タンスの奥から現金の入った封筒が出てきた、着物や掛け軸が思いのほか状態良く残っていた——遺品整理をしていると、思いがけず高価なものに出くわすことがある。片付けを急ぐあまりその場で処分したり、見つけた人がそのまま持ち帰ったりしてしまいたくなるが、それは避けたほうがよい。相続人が複数いる場合、こうした財産は遺産分割が終わるまで相続人全員の共有に属すると民法で定められているうえ、相続税の課税対象になり得るからだ。民法と国税庁の資料をもとに、高価な遺品が見つかったときにまず何を考えるべきかを整理する。
遺品整理中に貴重品が出てきたら、まず手を止める
遺品整理を進めていると、思いがけず現金や預金通帳、指輪やネックレスなどの貴金属、掛け軸や壺といった骨とう品、あるいは株式や国債などの有価証券が出てくることがある。こうしたものを見つけたとき、片付けを急ぐあまりその場で処分してしまったり、見つけた人がそのまま持ち帰ってしまったりすることは避けたほうがよい。
相続人が複数いる場合、亡くなった人の財産は遺産分割が終わるまで相続人全員の共有に属すると民法で定められている。民法898条第1項は「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」と規定しており、遺品として見つかった財産も、誰か一人のものになったわけではなく、遺産分割協議によって取得者が決まるまでは相続人全員が共同で権利を持つ状態にある。
したがって、高価なものが見つかった場合は、その場で処分や換金をせず、いったんそのまま保管し、他の相続人にも見つかったことを伝えておくことが基本になる。遺品を独断で処分すると、単純承認とみなされて相続放棄や限定承認ができなくなる可能性があることは、「遺品を勝手に処分すると相続放棄ができなくなる?『法定単純承認』をわかりやすく解説」で取り上げた通りである。
見つけた人がそのまま自分のものにしてしまうケースも、実際には珍しくない。相続人の一人が高価な遺品を黙って持ち帰り、他の相続人に知らせないまま売却してしまうと、遺産分割をめぐる感情的なもつれに発展するだけでなく、状況によっては業務上横領罪に問われる可能性もある。この点は「遺品整理での『ネコババ』はなぜ問題になる?無断売却・着服と業務上横領罪の関係をわかりやすく解説」で扱った。見つけたその場では誰のものでもない、という原則を思い出せば、持ち帰りたい衝動にブレーキをかけやすくなる。
高価な遺品は相続税の申告にも関わる
見つかった貴重品を安易に処分できないもう一つの理由は、相続税の課税対象になり得ることである。国税庁のタックスアンサー「No.4105 相続税がかかる財産」では、相続税の対象となる財産について「現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋などのほか貸付金、特許権、著作権など金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのもの」と説明されている。宝石や骨とう品、現金なども、金銭的な価値が認められる限り、この対象に含まれ得るということになる。
相続税の申告が必要かどうかは、遺産総額が「基礎控除額」を超えるかどうかで決まる。国税庁の「No.4152 相続税の計算」によれば、基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という式で計算する。たとえば法定相続人が3人であれば基礎控除額は4,800万円になり、預貯金や不動産に高価な遺品の評価額を足した遺産総額がこれを超えなければ、原則として相続税の申告自体は不要になる。裏を返せば、遺産分割前の段階でざっくりとした財産の全体像をつかんでおかないと、高価な遺品が見つかったことで急に申告が必要な側に転じているかどうかさえ判断できない。
相続税の申告が必要になった場合、高価な遺品の存在を申告の場で見落とすと、後から指摘を受ける可能性もある。遺品整理の過程で高価なものが見つかった場合は、写真を撮るなどして記録を残し、他の相続人や、必要であれば税理士に情報を共有しておくと、その後の手続きがスムーズになりやすい。
いくらの遺品から「個別評価」が必要になるのか
相続税の申告で悩ましいのは、家財道具ひとつひとつをいちいち値付けしなければならないのか、という点だ。この点について国税庁の財産評価基本通達128条は、家庭用動産は「1個又は1組の価額が5万円以下のものについては、それぞれ一括して一世帯、一農家、一旅館等ごとに評価することができる」と定めている。つまり、食器や衣類、日用品のような細々とした家財は、1点ずつ査定しなくても「家財一式〇万円」とまとめて評価してよいということになる。逆に言えば、1個または1組で5万円を超える価値がありそうな貴金属や骨とう品、美術品などは、この一括評価の対象から外れ、個別に評価する必要が出てくる。
