実家を売却・解体するとき、家の中の遺品(残置物)はどう処分する?引き渡し前に片付けが必要な理由

実家の売却を不動産会社に相談したところ、「中の家具や荷物は引き渡し前にすべて片付けておいてください」と言われた。あるいは解体の見積もりを取ったら、「建物の解体費用に、中に残っている家財の処分は含まれていません」と説明された。遺品整理をひと通り終えたつもりでも、大きな家具や仏壇、古い家電が部屋の隅に残ったまま、売る・壊すという「その先」の話に進めない遺族は少なくない。この残された家財は「残置物」と呼ばれ、誰が・どの許可で・いつまでに片付けるのかという、遺品整理そのものとは別の実務上の壁になる。

1. 「残置物」とは何か、誰のものになるのか

残置物という言葉に法令上の一義的な定義はないが、行政の実務資料では一貫して「建築物の所有者や占有者等が残した廃棄物(動産)」という意味で使われている。栃木県が公表している解体工事時の残置物に関する案内は、残置物を「建築物の所有者等が残置した廃棄物」と説明している(栃木県「解体時の残置物」)。遺品整理の場面でいう残置物とは、要するに仕分けや搬出が済んでいない遺品そのものであり、法律上は相続人が共有する動産(相続財産)である。売却や解体の話が具体的に動き出す段階でも、この所有関係が変わるわけではない。誰の持ち物でもない「ゴミ」として扱われがちだが、複数の相続人がいる場合は、独断で処分すると後から「勝手に処分した」と問題になる遺品と地続きの存在だと考えたほうが実情に近い。

不動産の実務では、残置物とよく似た言葉に「付帯設備」がある。ビルトインのキッチンや洗面台、照明器具、給湯設備のように建物に固定され、建物と一体として売買の対象になるものは付帯設備であり、原則としてそのまま引き渡しの対象になる。これに対し、置くだけで移動できる家具や家電、仏壇、衣類、布団などは残置物であり、建物本体とは別に所有者が処分方法を決める必要がある動産だ。見積もりや契約の場面で「これは残していいのか、持って行くべきものなのか」を一つずつ確認するときの最初の分け方は、この「固定されているか、動かせるか」という基準になる。

2. 売却するとき、残置物を残したまま引き渡せるか

不動産の仲介実務では、残置物が残ったままの状態を「現状有姿」と呼ぶことがある。理論上、売主と買主が合意すればどのような状態で引き渡すことも可能で、老朽化が進んで解体前提で売る土地のような場合は、残置物の撤去を買主側が引き継ぐ前提で契約されることもある。問題になるのは、合意の内容がはっきりしないまま話が進むケースだ。全日本不動産協会が公表している不動産取引の法律相談では、土地上の建物や工作物を解体・撤去してから引き渡すと契約書に明記していたにもかかわらず、コンクリートがらなどの残存物が見つかった事案について、売主が「新たな建物や工作物の建設に支障が生じない程度に」解体物を撤去する債務を負っていたと判断された裁判例が紹介されている(全日本不動産協会「不動産売買に関する法律相談」)。これは建物の残骸についての事案だが、示している考え方は残置物にもそのまま及ぶ。契約書に「残置物のない状態で引き渡す」と書いておきながら家財が残っていれば、契約どおりの引き渡しができていないという契約不適合の問題になり、買主から追完(撤去のやり直し)や損害賠償、場合によっては契約の解除を求められる原因になりうる。逆に、残置物を残したまま引き渡すことを買主が了承しているのであれば、その内容を契約書にはっきり明記しておくことが、後々の水掛け論を避ける唯一の方法になる。

老朽化した空き家を売る場合、建物を解体してから更地で引き渡す契約になることも多いが、その場合も「解体工事に家財の撤去まで含まれているか」は別途確認が必要な事項になる(次の章で詳しく扱う)。なお、相続した空き家を売却する際に使える譲渡所得の特例については、耐震改修や解体が適用要件にかかわってくる場合があり、別記事「空き家になった実家を売るなら「3,000万円特別控除」は使えるか?」で扱っている。

