遺品整理で保険証券が出てきたら?受取人がすでに死亡していた場合の生命保険金の行方と、相続税の非課税枠が使えないケース

亡くなった父の机の引き出しから、色あせた生命保険の証券が出てきた。契約日は35年前、受取人欄には母の名前が書かれている。だが母は5年前にすでに他界している。契約者も被保険者も父のままで、保険は解約された形跡もない。こういうとき、この保険金はいったい誰の手に渡るのか。受取人として指定されていた人がこの世にいない保険契約は、遺品整理の現場で決して珍しいものではなく、しかも「誰が受け取るか」によって遺産分割の対象になるかどうかも、相続税の非課税枠が使えるかどうかも変わってくる。

1. 保険証券が出てきたら、まず3つの名前を確認する

生命保険の証券には、契約者(保険料を払っていた人)、被保険者(その人が亡くなったときに保険金が出る対象の人)、保険金受取人(実際にお金を受け取る人)という3つの立場が記載されている。遺品整理で見つかる保険証券の多くは、亡くなった本人が契約者兼被保険者になっているケースで、受取人欄には配偶者や子どもの名前が書かれているのが一般的だ。問題になるのは、その受取人欄に書かれた人が、被保険者よりも先に亡くなっているケースである。

長期間解約せずに持ち続ける生命保険は、契約から数十年が経過していることが多い。その間に受取人として指定されていた配偶者や親が先に亡くなり、契約者本人が変更手続きを忘れたまま、あるいは変更しないまま亡くなるということは、保険会社の相談窓口や専門家の解説サイトでも繰り返し取り上げられるほど、実際によく起きている。

2. 受取人が先に死亡していたら、保険金は誰のものになるか

2-1. 保険法46条が定める「相続人全員への移転」

この場面を直接定めているのが保険法46条である。保険金受取人が保険事故(被保険者の死亡)の発生前に死亡していたときは、その受取人の相続人全員が、新たに保険金受取人になると定められている。つまり、受取人が先に死亡していても保険契約自体が無効になるわけではなく、法律の規定によって自動的に次の受取人が決まる仕組みになっている。ここでいう「相続人」は、被保険者(亡くなった本人)の相続人ではなく、あくまで先に死亡した受取人自身の相続人である点を取り違えないようにしたい。

2-2. 受け取る割合は「均等」であって法定相続分ではない

複数の相続人が新たな受取人になった場合、それぞれがどれだけの割合を受け取るかも実務上よく問題になる。この点について法務省の保険法部会資料は、最高裁平成5年9月7日判決(民集47巻7号4740頁)を踏まえ、「その権利の割合は、民法第427条の規定の適用により、別段の意思表示がないときは、平等の割合になると考えられる」としている。分割債権を複数の債権者が持つときは等しい割合で権利を持つとする民法427条の考え方が、保険金請求権にもそのまま当てはまるということだ。したがって、配偶者と子どもといった法定相続分に差がある組み合わせであっても、保険金は原則として頭数で均等に分けられる。公益財団法人生命保険文化センターの解説や各保険会社のFAQでも同様の説明がされており、実務上定着した扱いといってよい。

2-3. 血のつながりのない人に保険金が渡ることもある

ここで見落とされがちなのが、新たに受取人になる「先に死亡した受取人の相続人」が、被保険者自身の相続人と同じ顔ぶれとは限らないという点だ。たとえば父(被保険者)の保険の受取人が母だったが、母が再婚を経ている、あるいは母に前婚の子がいた場合、母の相続人には父と血のつながりのない人が含まれることがある。受取人変更の手続きを長年放置した保険ほど、こうした想定外の人に保険金が渡る可能性が高くなる。

3. この保険金は遺産分割の対象になるのか

死亡保険金は、民法上は受取人固有の財産であり、被保険者の遺産そのものではない。受取人が先に死亡していて保険法46条により相続人が新たな受取人になった場合も、この性質は変わらない。したがって、原則として遺産分割協議の対象にはならず、新受取人になった人がそれぞれの持ち分に応じて保険会社に単独で請求できる。ただし、受け取る金額が遺産総額に比べて極端に大きいなど特段の事情があるときは、他の相続人との関係で特別受益に準じて扱われることがあり、この論点は遺留分・特別受益・寄与分の記事で詳しく扱っている。

受取人固有の財産であることは、相続放棄との関係でも意味を持つ。被保険者の相続を放棄した人であっても、自分が生命保険金の受取人になっている限りは保険金を受け取ることができ、これを受け取ったこと自体が相続を承認したとみなされる法定単純承認には当たらない。これは保険法46条によって新たに受取人になった相続人が受け取る場合も同じで、混同して保険金の受け取りをためらう必要はない。

