全国相互利用サービスの対象で、どちらのカードでも互いのエリアの電車やバスに乗れる。しかし払いもどしの窓口は相互利用の対象にならない。JR東日本の公式案内は、PASMOやICOCAなど他社が発行したICカードはJR東日本では払いもどしができず、各発行会社の窓口に申し出る必要があると明記している。地域連携ICカードについても、定期券部分のみJR東日本で払いもどせるが、カード本体は発行事業者の窓口での手続きが必要になる。

実家や故人の自宅から複数枚のICカードが出てきた場合、一枚ずつ発行会社を確認し、それぞれの窓口に持ち込む必要がある。東京近郊で生活していた故人であれば、SuicaとPASMOの両方が出てくることも珍しくない。この構造を先に把握しておくだけで、一つの窓口で済むはずだと思い込んで二度足を運ぶ手間がなくなる。

6. 定期券やバス定期が入っている場合は、先にそちらの手続きが必要

カードに通勤定期や通学定期が搭載されている場合、定期券部分の払いもどしには未使用期間分の返金が関わってくるため、通常のチャージ残額の払いもどしより一手順増える。JR東日本の案内では、バス定期券が搭載されたSuicaは、先にバス営業所でバス定期券の払いもどしを済ませたうえでないと、カード自体のチャージ残額の払いもどしに進めない。他社が発行した定期乗車券の情報が入っているカードも同様に、発売会社での手続きが先になる。故人の通勤・通学の経路によっては、JR、私鉄、バス会社の三者それぞれに連絡が必要になる場合もある。

7. 10年間使わないと失効する — 見つけたら先延ばしにしない理由

Suicaには、最後に機器で利用した日から10年間一度も使われなかった場合に失効するという規定がある。JR東日本の公式案内によれば、失効後はカードが使えなくなるが、その後も窓口でチャージ残額から手数料を差し引いた額に預り金500円を加えた金額を払いもどすことができる(JR東日本「Suicaカードの失効について」)。故人が何年も前から使っていなかったカードであれば、この失効の基準にすでに近づいている可能性がある。残高そのものが消えてなくなるわけではないとしても、手続きを先延ばしにするほど、窓口での確認作業は増えていく。

8. 相続税の申告では、現金や預金と合算して計上する

SuicaやPASMOのチャージ残額は、死亡時点の金額をそのまま現金・預貯金と合算して相続税の申告書に計上する。評価方法に迷う余地はほとんどなく、他の電子マネーの残高と同じ扱いになる。複数枚のカードが見つかった場合は、窓口で払いもどしを受ける前に、それぞれの残額を相続人の間で共有しておく。相続税の申告が必要かどうかの判断基準や、基礎控除・申告期限の考え方は別記事「相続税の申告が必要かどうかの判断基準」で扱っている。

9. 相続放棄を考えているなら、使う前に手を止める

残額が数百円から数千円程度だと、相続放棄を検討している最中でも、つい自分の交通費として使ってしまいたくなる。しかし民法上、相続人が相続財産の全部または一部を処分すると単純承認をしたものとみなされ、あとから相続放棄や限定承認を選ぶ道が閉ざされる(法定単純承認)。相続放棄をするかどうかを判断できる期間は、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内であり、この期間の考え方は相続放棄・相続税の期限に関する記事で解説している。サブスクリプションの契約が死亡後も止まらず相続人に請求が続く構造について扱った別記事でも触れたとおり、「止める・払いもどしを受ける手続き」と「そこで動くお金をどう使うか」は分けて考える必要がある。故人の口座やカードが見つかったときの横断的な調べ方全体についてはデジタル遺品の記事にまとめている。

窓口に行く前に、死亡の事実を先に伝える

SuicaやPASMOの残高は、紛れもなく遺族が引き継ぐ財産でありながら、物理カードの払いもどしという業務だけが、本人がその場にいることを前提に設計されたまま残っている。この食い違いを埋める明文化されたルールは、少なくとも公開されている案内の範囲には存在しない。窓口に向かう前に、まず故人の死亡という事実を電話や問い合わせ窓口で伝え、その場でどの書類が必要になるかを確認する。この一手間が、何も知らずにカードだけを持ち込んで手続きが進まないという事態を避ける、いちばん確実な道になる。

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