3. 解体するとき、業者が残置物も一緒に処分してくれるとは限らない

「解体を頼めば、中の荷物もまとめて片付けてもらえる」と考えている遺族は多いが、これは制度上、当然には成り立たない前提だ。栃木県の案内は、建築物の解体等を行う際には「建築物の所有者等が、工事の着手前に残置物を適正に処理する必要があります」としたうえで、「元請業者が排出者として残置物を処理することはできません」と明記している(栃木県「解体時の残置物」)。解体工事で生じる木材くずやコンクリートがらは「産業廃棄物」として建設業者が扱えるのに対し、家庭にあった家具や布団、家電といった残置物は一般家庭の場合「一般廃棄物」に分類され、扱える業者の許可の種類そのものが違う。桐生市が公表している残置物の処分方法の案内も、建築物の所有者等が自ら清掃センターに運搬するか、市の許可を受けた廃棄物収集運搬業者に依頼するかの二択を示し、「許可を受けていない者に運搬を依頼することはできません」「他者を経由して運搬を依頼することも違法」と注意を促している(桐生市「残置物の処分方法」)。環境省の資料も同様に、家庭の残置物は一般廃棄物にあたり市町村の指定する方法で処理するよう求め、無許可の業者に収集運搬を委ねる行為が廃棄物処理法上の重い罰則(5年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金)の対象になりうるとしている(環境省「解体工事に伴う残置物の適正処理について」)。解体業者の見積書に「残置物処分」という項目があっても、その業者自身が一般廃棄物処理業の許可を持っているか、それとも別途許可業者(遺品整理業者を含む)へ再委託する形になっているのかは、契約前に確認しておく価値がある。実務上は、解体業者が残置物の撤去先として許可を持つ遺品整理業者を紹介し、解体工事とは別契約として先に残置物だけを片付けてから解体に着手する、という順番で進むケースが多い。許可を持っているかどうかは業者の自己申告に頼らず、工事を行う市区町村の廃棄物対策担当窓口が公表している一般廃棄物収集運搬業者の一覧で確認できる。一般廃棄物処理業の許可という仕組みそのものについては、別記事「遺品整理と廃品回収は何が違う?「一般廃棄物処理業」の許可という分かれ目を解説」で詳しく扱っている。

4. 残置物を「勝手に処分」してよい場合とそうでない場合

片付けが進まないことに業を煮やして、誰かが独断で大量に処分してしまう、ということも実際には起こりやすい。ここで問題になるのが二つの異なる論点だ。一つは、相続人が複数いる場合に、他の相続人に断りなく遺品(残置物)を処分してよいかという内輪の問題である。この点は別記事「遺品整理は相続人全員でしなければいけない?一人で進めていい範囲と、相続人以外が手伝うときの注意点」で扱っている。もう一つは、家の所有者や占有者ではない第三者(買主・不動産業者・施設の管理者など)が、権利者に無断で残置物を処分してよいかという問題だ。日本の民事法は、権利者が裁判所の手続きを経ずに実力で権利を実現すること(自力救済)を原則として禁じており、残置物に占有権や経済的価値が認められる限り、無断処分は不法行為として損害賠償責任を問われる可能性がある。この自力救済禁止の原則がどこまで及ぶか、無断処分が刑事責任(器物損壊罪)にまで発展した実例については、別記事「病院や介護施設で亡くなった家族の遺品、引き取りはいつまで?施設ごとに異なる「残置物」のルール」で扱った考え方がそのまま当てはまる。売却や解体を急ぎたい気持ちがあっても、「誰の物でもないゴミ」として扱ってよい局面は、実際には限られている。

5. 相続放棄の可能性を残しているなら、売却・解体より先に確認すべきこと

故人に借金があるかもしれない、相続財産をそもそも引き継ぐつもりがないという事情があるなら、残置物の処分に手をつける前に立ち止まる必要がある。民法上、相続財産の全部または一部を処分すると「単純承認」をしたものとみなされ、後から相続放棄ができなくなる場合がある。実家の売却はもちろん、解体という選択も建物(相続財産)の処分にあたるため、法定単純承認の範囲に触れやすい行為だ。この制度の詳しい内容は、別記事「遺品を勝手に処分すると相続放棄ができなくなる?「法定単純承認」をわかりやすく解説」で解説している。相続放棄をした後であっても、放棄の時点でその家を現に占有していた人には、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまでの保存義務が残る。空き家の管理責任がこの保存義務とどう関わるかは、別記事「遺品整理を終えた実家が「空き家」になったら?特定空家・固定資産税・相続放棄の法律知識」で扱っている。売却や解体を進める前に、相続放棄の余地がまだ残っていないかを最初に確かめておく必要がある。

6. 身寄りが少ない場合・生活保護を受けていた場合

故人に身寄りがほとんどなく、相続人になり得る人が誰も名乗り出ない場合、空き家と残置物の管理は最終的に相続財産清算人の手に移る。この場合の実務は、別記事「身寄りのない人が死亡したら遺品・財産はどうなる?相続財産清算人と特別縁故者、自治体の役割を解説」で扱っている。生活保護を受けていた人が賃貸住宅で亡くなった場合の家財処分や葬祭費用の扱いについては、別記事「生活保護を受けていた人が亡くなったら遺品整理はどうなる?「葬祭扶助」の範囲と、家財処分費が出にくい理由」で取り上げている。いずれのケースも、売却や解体という選択肢そのものを検討する前提が変わってくるため、まず該当する記事で全体像を確認しておきたい。

「片付いた」と「引き渡せる」は同じではない

遺品整理を終えて部屋が片付いたことと、不動産として売却や解体に進められる状態になったことは、実務上は別の話だ。残置物が誰のものかを整理し、どの許可を持つ業者に、いつまでに撤去してもらうのかを先に決めておかない限り、契約書に押印しても引き渡しの段階でつまずくことになる。売る・壊すという判断をする前に、まずこの一点を確かめておく。

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