警察が保管する遺留品はいつ返ってくる?孤独死・事故死のときの引き渡し手続きと、相続放棄前の注意点

警察から「ご自宅で亡くなっているのが見つかりました」と連絡が来て、遺体を確認したあと数日が経つと、今度は「検視が終わったので、ご遺体と所持品をお引き取りください」という連絡が入る。指定された警察署に向かうと、故人の遺体とともに渡されるのは、財布や通帳、現金、スマートフォンといった身の回り品一式だ。相続放棄を考えている家族にとって、この「遺留品」をどう受け取ればいいのかは、遺品整理そのものより先に突きつけられる問題になる。

1. 警察はなぜ遺留品を一時的に預かるのか

自宅で一人暮らしをしていた人が亡くなった場合や、死因に事故・自殺・事件性の疑いが残る場合、警察はまず遺体を保護し、死因や身元を調べる。この手続きの根拠になっているのが「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」(死因・身元調査法)である。同法第10条第1項は、身元が判明した取扱死体について、警察署長が「遺族その他当該取扱死体を引き渡すことが適当と認められる者」に対し、死因等を説明したうえで「着衣及び所持品と共に当該取扱死体を引き渡さなければならない」と定める。身元が分からない場合は、第2項により所在地の市町村長に引き渡される。つまり所持品は遺体そのものと同じ枠組みで扱われ、法律上「遺族に返すべきもの」と明確に位置づけられている。

この所持品の中身は、財布・現金・通帳・スマートフォン・腕時計・衣類など、故人が身につけていたもの、あるいは室内で発見され事件性の確認のために一時的に持ち出されたものが対象になる。家具や家電のような大きな遺品は含まれず、あくまで「遺留品」と呼ばれる個人の携行品が中心になる。

一方、死因に事件性の疑いが残る場合は扱いが変わる。刑事訴訟法221条は、被疑者やその他の者が遺留した物、または任意に提出された物を、令状なしに警察が取得できる「領置」という手続きを定めている。領置は所有者の意思に反して強制的に物を取得するものではないため任意処分に分類され、令状は不要とされる。単なる病死・自然死であれば所持品はそのまま死因・身元調査法の枠組みで速やかに遺族へ引き渡されるが、事件性が疑われている間は、捜査や司法解剖のための証拠として警察・検察に留め置かれる期間が生じる。

2. 「遺留品」「遺失物」「遺留分」は何が違うのか

「遺留品」という言葉に法令上の統一された定義があるわけではない。一般に使われる「遺品」は、故人が残した家具や不動産まで含む幅広い言葉であるのに対し、警察や病院・介護施設が管理する場面での「遺留品」は、故人が身につけていた財布やスマートフォンなど、持ち運びできる範囲の所持品を指して使われることが多い。似た言葉に「遺失物」があるが、これは生きている人の落とし物を対象にした遺失物法という別の制度で、代理人が受け取る場合は委任状の提出を求める運用になっており、死者の所持品を引き渡す死因・身元調査法とは根拠法も窓口も異なる。さらに「遺留分」は音が似ているだけで中身は全く別の相続法上の概念で、相続人に保障された最低限の取り分を指す。こちらの詳しい内容は遺留分・特別受益・寄与分の記事で扱っている。

3. 遺留品はいつ・どうやって遺族の手元に戻るのか

事件性がなく検視・検案だけで死因が確定した場合、遺留品は遺体の引き渡しとほぼ同じタイミングで返却されることが多い。都道府県警察は死因・身元調査法の運用にあたり、独自の「死体取扱要領」を定めている。たとえば愛知県警察の死体取扱要領第9条第1項は、死体と所持品を引き渡す際、受け取る者から「死体及び所持品引取書」(死体取扱規則別記様式第2号)を徴取しなければならないと定めている。つまり現場では、警察官が持ち物の中身をあらかじめ確認したうえで、遺族が受け取ったことを書面で確認する手続きが踏まれている。持ち帰る前にその場で所持品の一覧を確認し、数量や内容に疑問があればその場で警察官に尋ねておいたほうがよい。

これに対し、事件性の疑いがあって遺留品が刑事訴訟法上の「領置」の対象になった場合は、話が変わる。領置された物は捜査・公判の証拠として扱われるため、捜査機関が留置の必要がないと判断するまで還付されない。還付の考え方について、弁護士事務所の解説では「刑事訴訟法123条により、押収物で留置の必要がないものは、被告事件の終結を待たないで、決定でこれを還付しなければならない」とされる。検察が事件を扱う段階に移ると、法務省の内部規程である証拠品事務規程第47条は、還付を命じる決定があったときは証拠品を還付し、受け取った者から「還付請書」を徴するとしている。事件性の有無がはっきりしないうちは、遺留品がいつ戻るか見通しが立てにくいということでもある。