4. 相続税の扱いは「誰が受け取るか」で変わる

4-1. みなし相続財産として課税される

民法上は受取人固有の財産であっても、税法上の扱いは別である。被相続人が保険料を負担していた生命保険から支払われる死亡保険金は、相続税法3条1項1号により「相続又は遺贈により取得したものとみなす」みなし相続財産として、相続税の課税対象になる。保険法46条によって新たに受取人になった人が受け取る場合も、この課税の枠組み自体は変わらない。

4-2. 非課税枠が使えるのは「被相続人の相続人」に限られる

死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」という非課税限度額があるが、国税庁の説明では、この非課税規定は相続人が受け取った場合に適用されるものであり、相続人以外の人が取得した死亡保険金には適用がないと明記されている。ここでいう「相続人」は被相続人、つまり亡くなった被保険者自身の相続人を指す。保険法46条によって新受取人になった人が、たまたま被保険者の子や配偶者でもある場合はこの非課税枠を使えるが、被保険者とは血縁関係のない、先に死亡した受取人側の親族にすぎない場合は、この非課税枠の対象から外れ、受け取った金額の全部が相続税の課税価格に算入されることになる。税理士事務所の解説でも、このケースでは「お亡くなりになった方の相続人ではないため、非課税枠の条件を満たさない」と整理されている。

4-3. 相続税額の2割加算にも注意する

さらに、新受取人が被相続人の配偶者・親・子(代襲相続人となった孫を含む)のいずれにも当たらない場合は、相続税額が2割加算される対象にもなりうる。国税庁の解説によれば、2割加算の対象は被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった孫を含む)および配偶者以外の人とされており、兄弟姉妹や血縁関係のない親族はここに含まれる。保険証券を見つけて受取人欄の人がすでに死亡していると分かった時点で、新たな受取人が被保険者から見てどういう続柄になるのかを確認しておくことが、税負担を見誤らないための第一歩になる。

5. 受取人欄が空欄のまま契約されていたら

ごくまれに、契約当初から受取人が明確に指定されていない、あるいは証券からは受取人が読み取れないという契約も見つかる。多くの保険会社の約款では、受取人の指定を欠いたまま契約が存続していた場合には、被保険者の法定相続人が受取人になると定められているのが一般的とされる。ただし、この扱いは保険会社や商品ごとの約款によって細部が異なるため、判断の分かれ目は証券に記載された保険会社への直接の照会にある。

6. 実際に請求するときに必要になるもの

保険金を請求する際は、被保険者の死亡を証明する書類に加えて、先に死亡した受取人についても死亡の事実と相続関係を示す戸籍(除籍)謄本一式が必要になる。被保険者側の戸籍だけでなく、受取人側の出生から死亡までの戸籍もたどる必要があるため、通常のケースよりも書類収集に時間がかかりやすい。故人の資産全体を洗い出す作業の一環として保険証券を確認する場合は、預金口座の探し方で触れた資産調査の考え方も参考にしてほしい。

もう一つ注意しておきたいのが時効である。保険法95条は、保険給付を請求する権利は3年間行使しないと時効によって消滅すると定めており、起算点は保険事故発生の翌日、つまり被保険者が死亡した日の翌日からとされる。とはいえ、時効は保険会社が実際に主張(援用)して初めて成立するものであり、3年を過ぎたことに気づいた時点であきらめず、まずは契約している保険会社に連絡してみる価値はある。

7. 生前にできる備えは、遺言による受取人変更

この種の行き違いを防ぐ手段として、保険法44条は遺言によって保険金受取人を変更できることを認めている。平成22年4月1日の保険法施行以降に締結された契約が対象で、遺言でも受取人変更ができるという点は、生命保険会社の窓口に出向く体力や判断力が衰えた高齢者にとって現実的な選択肢になりうる。ただし、遺言による変更は、その遺言が効力を生じた後に相続人が保険会社へ通知しなければ、保険会社に対抗できないという決まりがある。つまり遺言書に書いただけでは足りず、相続人側から保険会社への通知という一手間が欠かせない。この点は遺言執行者を指定しておくと実行されやすくなるため、生前整理・エンディングノートの記事で触れた財産の棚卸しとあわせて、保険契約の受取人欄も定期的に見直しておく価値がある。遺品整理で捨ててはいけないもののとおり、保険証券そのものも安易に処分せず、受取人の状況ごと確認してから扱うべき書類のひとつである。

受取人欄の名前を鵜呑みにせず、続柄をたどってから請求する

受取人欄に書かれた名前だけを見て「もう亡くなっているから請求できない」と諦めるのも、逆に「相続人なら誰でも均等にもらえるはず」と思い込むのも早計だ。保険法46条によって受取人の相続人全員が新たな受取人になること、その割合は均等であること、そして非課税枠と2割加算は被保険者との続柄で決まることを踏まえたうえで、証券に記載された保険会社へ問い合わせ、必要な戸籍をそろえるところから始めるのが確実だ。

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