個別評価が必要な遺品の評価方法は、同通達129条に定めがある。原則は「売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価する」とされており、実際の取引価格や、骨とう品鑑定士のような専門家が示す評価額をもとに値段をつける。売買実例や専門家の意見が得られない場合は、同種の新品を購入したときの小売価額から、耐用年数に応じた償却費(通達130条、定率法で計算)を差し引いた金額を評価額とする。骨とう品や美術品のように売買実例が乏しいものほど、専門家に評価を依頼する必要性が高くなるというわけだ。
現金や通帳も「高価な遺品」と同じ扱いになる
タンスの引き出しや仏壇の奥から、現金の束が出てくることもある。現金や預貯金も、宝石や骨とう品と同様に金銭的価値のある相続財産にあたり、遺産分割が終わるまでは相続人全員の共有物として扱われる。見つけた現金をその場で分け合ったり、なかったことにしてしまったりすると、後から相続税の申告内容と食い違いが生じたり、他の相続人との間で疑心暗鬼を招いたりしかねない。現金が見つかった場合に具体的にどう記録を残せばよいか、税務調査とどう関わるかについては「遺品整理で捨ててはいけないものとは?相続手続きに必要な書類の保管の考え方」で詳しく取り上げている。
判断に迷ったときにできること
見つかった遺品をどう扱えばよいか判断に迷う場合、遺品整理の現場でその場しのぎの結論を出す必要はない。まずは種類や状態がわかるように写真を撮り、一覧にして他の相続人と共有する。そのうえで、遺産分割協議の中でその財産を誰が取得するか、あるいは供養に出すか手元に残すかを話し合うことになる。評価の見当がつかない骨とう品や貴金属については、遺産分割協議や相続税申告を進める前提として、専門家に相談しながら扱ったほうが、後になって評価や分配をめぐるトラブルを避けやすい。
相続人全員が「売って現金化しよう」と話がまとまっているなら、売却そのものは選択肢の一つになる。ただし遺産分割前に誰か一人が独断で売ってしまうと、相続放棄ができなくなったり、他の相続人から無断売却を疑われたりする。売却時に必要な相続人全員の同意の取り方や、売却益にかかる所得税の考え方については「遺品を売ってお金に換えたい?相続人全員の同意が必要な理由と、無断で売ると相続放棄ができなくなるリスク」で扱った通りである。
仏壇や位牌、お墓は「祭祀財産」として別扱いになる
仏壇や位牌、墓地・墓石といったものは、現金や貴金属などの一般的な相続財産とは異なる扱いを受ける。民法897条第1項は、系譜・祭具・墳墓の所有権について、通常の相続の規定にかかわらず「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者」が承継すると定めており、被相続人が生前に承継者を指定していた場合はその人が承継するとしている。同条第2項では、慣習が明らかでないときは家庭裁判所が承継者を定めるとされている。
つまり、仏壇や位牌をどのタイミングで供養に出すか、あるいは手元に残して祀り続けるかは、他の相続財産をめぐる遺産分割協議とは切り離して、祭祀を主宰する立場にある人が判断する事柄になる。遺品整理の現場でまとめて処分してしまわないよう、祭祀財産にあたるものは特に注意して扱う必要がある。仏壇を実際に処分する際の閉眼供養の進め方は「仏壇の処分はどうすればいい?閉眼供養(魂抜き)の意味と、宗派・自治体によって異なる注意点」で、祭祀を主宰する人=祭祀承継者を誰にするかで意見が割れたときの決め方は「遺品整理で仏壇や位牌を引き継ぐのは誰?『祭祀承継者』の決め方と、なりたくないときの扱い」でそれぞれ扱っている。
迷ったときほど、保管と記録を優先する
遺品整理の途中で高価なものが見つかったときにすべきことは、実はそれほど複雑ではない。その場の判断で処分したり持ち帰ったりせず、写真を撮って記録し、いったん保管して他の相続人と情報を共有する。それだけで、相続税の申告漏れや、単純承認とみなされて相続放棄ができなくなる事態、相続人同士の疑心暗鬼のほとんどは防げる。評価額が5万円を超えそうなものかどうか、仏壇や位牌のような祭祀財産にあたるかどうかを見分けられれば、次に何をすべきかもおのずと決まってくる。判断に迷うものほど、急いで結論を出さず、まず保管することを優先したい。

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