4. 受け取りに行けるのは誰か

死因・身元調査法10条の文言は「遺族その他当該取扱死体を引き渡すことが適当と認められる者」というもので、相続人の中から代表者を一人指定するといった細かいルールを法令自体は定めていない。実務上は、警察からの連絡を受けた人が窓口になり、本人確認のうえで引き渡しを受ける運用になっているとみられるが、相続人が複数いる場合に誰が受け取るべきかを直接定めた公的な基準は見当たらない。

もっとも、遺留品の中身を独断で処分したり、他の相続人に知らせずに持ち帰ったりすれば、のちの遺産分割や相続放棄の判断で相続人同士のあつれきを生みかねない。受け取りに行く前に、他の相続人にも「警察から連絡が来たこと」「いつ、何を引き取る予定か」を共有しておくと、あとから「知らないうちに遺品が動いていた」という不信につながりにくい。相続人が遠方に住んでいて自分では受け取りに行けない場合の進め方は、遠方在住の遺品整理の記事でも触れている。

5. 受け取る前に立ち止まって考えたいこと(相続放棄との関係)

遺留品の中に現金やキャッシュカード、通帳が含まれていた場合、これらは相続財産そのものにあたる。相続放棄を検討している場合、価値のある相続財産を受け取って自分のために使ってしまうと、民法921条1号の「相続財産の処分」にあたり、単純承認したとみなされて相続放棄ができなくなるおそれがある。何が「処分」にあたるかの具体的な判断基準や裁判例は、法定単純承認の記事、経済的価値の乏しい遺品と高価な遺品の線引きは形見分けの記事で扱っている通りだが、警察から返された遺留品も、通常の遺品整理で出てくる財産と法的な扱いは変わらない。

ここで誤解されやすいのが、「遺留品の受け取りを拒否すれば、それだけで相続放棄したことになる」という考え方だ。受け取りを拒否すること自体に法的な意味はなく、相続放棄が効力を持つのは、あくまで家庭裁判所に対して正式に申述し、受理されたときに限られる(民法938条)。受け取りを保留したいのであれば、警察に対して「相続放棄を検討している」と伝えたうえで、現金や通帳など価値のあるものにはできるだけ手をつけず、身分証明書や衣類など換価価値の乏しいものだけを預かるといった対応が現実的だ。判断に迷う場合は、受け取り自体を先延ばしにできないか警察に相談してみるのも一つの方法になる。

なお、故人が賃貸物件に一人で住んでいて孤独死だった場合は、警察が持ち出す遺留品とは別に、部屋に残された家財の扱いや特殊清掃の要否が問題になる。この点は孤独死・特殊清掃の記事で扱っている。

6. 相続人がいるのに引き渡されないまま残る遺留金もある

意外に思えるかもしれないが、相続人の存在が分かっていても、遺留品や遺留金が実際には遺族に引き渡されないまま自治体に留め置かれているケースが一定数ある。総務省行政評価局が公表した「遺留金等に関する実態調査 結果報告書」(2023年3月28日公表)では、墓地埋葬法にもとづき自治体が火葬等を行った死亡人のうち相続人の存在が判明していた193件のうち、120件(62.2%)で遺留金等の引き渡しが実現していなかったと報告されている。理由としては、生前から交流が途絶えていたために受け取りを拒否された、債務超過が懸念されて相続放棄を検討している、自治体が文書で連絡しても返答がない、といったものが挙げられている。連絡がつかない、あるいは受け取りを拒まれたままになっている金銭は、最終的に弁済供託の手続きを通じて処理されることがある。

この調査結果を受けて、総務省は厚生労働省と法務省に対し、相続人への預貯金引き出しに関する法的根拠の周知や供託制度の運用改善を求める勧告を行っている。身寄りのない人が亡くなった場合の相続財産清算人や特別縁故者、自治体の関与については、身寄りのない人の遺品整理の記事で詳しく扱っている。自分が相続人として連絡を受けているのに「まだ気持ちの整理がつかない」「相続をどうするか決めかねている」という理由で受け取りを先延ばしにしている場合も、この統計に含まれるケースの一つになりうる。受け取るかどうかを決めかねているなら、その判断そのものを先延ばしにしていることを、少なくとも連絡してきた自治体や警察には伝えておいたほうが、あとの手続きが混乱しにくい。

警察や自治体の窓口で渡される遺留品は、制度上は「引き渡さなければならないもの」として扱われているが、受け取る側にとっては、それが相続放棄の選択肢を狭めてしまう最初の一歩になりかねない。中身を確認する前に、まずは何を受け取り、何を保留するかを自分で決めておくことが、その後の判断を狭めないための唯一の備えになる。

この記事をシェアする

記事一覧へ戻る

コメント Comments

コメント一覧

コメントはありません。

コメントを残す

トラックバックURL

https://anshin-life.biz/archives/6474/trackback

関連記事 Relation Entry